第114話 最後の一発
意識がコマ送りのように。いやスローモーションか。たぶん一瞬のことだったのだろうが。事象の前後がつながらない。青い空が見えたのは覚えている。鷹か何か。鳥が飛んでいた。そのあとしばらくして背中から地面に落ちて転がったのは覚えている。
骨は折れたか? 少なくともヒビが入っているだろう。呼吸のたびに重く痛みが広がる。
胸元を左手で探るが血の感触はない。出血は
数メートルほど吹っ飛ばされていたようだ。辺りを見回し状況を理解する。トラックが遠い。側面につけた指向性爆弾は起爆済み。気に入っていた帽子はどこかに飛んでいっていた。散らばってひしゃげた、ショットシェルだった赤い紙筒。
相手との距離は遠くなっている。数発撃つ余裕ができた。残段数は何発だ? 込めてある弾は何だ? 気にする余裕はない。行動しないと死ぬ。
遠くでミリーの叫び声。いや悲鳴だ。俺の名前を……
行動を。動かないと。攻撃……
ショットガンは右手に持っている。持っているが。先の一撃がかすめたのだろう。マガジンチューブの先が吹き飛んでバネが飛び出ている。あたりに散ったシェルは込めていた鹿弾か。左腰のポーチに手を伸ばし、さっき作ったワックススラッグをいくつか指の間に挟んで取り出す。
トレーニングの成果か。薬室の一発をぶっ放すと相手の胸部に吸い込まれていく。
シェルを持った左てのひらの摩擦だけで先台を引き。指の間のシェルを直接薬室に押し込む。先台を前に戻す。トリガーを引く。
これを三回3繰り返す。人差し指と中指の間、中指と薬指、薬指と小指の間に挟んだ三発。それを胸部、首、眼窩に。反動を殺しきれなくなってるのか。着弾点が上がっていく。
最後の一匹がなかなか倒れない。いざという時のためのショットシェル、ブレネケスラッグをストックにつけたホルダーから抜く。ここで使わないでいつ使う? 北都市でも一箱しか買えなかった高級品。死んだらもうチャンスはないぞ。
込める動作は無意識に。しかしもう距離がない。あと数歩踏み込まれたら相手の距離だ。今まで忘れていた呼吸を一つ。犬歯を舐め、息を止めて。
相手も吠えて。その大きく開いた牙と牙の間に。
俺はトリガーを引き絞る。
ぐるんと眼球がひっくり返るのが見えた。
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