第45話 技術の切り売りと大量生産
西都市への帰還を果たした一行。こちらの保安官、警備にもハグレではないモンスターの一団の報告。そのまま馬車を進め、鍛冶屋ギルドに顔を出す。
ベック師匠は「おーす」となんとも気の抜ける挨拶をしながら入っていく。
「社長おるか? 北都市に商品売って来たぞー」
なにかの書類をチェックしていた若い男が眼鏡の奥からこちらをちらりと見て、工場に繋がるドアを開き怒鳴る。
「社長! ギルドにお客さんでーす!」
「なんだって!?」
「ギルドにお客さんでーす!!」
やはり工作機械の音が大きくて聞き取れなかったようだ。ここはいつ来てもうるさい機械が動いている。
「おう、ベックか、ちょっとまっててくれ。おい、コーヒー三杯、いや四杯な。また弟子ぃ増やしやがったか?」
「いや、こっちは店番売り子だ」
「そんなに儲かったか?」
ギルド長、サム・ムラタさんはニヤリと笑う。
「そんなでもねえ。ジョニーの幼馴染ってんでついでよ、ついで。可愛い娘っ子が売ったら売り上げ上がるかもしれんしな。それに耳と鼻が利くんでライフル、カービンのデモンストレーション担当でもある。おかげで行きがけにライカンスロープの群れ、その痕跡を早めに見つけてくれた」
師匠の声にため息が混じる。
「群れたぁ穏やかじゃねえな。なにがあった?」
世間話から流れるように西都市北都市間のライカンスロープの一団の件に入る。
「20匹からのライカンスロープ。いつものところでだれぞの一団が惨殺。山小屋に場所変えたら夜襲しかけてきやがった」
「そいつはまたやっけえだな、おい」
江戸弁のべらんめえ調がぽんぽん飛び出すギルド長。
「北都市の兵隊に
「いや、うちのもんとそっちの若い衆で追い込み漁、一網打尽だ」
サム・ムラタさんの表情が変わる。
「おいおい、普通はそんな簡単にいくもんじゃねえぞ。どんな魔法を使いやがった?」
師匠がニヤリと。
「ジョニーの魔法でな。ありものだけで……」
「するってえとなにか。猟師みてえに一匹づつでもなく引き込んでタコ殴りたあ……。若けぇなりしてえげつねえことを思いつきやがる」
「しかもあり合わせの即席でな」
「
「ジョニーの発明だ。ジョニーに聞いてくれ」
ここで師匠がこちらに振ってくる。
「ええ、まあ構いませんが、針金加工がいけるならもっと安く作る方法がありますが、どうします?」
ここが商売所か。ま、安く売ってギルド長に恩を売っておくのも悪くない。言っちゃなんだがベック師匠の工房は銃器のカスタムがメインだ。有刺鉄線の量産はムラタさんのところのほうが向いている。
「言っちゃなんですけど、これは開拓村の農地向けに考えてた防獣柵なんです。騎馬、馬車に対する都市防衛にも使えるでしょうね」
「ふっかける気かい? ま、それなりに売れるだろうし需要は確実にある」
「ベック師匠がどう考えてるかで変わってくるんですけど……」
と言って師匠のほうをちらりと見る。
「俺はジョニーの好きにさせるつもりだ。厳密にゃうちの商品ってわけでもねえ」
「では、剃刀を使わない針金だけでいける安い方法をお教えします。納品の時にはゆるく巻き取った形にしていただければ、あとは杭とコの字釘で簡単にすばやく展開できます」
「ふむ、それくらいなら。ウリにもなるしなぁ」
「それを西都市やその他都市では独占販売してくださって構いません。うちには弱小の開拓村に卸す分があれば十分です」
「「なっ」」
ベック師匠とムラタギルド長の声が重なる。
「おいおい、ベック。お前さんとこの弟子は商売ってもんを分かってんのか?」
「……むぅ」
二人とも「こいつ、お人好しすぎてカモられるタイプだ」って顔をしてる。
「代わりに北都市で仕入れてきたオートマティック拳銃の弾薬、製造代行していただけませんか?」
「おぅ、それくらいなら。つっても変なサイズじゃねえよな?」
「口径は.38で125グレイン、全長が1.28インチ、薬莢長は0.9インチです。薬莢の形状がちょっとやっかいでして」
と仕様書と設計図を提示する。
「こいつはまた、面倒なの持ち込んでくれるもんだ」
一目で難易度を理解するギルド長。
「プライマー穴の加工工程に旋盤加工を組み合わせてなんとか。でもうちじゃ数を作れないと思うんですよ。ぜひよろしくお願いします!」
リーマンエンジニア時代に培ったOJIGI発動。これではどっちが頼んでいるのか分からない。
誰かのセリフを思い出す。「立場が上の時に頭は下げるものだ」と。
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