第19話 嗜好品を買いにいこう
まだ仕事はない。
それに作業着ができるまで数日かかる。それまでは自由にしていろと師匠に言われている。
手持ち無沙汰だ。以前ならタバコを吸って、酒を呑んで、薬を飲んで寝てた。
「そういえばこっちに来てから発作も起きてないな」
急に息苦しくなることもない。パニックも起きない。
「そりゃそうだ。今は「僕」の身体なんだから」
とはいえ一度意識してしまうとタバコを吸いたくなる。久しぶりの酒もいいな。
雑貨屋には酒は置いてなかった。酒場があるのだろう。タバコもあるような気がする。さすがに元の世界でやってた酒やタバコと同じ銘柄はないだろうが。
師匠に一言声をかけて出かける。酒場の場所は教えてもらった。なにかあるとは思えないが、念のため腰にリボルバーを下げる。豆弾ではこころもとないが、威嚇にはなるかもしれない。
大金を持ち歩きたくなかったので数枚の硬貨大小を適当にポケットに突っ込む。
タバコ屋にいってみた。さすがにおばあさんが店番をしていたりはしないだろうと思ってはいたが、想像以上に別物だった。
カウンターにタバコのケースが並び、それを買って店内で吸っている人がいる。まるでオランダの大麻が吸える、いわゆるコーヒーショップのイメージだ。
店主らしき人に「オーダーは?」と問われる。
「きざみタバコ」
普通のタバコと噛みタバコ、嗅ぎタバコがあることは知っていた。
「銘柄は?」
淡々と注文を取られる。銘柄なんぞわからん。
「どういうのがあります?」
「うちで扱ってるのは……」
といくつかの銘柄を教えてくれる。
視界の端に自分で巻いている人を見かけた。ウェスタン映画と違い、手ではなくローラーという道具で巻いている。
「黒タバコじゃないやつでそこそこ売れてるやつを。あ、あと巻紙とローラーも」
「銀貨二枚と大銅貨一枚に小五枚。巻紙はサービスしとくよ」
金属缶に入ったタバコ葉と巻紙をいくつか、ローラーをカウンターに置いてくれる。
タバコの煙の臭いとともに燃えるリンの臭いに気づいた。
「マッチもください」
「小1枚」
紙箱に入ったマッチを二つ追加で出してくれる。
「どうも」
支払いを終えて
「センチュリオン・シャグ」
百人隊長とはまた勇ましい名前だ。
金属缶の印紙を兼ねた封を切り、シャグをローラーに詰める。フィルターがなかったのでヘンリーさんにもらったわら半紙のあまりを短冊に切って適当に巻き、ローラーにセット。シャグとわら半紙の吸い口兼フィルターを整える。
くるくるとタバコを巻き、「スモーキングナチュラルペーパー」巻紙に手を伸ばす。一枚取り出すと端に糊がついていることを確認。現代の手巻きタバコと同じようでちょっとだけ安心する。
手巻きタバコを趣味でやっててよかった。でなければ他の客をじろじろ観察する不審な若造になっているところだ。因縁つけられたらたまったもんじゃない。
巻紙をローラーに巻きこんで端の糊を舐める。残りを巻きこんで出来上がり。
箱からマッチを取り出す。これも見慣れたマッチで助かった。と思ったがマッチの頭に白い粒がついている。どこで擦っても火がつくやつだ。テーブルには擦った跡がいくつも残っている。テーブルに擦りつけ一服。
「ふぅー」
久しぶりに感じるニコチンの酩酊。
一口堪能したところで回りからの視線に気づく。にやにや見ていた柄の悪そうな男たちがつまらなそうに視線を外す。
田舎から出てきた若造が初めてのタバコに右往左往したりむせる様子でも眺めるつもりだったのか。
「まったく悪趣味だな」
よけいなことを脳内から消し去り、しばしの酩酊を楽しんだ。
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