第47話 試作品と飴(あめ)と鞭(むち)
翌朝、師匠からカスタムされたトヨダ式オート拳銃を受け取った。
スライドは見事に角が落とされ、トリガー手前もナナメに削られている。体感で100g以上軽くなっている感じだ。それでも1kg以上の重量。これでやっとほかのリボルバーと同じ程度の重さだ。
一度全部をバラす。フィーディングランプを磨く。フレームとスライドを金属ヤスリで撫でて角を取る。手に触れる全てのパーツの角を取る。イジェクションポートの角も丸みが見えるまで削る。トリガーガード前方だけはチェッカリング。左手で支えるときのための滑り止めだ。全体が僅かに溶けたような印象。これでどこにも引っかからない。抜き撃ち用の銃になった。
スライドの前方にも滑り止めのラインを刻んだが、これは手作業でやるべきじゃなかった。均等に滑り止めを入れられなかったせいで素人丸出しな不細工になってしまった。最大でも0.5mmほどの深さなのでフライス盤で1mmくらい削り込めばごまかせるか? ToDoに追加だな。
黙々と作業する俺。その隣で俺製の算数問題集を解くミリー。いまだにベックマン銃砲店のスタッフとしては二人とも戦力外だ。
切りのいいところで休憩。師匠に報告して外出しようとしたら、師匠からトヨダオート用のマガジンを2種類渡された。
「
仕事が早い。昨日はスライドとフレームの加工を一晩で、今日は午前中にノーマルマグとロングマグの制作か。
「わかりました。それにしても仕事が早いですね。設計図だけでこんなに早く作れるものなんですか?」
「治具の形はトヨダさんの所で見てたからな。サイズは設計図で読み取れる。製造工程もだいたい想像つくからなぁ。まぁ慣れだな」
金属パーツの削り出しと金属板からの曲げ加工だとぜんぜん別物だと思うんだが……。
「はぁ……」
まぬけな声が出てしまった。
「じゃ、ロングのほうは45発、3回実射テストしてから出かけたいんですが、いいですか?」
「晩飯に間に合うなら出かけるのが先でいいぞ」
「んじゃ、先に出てきます。ミリーには算術の問題集を渡してあるんでしばらく大人しいと思います」
「おう」
晩飯が済んで。定例の報告の時間だ。
「マガジンは問題ありません。1発も引っかかることなく発射できました。15発を速射しても熱でヤレることもありませんでした」
「ん、じゃこれで量産しちまっていいか」
「そうですね、落としたりぶつけたりもしてみましたが歪みも出てませんでしたから。トヨダさんの所より良い素材つかってませんか?」
「素材はたぶん同じだ。焼き入れの温度と焼き戻しにコツがあるんだよ。その辺、トヨダのせがれはまだまだだな。俺が鉄の加工で負ける訳にゃいかんよ」
と言って笑う。俺が見たところ、正直やり過ぎって感じのマガジンだ。全体が綺麗なブルー、エッジの処理も曲げの精度も純正品より上。スプリングもノーマルマグとロングマグで太さを変えてあった。これが職人技というものか。
「で、エミリーちゃんはどうだったかな?」
師匠がミリーに問いかける。
「足し引きは大丈夫です。掛け算と割り算は……えへへ」
ごまかした。こいつ笑顔でごまかしやがった。
「ん、まぁこれから覚えてくれりゃいいから。ジョニー、お前が責任もって見てやれよ」
「はい。ミリーが泣こうが
「酷い!?」
ミリーの感情は分かりやすい。しっぽと耳がピーンとなっている。
「寝る前にこれ解いて。終わったら部屋に持ってきて」
「ううう。ジョニーがいじわるする……」
意地悪ではない。愛の鞭というやつだ。そして飴もちゃんと用意してある。
師匠は俺とミリーのやりとりを眺めながら満足そうにウィスキーを呑んでいた。
夜、ミリーが部屋に訪れた。別にエロい展開はない。テストの採点と分からなかった所のチェックだ。
「OK、合格」
「やったー」
飛び跳ねて喜ぶミリー。無言で頭を撫でる。パタパタしっぽ。うむ良い。
「褒美をやろう」
えらそうにもったいぶる俺。
そっと帽子とペンダントを机の引き出しから取り出し渡す。もちろんちゃんと包んである。
「なになに?」
「部屋に帰ってからあけるように」
「わかった! じゃおやすみ!」
バネ仕掛けか、と思わせる動きですばやく出ていくミリー。
その後、「やったー!」という声が鳴り響いたという。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます