第97話 マチェット造るよ

 というわけでき時間を使ってマチェットを造ってみることにした。


 といってもまともに使うシチュエーションがあるわけでもないので、造って置いておくだけになるだろうけれど。


 用意するのは3mm程度の鋼板。焼き入れ、焼きなましはヘンリー師匠にお願いするので形だけ削り出す。普通の鋼板なのでそんなに難しくもない。グラインダーで削りすぎないこと、熱を入れないことに気をつける。

 グリップ側を1.5インチ幅、先端を3インチ幅の台形にざっくり削って、だいたいの刃をつける。焼き入れ後に小刃をつけるので、刃の先端は0.5mmほどの厚みを残しておく。

 グラインダーでガーッと削って、グリップ固定穴をあけたら第一段階は終わり。ヘンリー師匠に焼き入れをお願いする。焼き戻しを重点的に。柔らかく、粘るほうがマチェットには都合がいい。


 焼き入れ、焼き戻しが終わったらグリップをクルミ材で削り出す。これはベック師匠の廃材箱から適当に余っていたもの。元は銃のグリップ用だろう。

 ヘンリー師匠にもらった真鍮しんちゅうネジでがっちり固定&接着して、ネジの飛び出した部分をグラインダーで削り取る。グリップを微調整してオイルを塗ったら完成。ヘンリー師匠がちょうどあいていて、二泊三日で出来上がり。


 この世界の一般的ななたと違い、薄手のマチェットは大きなナイフと同じような扱いだ。見せ武器とでも言おうか。実用品ではない。


「というわけでエイブリーさんの言っていたサイズで適当なナイフを造ってみました」

「ジョニー殿、それをちょっと振らせてもらえないだろうか」

「それは構いませんが……」


「これはいい。売ってくれ!!」

「小太刀とは全然違いますけどいいんですか?」

「軽くて振りやすい。いいじゃないか。どうせ主力武器は銃なのだし、兜割かぶとわりをするわけでもない。頭に当たれば十分殺せるし、肩口に入れば腕も動かせまい。小太刀にこだわる必要もなかったのだな」


 兜割……。たしかに兜を被って出てくる山賊はいないだろうけれど。


「廃材から作ったやつなので売るってのも抵抗が。焼き入れの手数料だけヘンリー師匠にお支払いということで。

 でも折れても刃が潰れても保証しませんよ? それでもいいならお譲りしますけど」


 思っていたより相当安く済んだようでエイブリーさんはえらく喜んでいる。

 依頼があるかと思っていたヘンリー師匠には頭を下げつつ受け取った手数料をそのまま持っていった。


「いや、片手間でやったあの仕事が金になるとも思ってなかったからなぁ。手は抜いてないけれど。お前の取り分はどうなってんだ?」

「ありませんよ。趣味で形だけ作ってみた、っていう薄い大鉈おおなたですから。廃材ですし、時間もかかってませんし。ヘンリー師匠にお願いした作業と真鍮ネジの代金だけを請求という形にしてます」

「趣味だろうがいちおうは商売になったんだから、もらえるもんはもらっとけよ」

「注文が入ってから造った訳じゃないですし、なんかこう申し訳ないというか。代わりに剣術を教えてもらおうかとは思ってますが」

「お前さんがいいならいいんだけどよ。それにしてもなんでまた剣術なんだ。銃の方がよほどつかえるだろうに」


 野鍛冶兼猟師のヘンリー師匠が大きなため息をつく。


「銃とナイフで、相手と4、5フィートの距離、どちらが強いと思います?」

「そりゃ、……微妙だな」


 思案顔のヘンリー師匠。


「でしょ? 手の届く距離で慣れた得物ならどっちでもいいんですよ。

 普段、銃は取り上げられてもナイフはそこまで脅威だとは思われていません。最初に一発撃つのとナイフを刺すのだったらどっちでもいいんです。十分相手を行動不能にできますから」

「いったいどういう状況を考えてるんだ?」

「街中でチンピラに絡まれた時に、どうやって逃げるかです。実際、北都市で一度。エミリーと一緒にいるときに絡まれまして。その時は大声で火事だ!! って叫んで走って逃げましたけど」

「……すばやく抜いて刺すだけなら剣術も必要ないだろ?」

「どこに刺したら効率的か、はヘンリー師匠とのハンティングで勉強しましたけどね。ちゃんと勉強したいと思いまして」

「そんなことのためにわざわざナイフで鹿のトドメをさしてたのかよ。めんどくせえ事をするなあとは思ってたけど」

「なんであれ覚えて置いて損はありませんから」


 そう、知識はあって損をすることはないのだ。

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