第15話 ギルドのお偉いさんに会いにいこう
その日の午後にはベックさんの家に引っ越しとなった。鍛冶屋ギルドへの顔出しは明日の予定だ。
雑貨屋、洋服屋への買い物も明日以降になりそうだ。とりあえず飯と宿の心配はしなくて良さそうなのは嬉しい。
作業場の隣の小屋をあけてくれたのでありがたく住まわせていただく。物置になっていたようだが、元々弟子が使っていた部屋だったのかベッドがすえつけてあった。
ほこりっぽい空気の中、俺は明日に備えてさっさと寝ることにした。
翌朝、ベックさんに起こされて朝食をいただく。野菜と豆を煮込んだスープと、なぜか米を炊いたものがテーブルに並んでいた。
「ジョニー、今日は鍛冶屋ギルドに登録しにいくぞ。それが終わったら仕事の流れを教えてやる」
「わかりました。よろしくお願いします、ベックさん」
「師匠と呼べい」
冗談交じりでベックさんはいっていたようだが。今後、師弟となるわけだし。そのあたりはきっちりしないと。
「はい、師匠!」
「おう、いい返事だ!」
朝食がてらの雑談で、ベックさんについていろいろと聞いてみた。フルネームはU・A・ベックマンというらしい。ヘンリーさんと幼なじみで妙に馬が合ったそうだ。鍛冶屋同士としてのつきあいも長くガキの頃からつるんでいたそうな。ベックと呼ぶのはごく親しい人だけらしい。
Uが何の略なのかは嫌がって教えてもらえなかった。Aはアーロンの略だということは教えてもらえたが。
鍛冶屋ギルド。拍子抜けした。
その大層な名前の割にはただの一軒家だったからだ。しかも大きな銃器工場の隣。いやがおうにも小ささが際立つ。
ベック師匠は「おーす」となんとも気の抜ける挨拶をしながら入っていく。
「社長おるか? 弟子取るんで手続きに来たぞー」
なにかの書類をチェックしていた若い男が眼鏡の奥からこちらをちらりと見て、工場に繋がるドアを開き怒鳴る。
「社長! ギルドにお客さんです!」
「なんだって!?」
「ギルドにお客さんです!!」
工作機械の音がうるさくて聞き取れなかったのだろうか。
なんにせよ、懐かしい音である。エンジン音にドリルが金属を削る音。ファンタジーだかウェスタンだかの世界に響くとは思っていなかった音だ。
「おう、ベックか、ちょっとまっててくれ。おい、コーヒー三杯な」
これまたおっさんというか、おじいさんというか。長いこと着込まれたであろう、油で汚れた作業着を身に
こちらを見ると手ぬぐいで汗をふきながら応接テーブルに案内してくれる。眼鏡男がコーヒーを淹れて持ってきてくれた。
この世界には男しかいないんじゃなかろうな?
「で、何の用件だ?」
「弟子を取るんで義理を通しにきた。ジョニー、村の身分証かなにかあるだろ、出せ」
「はい」
あわててバッグから手紙を取り出し、テーブルの上に差し出す。
「東の開拓村ね、どれどれ」
手紙を読みつつこちらを見たりいろいろ考えている様子だ。なにか不備でもあったのか?
「おう、わかった」
と威勢良く社長と呼ばれた男が膝を叩く。
「私が鍛冶屋ギルド長のサム・ムラタだ。よろしく、ジョニー・オカジマ君。
これで君はユウジ・アーロン・ベックマンの正式な弟子だ。誰にも文句はいわせねえ」
あっという間に終わってしまった。コーヒーが半分も減っていない。
「え、あ、いやいや。そんな簡単でいいんですか?」
思わず声を上げる。
「いいんだよ。ギルド幹部が弟子を取るっていってギルド長が認めた。これ以上なにが要るってんだい?」
「ギルド長がいいんならいいんですけど。
ってベック師匠はギルド幹部なんですか!?」
ギルドってのはもっと凄い組織だと思っていた。これじゃ町内会のおっさんたちとあまり変わらない。
「なんでぇ知らなかったのかい。
そこのベックは西都市鍛冶屋ギルドの幹部、三人のうちの一人よ」
「幹部っていっても月一の書類仕事くらいしかねえけどな」
ベック師匠がぼやく。
「ってこたぁ、あれか。将来の幹部や町の名士を目指して弟子入りってわけじゃなさそうだな。
ベック、ちゃんと鍛えてやれよ?」
政治的なアレコレには俺、興味ないです、はい。
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