第27話 再会……?

 奴隷を手に入れるには金であがなうか命を助ければいい、とは誰の言葉だったか。

 俺に飛びついてきたのは「僕」の幼馴染み、エミリー・コウだ。


 山道で野犬に襲われている所を僕と親父で助けたのが出会いだったか。親御さんは助けられなかったが、「僕」の親はエミリーを我が子同然に育て、ミリーと呼んで可愛がった。一番年が近かったのと自分が助けたというのもあったおかげか、えらくなつかれていた。同い年のはずだが妹のような存在だ。うちは男三人兄弟だったからうちで預かることになったときは母も喜んでいたっけ。


 ここまではまあ、ありがちというかないこともないよな、くらいのことだ。問題はエミリーの人種である。というか種族である。これがアジア系、もしくは有色人種ならウェスタンにも奴隷や亡命者などとして登場するが、彼女は獣人系の血が流れているのだ。

 といってもその特徴は微々たるもので、鼻がよく利くとか犬耳の名残みたいな機能はしない犬耳っぽいのとしっぽが生えてるとか、それぐらいだ。ちなみに人間の耳もちゃんとついている。ぱっと見は耳が四つもついているように見えるので差別の対象になりやすかったようだ。もっと人間種に近ければ酷い差別はない。


 この世界で最初に会ったファンタジーな存在はライカンスロープだった。彼らはモンスター扱い。獣人は亜人種扱い。違いは言葉が通じるかどうかあたりのようだ。文化的背景が人間種に近いかどうか、というのもあるかもしれない。うちの村に住んでた頃は「獣人混じり」と呼ばれていじめられたことも一度だけはあったようだが、兄弟総出でいじめたやつをボコボコにしてからは無くなった。父も村長に根回ししていた、というのはあとから知ったことだ。

 人間種と亜人、獣人種の話はエミリーが家族になるというときに父から説明された記憶がある。というか今思い出した。

 どうも「僕」の記憶は「俺」の記憶より引き出しが硬いようで、思い出そうとしたときか、なにかのきっかけがないとなかなか意識に登らないようだ。

 などといろいろ考えていると。


「ジョニー! うちのこと忘れたの!?」

「いや、忘れてないって。というかミリーはどうしてここに?」

「ジョニーを追って出てきた」

「なんで!?」


 うちで可愛がられてたんだからそのまま村にいればよかったのに。

 それともあれか、妹みたいな幼馴染みが恋心をという展開か? いや、まあエミリーは可愛いから嬉しいっちゃ嬉しいんだけど。正直、足手まといにしかならないんじゃ?


「だって……約束したやん。お嫁さんにしてくれるって」

 はいはい、今の今まで忘れてました。ガキの頃の話だ。もう時効だろう。

「すまんが覚えていない。それより父さんと母さんはどうした。反対しなかったのか? それとも黙って出てきたのか?」

 覚えていないと言いきったのがショックだったのか怒っているようだったが、その後の質問にはちゃんと答えるつもりのようだ。

「うちがジョニーを追っかけるって言ったら応援してくれた」

「マジか!?」

 なにを考えているのか。父よ母よ、血の繋がらない妹よ。

「言付けを預かってるから」


 封筒を渡される。中には二枚の便箋。


『エミリーは今まで我がままひとつ言わなかった。それがお前のことで初めてのお願いをされてしまった。エミリーもそろそろ15になる。外の世界を知るのも悪くはない。村を出たばかりのお前に頼むのは気が引けるが、ここは一つエミリーの面倒をみてやってくれないか。エミリーには生活費を多めに持たせたからなんとかなるだろう。 父』

『ジョニー、お前も男ならミリーちゃんを護ってあげなさい。それに結婚の約束をしてたでしょ。泣かせるような真似をしたら殺す。 母より』


 なにこれ。どうすりゃいいの……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る