第20話 嗜好品はタバコだけじゃない
タバコを一服したあとに向かったのは酒場だ。ファンタジーなら冒険者がたむろして、というイメージの場所だがウェスタンだと少々異なる。
なんせ娯楽の少ない時代だ。酒かタバコか女か噂か博打、という数少ない娯楽。その一つを除いて、店によっては全てが、金さえ払えば手に入る。噂に至っては
いかにもウェスタンという風情のスイングドアを抜けると、そこには人相の悪い荒くれ者かチンピラか、という腕自慢たちばかり。テーブルに座り酒を飲んだりタバコを吸ったり、ポーカーをしたりと自由にくつろいでいる。
俺に視線をくれるものもいたが、そのほとんどは興味をなくしたようにそれぞれのやっていたことに戻る。酒とタバコと噂と博打だ。少数派は街で見慣れぬ若造の品定め。遠慮の無い視線を飛ばしてくる。
店内をそれとはなしに眺める。二階は安宿になっているようだ。もしくは売春宿か。あまり柄のよろしくない場所だ。
カウンターで店主らしき男に注文。舐められないように口調を意識して変える。
「瓶で買える酒はなにがある?」
「ラム、ウィスキー、バーボン、オリジナル」
えらくざっくりな分類である。しかしオリジナルってなんだ? こんな場所で買える酒だ。たぶん混ぜ物された安酒なんだろう。
さて、酒はなににするか。黙って考える。柄が悪い客層なのであまりしょっちゅう来たい場所ではない。
「度数が一番高いのは?」
「ラム。151プルーフ」
一言答えるとまた黙り込む。無口なバーテンだ。騒ぎでも起こさない限り、ずっと黙ったままなんだろう。
見るとカウンターの中にショットガンらしきものが置かれている。磯部勉が吹き替えをやりそうなマッチョだ。用心棒は不要らしい。
「ウィスキーをグラスで。気に入ったら瓶で買う」
「お好きに」
さっと琥珀色の液体をグラスに注いでチェイサーと一緒に出してくる。
「小銅貨1枚」
無言でポケットから出してカウンターに置く。
バーテンダーも黙ってグラスと水を置いてこちらに押し出す。
うーん、ハードボイルド。
しかし言葉は通じるものの、元の世界と同じような酒であればいいが。覚悟を決めて一口含む。「俺」の体感時間では数日ぶり、「僕」の感覚では初めての味。
琥珀色の液体は紛れもなくウィスキーだった。
「オーケー、これを瓶で。値段は?」
「銀貨1枚」
いい値段しやがる。そう思いながら銀貨を二枚置く。
「二本もらうよ」
出して来た瓶をその場で開封して味見。同じものであることを確認してバッグにしまう。グラスの残りとチェイサーを1:1で割って味わうと「ごちそうさん。また来る」と言って店を出ようとする。
「おい貴様! イカサマしてんじゃねえ!」
大声の元を眺めるとポーカーをやっていたテーブルで喧嘩だ。さっさと帰ろう。
幸い、店を離れるまで銃声は響かなかった。
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