第60話 人間とモンスターとの違いとDIY
人間相手の決闘はやりたくない。
これが正直な今の感想だ。一方的に理不尽な暴力に晒された時は、しかたなく応戦することもあるだろう。だが。
人間なんだよなぁ……。
モンスターならまだいい。相手の思考は分からない。少なくとも類推できるかもしれないが、連中には共感できない。だいたいが本能のままに襲ってくる。人間は餌だ、テリトリーを侵された、etc……。
人間だって大して変わらないかもしれない。でもその背景を読み取れてしまう。家族を食わせるため、貧乏生活は嫌だ、殴られるくらいなら殴る側になろう。そういった思考はある程度
人ならそういうふうに考える。そして敵対している人間にもそういう存在がいることを想像させられてしまうのだ。
できれば穏便に。可能なら交渉でなんとかしたい。が、それが通らないのがこの世界。俺がべらぼうに金持ちならそこらの野盗に金の力で開拓村の一つでも当てがってやればまっとうになってくれるかもしれない。そいつらに子供がいるというなら稼げるようになるまで食事と教育の面倒をみてやれるかもしれない。
が、どだい無理な話で。やれるなら王都のどこかでふんぞり返っている王様がやってるだろうし、地方領主なり、都市の顔役なりが孤児院みたいなものを運営してることだろう。鍛冶ギルドのおやっさんやベック師匠はそれに近いことをしているようだが、見てやれる範囲は社員とその家族までだ。身内とそうでない人間の境界がはっきりしている。
思考を中断し、飲みかけのコーヒーをあおると銃の削り作業に戻る。フライス盤にトヨダ式オートのスライドを固定し滑り止めのミゾを掘っていく。ドリルビットの先端をスライドに当て、深さを決めたら手元のハンドルで少しづつミゾを作っていく。一列掘ったら次の位置に。横のハンドルを回して一定量ずらす。もう一列ミゾを掘っていく。
これを繰り返し、滑り止めが片面完成。裏返して同じ手順を再開。綺麗に均等にドリルビット幅のミゾが並んでいく。作業台にぴったり水平に固定しているので深さが変わらないミゾが並ぶ。
台をナナメにセットしたら三角が並んだギザギザを刻むことも可能だろうが、今の自分には難しい。ま、最初に手作業でヤスリで刻んだ滑り止めよりはよほどマシな状態になったからよしとしよう。実際に組んでみて滑り止め効果を確かめる。悪くない。
今日はモノ作りで気分を紛らわせることにしよう。中身を入れる前の小振りな缶と蓋を用意し、蓋に穴を開けてナットを溶接。缶の中にTNT爆薬を詰めて蓋をする。爆薬とともにショットガン用の鉛粒を仕込んだタイプもいくつか作成。区別がつくようにマークを刻む。
爆薬を詰めた缶は
野鍛冶のヘンリー師匠の工房に行き、保管箱を作ってもらう。10個ばかり本体が入り、ねじ込む信管を入れる部分を分けておけるような輸送ケースだ。20x40x10cmくらいの小振りなハンドル付き木箱。
信管が何らかの弾みで爆発した時に本体が誘爆してもらっては困る。そこでワンクッション。爆弾本体と信管を納める部分の間にもう一つスペースを作ってもらって、そこに簡易工具や仕掛け紐を入れられるようにしてもらった。
さて、ねじ込み用の信管機構を制作だ。
起爆雷管に導火線を挿してかしめる。導火線の長さは4~5秒。導火線の反対側には豆弾の弾頭を抜いて発射薬を減らしたものを差し込み、またかしめる。細いパイプに雷管が頭を出す様にさして軽くかしめ、豆弾薬莢を固定。
あとは一回り太いパイプをさらに挿す。ここは爆弾本体からはみ出る部分だ。3つほど穴を開け、針金を薬莢に近い位置から二つにUの字に通す。抜けないように先端をまげるのを忘れずに。釘とそれにはまるバネを押し込んで最後の穴に針金を通して曲げる。
これで下のほうの二本の針金を抜けばバネで釘が飛び出し、豆弾薬莢が発火、導火線で4秒ほど燃えてから雷管が破裂する時限信管ができた。あとはねじ込み用に外のパイプにネジを刻んで完成。使う時は本体の紙蓋を破って溶接されたナットにねじ込めばOK。
本当は投げてから点火されるレバー式にしたかったが技術と知識とアイデアが足りない。ピンを抜いたらすぐに投げるタイプの手榴弾だ。本体の缶から角が生えたロシア製の手榴弾のような形になってしまった。
ついでなので罠用に遅延時間0秒の信管パーツも作っておく。これは分かりやすいように赤ペンキでマークをつける。都市外のシューティングレンジで起爆実験をしてみたが、問題なく起爆してくれた。
前回の弁当箱型対人地雷より爆薬量を減らしたおかげで適度な攻撃力になったようだ。弁当箱一杯にTNTを詰めたらそりゃ威力過剰にもなるよな。今回の罠用、投擲用手榴弾は100gくらいのTNTで十分な威力となった。
ベック師匠にアルミナム
人は攻撃したくないと言いつつモンスターより人間相手のほうがより有効な手榴弾や地雷を作ったり、なんのためなのか燃焼手榴弾を考えていたり。
……俺はいったいなにをやっているのか。
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