第90話 いちおう土嚢作成用の枠も作ってみた

 城壁の補修工事が始まった。こういうのも公共工事と言えるのだろうか。民間から暇な人を集めて肉体作業に従事してもらっている。土木系の技術者たちは現場での作業と指導、専門技能の必要な場所に配置。プロの能力をふんだんに発揮していることだろう。

 俺は企画屋として「ここの補修に向いた工法はないか?」とか「土嚢どのう作りが楽になる方法はないか?」などに対応している。


「じゃ、まず土嚢を量産できる治具じぐをでっち上げましたので、これを金属で量産してください」

「お、いつものムチャ振りだな? よし、見せてみろ」


 俺と師匠のショートコント的なやりとり。木で作った二枠に麻袋をそれぞれつっこんで、袋をおさえる枠部品をのせる。そこに土を盛って擦り切り、枠を取っ払って袋を縛れば土嚢のできあがり。前の世界では、とあるエンジンメーカーが防災用品としてABS樹脂で作ったものを売っていた。開発、製造は別会社だった気もするが。ともかくそれのアイデアをコピーしたものだ。元は四つを一気に作るタイプだったが、今回の試作品は二袋同時式だ。


「自分が手軽に扱える素材が木だけだったので木で作りましたが、できれば軽めの金属で作った方がもつ・・と思います」

「もっと軽くて丈夫な素材があればそっちに置き換えたほうがいいな。作業自体は一人でも出来るが、二人がかりでやった方が効率は良さそうだ」

「軽くして欲しいです」

「実際に使ってもらって、便利そうなら枠に取っ手をつけましょう」

「金属ならプレスで打ち抜くのと、溶接を組み合わせて作れそうだな。木材で作るより量産が効くだろう」

「実際に使いながら、試行錯誤しながらの試作品ですから。そこは勘弁してください。実際の量産はうちでやるんですか? それともトヨダさんの所にお任せ?」

「軽くして欲しいです……」

「トヨダギルド長の会社にお任せだろうな。これも開拓村に融通する分を確保して、あとは丸投げでいいか?」

「それでお願いします。あとうちで使う分も一つあれば」

「うちの分はその木製試作でいいだろ。不満点が出たらその時に溶接でもなんでもして作ってやるよ」

「軽くしてください…… もう嫌……」

「すでにミリーから重いって苦情が、ええ」

「2x4のインチ材を使うから重てえんだよ。もっと薄くて軽いの使えよ」

「ヘンリー師匠のところで余ってた材料がそれだったんで」

「お願いですから軽くしてください…… 土嚢もコレも重いの嫌なの……」


 ミリーのマジ泣きが入っている。うん、実験台にして悪かった。


「量産するときは四袋を一回で作れるやつと八袋を一回で作れるやつの二種類にしましょう。試しに作ったやつは二人で作業を前提に二袋を一回でつくるやつだったので」

「たしかに一回で二袋だと枠をはめたりはずしたりが頻繁で大変だな。お前らの筋肉だと二袋で限界だろうけど、現場じゃもうちょっと多く作れた方が効率よさそうだ。これ、四袋版をネジか何かで接続すれば量産も楽だろ」

「もうムリ……」

「それなら四つを組み合わせて十六袋版でもいけますね。起重機があれば土を入れるのも楽になるでしょう」

「自動車にバケットをつけたやつが北都市で扱ってたはずだ。それの輸入も含めて西都市土木方に提案しておこうか。あとミリー。お前はもう休め。よくがんばった。明日も休みでいいから、な?」

「はい……」


 目の焦点が合っていないミリー。かわいそうに。うん、ゴメン。マジゴメン。

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