第44話 やはり馬上はアイデアが出る
西都市への帰還当日。結局、昨日の買い出しではチンピラに絡まれるトラブルでミリーへのプレゼントと日用品、西都市では見かけなかったタバコの葉、いわゆるシャグとついでにマッチをいくつか買うくらいしかできなかった。
出国?手続きも西都市と変わらず。その規模は都市の規模と同じ程度には待ち時間もあるようだったが、商隊向けのゲートから優先的に通過となった。荷物、目的、メンバーの氏名と顔のチェックくらいで終了。やはり一般門より優遇されている。
「あれ以降、特にハグレの出没も報告されていませんが一応気をつけてくださいね」
行きの時の警備隊長さんが声をかけてくれる。
「おう、ありがとよ。お疲れさん」
師匠と隊長の軽いやりとり。ジャック・ムラタさんのところの若い衆も手慣れた感じで手続きが終わる。
「おーし、行きのこともあるし気合い入れてけ! じゃ、出発しましょう」
ジャックのかけ声にそれぞれが応じる。荷物を載せた馬車二台と周りをカバーする騎乗護衛が出発。
一路西都市へ。出国の際も特にトラブルは無く。夜には行きに襲撃された野営地までたどり着いた。何ごともなく一泊。剃刀式有刺鉄線は特に錆びることもなく残っていたので回収。
馬車の屋根の上では暇なので警備はミリーにまかせて、ちまちまと細工もののアイデア出し。ノートの端に設計図を描く。
「なにつくってるの?」
ミリーに聞かれるが。
「まだ秘密」
とだけ返す。鉄パイプと釘とバネとマッチを組み合わせて……。あ、そうだ。
「師匠! 導火線と雷管、爆薬は手に入りますか、鉱山の発破なんかに使うようなやつ!」
「おう、何100ヤードと何本要るんだ? 導火線と導爆線どっちも買えると思うが……」
なにを爆破すると思われているのか。俺は爆弾魔でもテロリストでもない。
「導火線で50ヤードかそのくらい、雷管は150本ほど、爆薬は威力やサイズによりますが100gで50回もあればしばらく困らないと思います」
「わかった、注文出しとく。で、今度は何を作る気だ?」
師匠はにやにやと笑う。俺のたくらみごとを楽しんでいるようだ。
「野営地で造った爆弾をもっと使いやすく改良します。あの時はシカ弾や弾薬から抜いた火薬を紙で包んだだけの導火線でしたから。途中で消えたら困るじゃないですか」
「OK、OK。でも西都市内では実験すんなよ?」
「はい、あと工場にあるパイプや木材の端材、古釘をもらっていいですか?」
「午前の銃の練習以外は工具も好きに使ってよし。代わりに監督するから声かけろ。あとエミリーの勉強も見てやれよ」
ミリーが嫌そうな顔をしている。
「はい師匠! あ、あとマグネシウムっていう金属は手に入りますか?」
「聞いたことがないな」
「じゃ海水から造られる、下剤とか便秘薬になる白い粉は?」
師匠は思案顔だ。
「薬はちと分からんな。鍛冶ギルドで聞くか薬屋教えてやるからそこを当たれ」
「あ、はい。アルミニウム、もしくはボーキサイトという鉱物に聞き覚えは?」
「そっちも知らん……、と思ったがあれか? アルミナムなら聞いたことがある。軽いが柔らかすぎて銃には使えないけど、皿とか鍋には使えそうなやつだろ?」
「それです!」
つい笑顔がこぼれてしまった。
「おい。邪悪なツラしてんぞ……」
「なんかジョニー怖い……」
二人にひかれてしまった。ドンビキだ。
「……まてよ、マグネシウムもどっかで聞いたな。そうだアルミナムと一緒に製造が始まったってギルド情報で回ってきてたな。加工がやっかいらしくて近場じゃ手に入らん。うちのギルドでも扱ってなかったはずだ」
「そうですか。できればアルミナムの粉末が手に入るとありがたいんですが」
「粉はどうか分からんが、アルミナム
「ジョニー達がなにを言ってるか分かんない。やっぱりうち、馬鹿なのかな……」
エミリーが自虐芸を覚えたか。そういうキャラじゃないだろうに。
「安心していい。あの二人がなにかとんでもない事をたくらんでるのは分かるが、それが何なのかは俺にも分からないから」
ジャックさんのフォローが入る。
運が向いてきた。これでみんな大好きフラッシュバンはいけるか分からないが手榴弾や焼夷弾くらいなら自作できるだろう。馬車に揺られながら、いろいろな携行武装の開発が進められそうだ、と妄想していた。
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