第76話 ガンスリンガーには不要かもしれない生活必需品

 ジョン・トヨダさんが帰った後、さっそく戦術の見直しを始める。幸い午後はヘンリー師匠の鍛冶修行は入っていない。ベック師匠、ミリーも交えてコーヒー片手に色々と作戦を練る。と言っても西、北都市間の商隊警備をどうしようか、という話だ。

「つっても軽機関銃なんて高いし重いし弾食うしで、いいとこ防御陣地作るときくらいにしか使えねえんじゃないか?」

 と懐疑的な師匠。

「そりゃ高いし重いんですけどね、馬車に乗せれば移動陣地になるでしょ。逃げながらでも攻めながらでもバカスカ撃てるわけですよ」

 戦闘は火力ですよ、とでも言わんばかりに力説してみる。個人的にT.A.R.トヨダオートマティックライフルが気に入ったので師匠の金で買って欲しい、というわけではない。ホントだよ。

「そりゃいいが、馬車に乗せるとなると荷物が載らねえなぁ。商隊としてはどうかと思うんだが……」

 と師匠は渋い顔をちょっとして。

「なら自動車を買うか」

「あるんですか!」

 びびった。でも考えてみればエンジン動力の工作機械があるんだから自動車だってあってもおかしくはない。

「西都市にはねえよ。でも北都市なら作ってる店がある。燃料も工作機と共通らしいから問題はねえだろ」

 師匠がカタログを持ってくる。

 興味津々で覗きこむ俺とミリー。エンジン付き馬車といった感じの外見。T型フォードに似ている。

「えーと、22馬力で最大時速45マイル……。馬力ってなに?」

 ミリーの疑問に答える俺。

「馬が普通にける荷物の22頭分を引っ張れる力があるってこと。実際は自動車の重さもあるからもっと荷物は少なくなっちゃうけれど」

「よく知ってんじゃねえか、ジョニー。将来的には買ってもいいかと思ってたんだけどな。時期を早めてもよさそうだ」

「ならこれに荷車を牽かせて運べる量を増やしましょうよ。ヘンリー師匠なら馬車から荷車を作るのもできると思いますよ」

「だな。どうせなら屋根付きにして、天井にも窓をつけて銃架を据えるか」

 第一次大戦期のT型フォードトラック、トレーラー付きバージョンになりそうだ。ポーランド軍のフォードTc装甲車じゃなくてよかった。あれはいまいち格好良くない。

「でもそれでちゃんと当たるものなのかな? 走りながら撃つんですよね?」

 とミリー。ボルトアクションライフルを使い出してから一発必中が座右の銘にでもなったのか?

「当たらなくても発砲音で威嚇できるのが重要なのです」

 殺すのはいまだに慣れない。一番最初、ライカンスロープの群れの時はジャック・ムラタさんのグループとともにレバーアクションカービンをがむしゃらに撃っていただけだ。爆弾を使った時も、そのきっかけはトラップだった。正直、自分で殺したという実感は少ない。二回目の殺しは町外れのシューティングレンジでハグレのライカンスロープに襲われたときだ。あの時は自分の手で殺したのだが、襲われたから思わずとっさに引金を引いた、気づいたら相手が動かなくなっていたというのが本当のところ。「よし、発見した。殺そう」ではなく殺さざるを得なかった訳だ。発砲音でビビって引いてくれるならそれに越したことはないがモンスター相手だとそうはいかない。

「まぁ、野盗のたぐい相手の場合はね。ライカンスロープ相手なら、狙わないでもそこそこ当たるんじゃないかな。大量に弾をばらまけるから」

 それはともかく。軽機関銃を実用にするなら必要なモノがある。耳栓だ。冗談ではなく、ホントに。普通にライフルやカービンを集団で運用しているときですら五月蠅うるさいのに、軽機関銃を連射したら耳が利かなくなる。場合によっては永続的な難聴もありうるのだ、と説明。

「というわけで耳栓を用意しましょう」

 ということになった。そしてベック師匠と俺は車体の形はどうだとか、牽引する荷車はこうだとか色々とアイデアというか願望を出しまくった。最低限のオープンカーで買って、 架装は自分たちでやるか、などとはしゃいでいる。コーヒーを飲みつつ、それをあきれ顔で眺めるミリー。


 きっといくつになっても男は子供のままなのだ。

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