第70話 薬品を仕入れる
薬屋に来ている。
元の世界のドラッグストアとはほど遠い、ごちゃごちゃとした小さな雑貨店のような雰囲気。カウンターの奥には引き出しがずらりと並んだタンスとガラス瓶が並んだ戸棚。中国の漢方屋と理科室の薬品棚が合わさったような店だ。カウンターには女将さんが座って煙草を吸っている。
店に入ると女将さんが視線をこちらに向け、「いらっしゃい」と笑顔で挨拶をしてくれる。何回か硫酸やその他の薬品を買いに来ているので女将さんとは顔見知りだ。他の客が来ている所は見たことがない。最初の頃は魔女のようなおばあさんが出てきそうだと思ったものだ。
「今日も硫酸を買っていくのかい?」
「いえ、今日は他にどんな薬品があるか気になったんで覗きにきました」
何回かは火炎瓶の点火用や、ちまちま進めているバッテリーの試作用に硫酸を買い込んでいたのでそのイメージがついてしまったようだ。
「消毒薬はありますか? 傷にかけるとシュワシュワするやつ」
「あるよー。森に出稼ぎかい?」
森に行く時によく持っていく消毒薬ということは過酸化水素水だろうか。破傷風が怖いし買っておいて損はないよな。
「出稼ぎって訳じゃないですけど、ベック師匠のシューティングレンジによく行くので用意しておこうと思いまして」
「ああ、そういえば都市壁の外でライカンスロープを退治したんだってねぇ。若いのに大したもんだねぇ」
嫌なことを思い出してしまった。
血にまみれた下顎と並んだ歯が脳裏にうかぶ。
それを振り払うため、女将さんに聞いてみる。
「落ち着けるような薬はありますか? あれ以来ちょっと外に出るのが恐くなっちゃいまして」
コーヒーでごまかすのも正直辛い。カフェインの大量摂取でリラックスにも限界がある。
「そうだねぇ……」
と呟きながら後ろのタンスをごそごそと漁る女将さん。
紙袋を取り出し、中身を見せてくれる。その袋には乾燥した葉が詰まっている。
「これは煎じて飲むと落ち着けるセイヨウオトギリっていうお茶。けっこう昔からあるやつだから効き目は保障済みさね」
味は保障しないけど、と笑う。
「味を優先するなら高いけどこっちだねぇ。レンカ茶。お茶だけど手巻きしてお酒を
ちょっと考えて。
「それじゃ両方ください」
「あいよ。ほかにいるものはあるかい?」
目元に笑い皺を浮かべながらゆっくりと煙草をくゆらしている。
「効き目の早い痛み止めと怪我の薬をお願いします」
瓶が詰まった棚をごそごそ漁り、小振りのアンプルを数本と注射器を出してくる。
「モルフィンだよ。もっと強いのもあるけどうちじゃ扱ってないからこれしかないね。便秘になるから一日一回使って数日空けな。怪我の方は……」
と、薬箪笥から葉の詰まった袋を出して。
「ハックツサイ。しみるけどよく効くよ。ちょっとを煎じて飲めば下剤にもなるし、胃腸にも効く便利な薬草だね」
どっちもケシ科由来じゃないか。かなりヤバいものが出てきてしまった。
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