第16話 テイラーにいこう
16話:テイラーにいこう
ギルド長のサム・ムラタさんは思ったより気さくな人だった。
いかにも「おやっさん」と呼ばれそうな職人肌のおじいさん。仕事には厳しいが、家に帰ったら孫にはダダ甘なんじゃなかろうか。
そんな想像をしながらギルド事務所を出る。
「ムラタさんは西都市で一番シェアのある銃を作ってる工場のボスだ」
そんなことをベック師匠に教わる。あのあといくつか銃を見せてもらったり、ギルドの決まり事などを軽く教えてもらったりした。ベック師匠が扱っている銃のメーカーの最大のライバルなんだそうだ。
ってことはベック師匠とは敵対関係?
「そんなことはねえよ。ギルドの会合でも良くしてもらってるしな」
ではなぜライバル会社の銃を扱っているのだろう。
「そりゃ同じ銃売っても仕方ないからな。直売店と勝負しても値引きで負ける。
なら別の銃やライフルを扱った方が商売になるだろう。それにうちはカスタムがメインだから。量産品でちょっと不満のある所を改造して使いやすくしたりするんだ。
ムラタさんのとこの銃もユーザーの要望に合わせて改造して売ってるぞ」
そんなことを聞きながら買い物につきあってくれるベック師匠。
「ほれ、ここが洋服屋だ。古着から手直し、オーダーまで受けつけてくれる。
弟子入り祝いだ、作業着とダスターレインコートをオーダーしてやる」
俺は遠慮したが、「さっさと辞められたりしたら困るから恩を売ってんだよ」と笑いながら師匠は答えた。
テイラーに採寸されながら服の山を眺める。元の世界のスーツによく似たフォーマルなものからシャツ、作業着、そのほかいろいろと並んでいる。
「作業用の上着は豚革で、腕を曲げやすいように肩周りを大きめ、
と師匠が矢継ぎ早に注文を出している。ダスターレインコートについてはお前の好きにしろと言われる。
ダスターレインコートってことは
採寸が終わってダスターコートについて要望を聞かれる。
「参考になりそうなコートはありますか?」
いくつか見せてもらったが、やはり西部劇のコートと同じようなデザインだ。スネくらいまでの長い裾に、バタつきを抑えるための足に固定するバンド。馬に乗ったときのための深い切れ込みが真ん中にある。
「色は濃いコーヒーで。腰のサイドに貫通ポケットと、あと後ろを
フードは左右の視界を
俺はオーバーパーカーやレインコートをイメージしながらオーダーする。伝わりにくい部分は簡単なイラストを描いて説明。
「えらくこだわるな。やっぱアレかこういうときのためにこういう形のが欲しいとかあるのか?」
師匠に突っ込まれる。
「こういう形のほうが便利かなと前から思ってたので」
適当にごまかす。この世界の服飾には詳しくないので元の世界の服のイメージから切り貼りしたようなオーダーになってしまう。
ダスターコートをまくりながら抜き撃ちするガンマンには憧れるが、実際にやったら遅くて撃ち負けるだろう。なら常にポケットに手を突っ込んでる振りをして銃を握っていたい。
コートに穴があくかもしれないが、撃ち負けて死ぬよりはマシじゃなかろうか。
どれだけ死ぬのが怖いというのか。病的なまでに死を恐れている気がする。一度死んだからって開き直れるものじゃないらしい。むしろ死に対する恐怖は増している。
そんなことを考えながら買い物を済ませていった。
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