第87話 対人、対獣人戦闘の形を考える

 しばらくぶりに北都市行きの商隊を組むことになった。といっても二週間後くらいの話だけれど。

 この世界の暦はよく知らないが、一週間を10日でカウントしているらしい。年末年始のお祭り期間を別に36週。この10日のうち一日二日を休んで次の週に備える感じだ。

 ここしばらくはヘンリー師匠の鍛冶見習いも10日に四日から二日に減った。免許皆伝やのれん分けとはいかないが、相槌あいづち丁稚くらいなら務まると認められたからだ。


 こちらにきて何日になるだろうか。開拓村を出る旅の途中、急に前世を思い出したのがはるか昔に思える。トントン拍子にベック師匠の元でガンスミスの弟子になって。商隊で北都市を目指す途中でライカンスロープの群れに襲われ、撃退。これじゃいかんと手榴弾やらなんやらを開発、同時に北都市のジョン・トヨダさんが開発していたオート拳銃の改良に協力。トヨダ式オート拳銃をベースにカービンキットもでっち上げ、なんとか形にした。無くしてもいいナイフ類が必要とヘンリー師匠の鍛冶見習いも同時進行。それなりに腕を上げた。前の世界のナイフ製造技術を再現して、焼き入れ前までは簡易にできるシステムと道具もこっそり開発。これは自分用のナイフしか作っていないけれど。


 などと感慨にふけっているとミリーから声をかけられた。

「これから都市外射撃場でトレーニングするけど、いっしょにいこう?」

「オレ流のトレーニングだけどいいか?」


 ベック師匠には射撃場を改造する許可を得てある。もちろんすみのほうだけだが。

 適当に土嚢を積んで障害物を作る。


 前提としては、都市外にて少数の集団3~5体。これを数回繰り返す。こちらは俺とミリーの二人。敵対状態と確定。対象との距離は数メートルから十数メートル。

 効率良く無力化するための手順を考え、トレーニングを行う予定だ。そのためのシチュエーションを考える。

 商隊護衛中ではぐれた、もしくはシューティングレンジにて襲撃された想定だ。事実、都市外のベック師匠所有のシューティングレンジで実験をしていたときに俺はハグレに襲われている。 .44口径のカービンと .38オートを複数マガジンでなんとか撃退できたが、もうすこし効率化を図りたい。あの時は必至だったのでワーウルフの胸に銃弾をぶち込んで殺すことしか考えていなかった。

 基本的にはハンティングの時、心臓や肺のある胸部、特に前腕の後ろを狙う。これは四足歩行動物の場合だ。二足歩行の人型となると弱点を晒しているようなものだ。胸郭きょうかくにある心臓や肺を横から狙うか前から狙うかの違い。それ以外にも脊椎動物なら頭蓋骨ずがいこつから腰部ようぶ骨盤骨盤まで。二足歩行ならほぼまっすぐ弱点が並んでいる。筋肉を銃弾が突き抜けられるか、という問題はあるけれど。

 重要な臓器は数あれど。即時、行動不能に至らしめる部位はある程度は限定される。脳幹のうかん頸椎けいつい、心臓あたりだ。

 これが人間相手なら大動脈が皮膚近くを通っている部分を切り裂く等の攻撃を加えても十分な効果が得られる。理性と痛覚があるから致命傷だと理解し、行動不能に陥るのだ。ただし、コンバットハイやドラッグで理性が飛んでいる場合は異なる。交通事故で足を失っていても気づかないケースなどもある。元の世界、アメリカでの.45口径信仰もそこら辺から来ているようだ。 .45口径弾頭は当時十分すぎる火薬量と弾頭重量で相手に与える衝撃が大きく、約500~550ジュールのエネルギーを持つ。力不足とされた当時の標準装備、 .38口径弾は250ジュール程度。そりゃ45口径信仰も発生するだろう。威力が倍も違うのだから。

 ちなみに元の世界でメジャーな9mmルガー弾、9mmパラベラム(通称9パラ)とも言うが、それの威力は音速超えの弾頭であれば480~495ジュールはある。弾の威力が大して変わらないのだから、ガバメント45口径の7発を持ち歩くよりグロック9パラの17発を持ち歩く方が効率的だと分かるだろう。

 小口径多弾携行。これが「俺」には理想だ。なんせ近距離での撃ち合いばかりなのだ。狙撃戦は起こりえないし、白兵距離の戦闘も至近距離にも十分な威力の弾薬をトヨダ式オートは使用している。実は9mmパラベラムよりすこしだけ威力が大きい。



 さて、ターゲットとなる板をいくつか設置。対人数人を数回繰り返す練習用のコースを作る。障害物は土嚢でできた。ある程度のスペースにターゲットをばらけさせて配置。これを撃って次のスペースに移動する練習コースだ。

 コースはできた。あとは基本的な動きを二人で打ち合わせる。

「二人で構えながら進んで、自分の一番近く、正面から撃っていく。俺が右にいるときはミリーは正面から左、逆なら右側を任せるってことでいいか?」

「いいよ。でもあんまり近くだと取り回しが難しいよ?」

 難点はそこだ。俺は50cmほどのカービンだが、ミリーの主武装は90cmほどのライフルカービンなのだ。

「そこは…… 近くにいる敵が二三人なら俺がやる。その場合は遠めのやつを撃ってくれ。できるだけ邪魔しないように小さく動くから」

「わかった。遠くから撃つ。相手が多ければ自分側の近い敵から……」

「ムリして近くから撃たなくてもいいぞ。銃の向いてる方に敵がいたらそいつを、それ以外に近くにいたらリボルバーを抜いて狙わずに撃て」

「ライフルは捨てちゃっていいの?」

「そのほうが安全ならそうしたほうがいいと思う。後から拾える時間もあるだろう」

「弾が切れたら声を出して知らせるから守ってね?」

「OK、OK。1エリア終わったごとに弾込め、ライフル拾いの時間をつくろうか。おわる前に弾切れのときは声出し頼む」

「じゃ、準備するね」

「一番重要なのは味方に銃を向けないことな。ベック師匠も口を酸っぱく言ってることだけど」

「うん。それは分かってる。銃口を下げて避ければいいんだよね」

 師匠の薫陶が生きている。


 ざっくり5エリアとそれを繋ぐコースを用意した。敵の人数はエリアごとにバラバラ、位置もバラバラだ。

さて、上手くうごけるだろうか。最初から完璧に行くとは思ってはいないけれど。

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