第32話 エミリーの意外な特性
エミリーがライフルを受け取り、射撃を開始する。
師匠が双眼鏡でターゲットを睨む。
俺は35m先のマンターゲットに向かって射撃を開始する。最初の六発はすでに装填済みだ。まずは半身に構えて半クロスドロウで射撃。指でハンマーをはじいて六発中三発命中。といってもぎりぎり的に当たる程度だ。
次にホルスター位置を右腰に移し、どっしり構える。ターゲットに正面を向けて前方に重心を移した立ち方だ。右手でコートを払い、抜き撃つ。六発中四発命中。1000発以上も練習で撃ったおかげか当初とは比べものにならないくらいに当たるようになった。どうも身体の正面に向かって撃つやり方のほうが自分には合っているようだ。
反復練習を続けていくうち抜き撃ちも苦ではなくなってきた。当初は両手で銃を持ち、最初に数秒かけて狙い、それ以降は身体を固めて同じようにトリガーを引く撃ち方を繰り返してきた。
最近は抜いたあとに狙いながら初弾を撃ち、のこりは左手を添えて撃つスタイルになった。だんだんと無駄が無くなってきたのだろう。いつもの7メートル距離のターゲットであればほとんど意識して狙わなくてもほぼ当たる。
最初の一発に至っては腰だめの位置でも当たる程度にはなった。二発目以降は両手で構えて狙い、左の親指でハンマーをはじく撃ち方は変わらないけれど。
すばやく同じターゲットに三発撃ち込みたいときは半クロスドロウで腰位置ファニングのほうがまだ早い。トリガーを引いた状態で抜いて右親指でハンマーを起こして一発、前に突き出しつつ左手親指と小指でハンマーを連続してはじいて二発。これがファニング。腰骨で右腕を固定するのがコツだろうか。数をこなしたおかげで身体の位置が正しければ狙わなくてもターゲットに銃口が向くようになった。
このあたりの撃ち方は元の世界の西部劇やマンガ、プロのデモンストレーションで覚えたやり方だ。こっちの世界ではどういう撃ち方がスタンダードなのかは知らない。まあ銃の構造、身体の構造が変わらない以上、それほど大きな違いはないだろう。
休憩を入れたところでエミリーのライフル射撃を眺める。
エミリーは半身に立ち、腰から上を少し後ろに反らしてライフルを構えている。撃ったら肩の骨と左手で銃を保持しつつ右手だけでボルトを操作。次弾を発射。射撃直後はマズルがあがるが、射撃の直前はほとんどブレていないように見えた。師匠の指導込みとはいえエミリーにライフルの才能があったとは。
しかしエミリーの表情に疲労の色は隠せない。もう何発撃ったのか。
「おーし、休憩にするぞ」
やっとですか、と言いたげなエミリー。ひどく疲れているようだ。水筒を渡してやる。蓋を抜いて一気に水をあおる。直射日光に晒されて小一時間もライフルを構え続けたのだ。疲労も相当だろう。
「おつかれ、ミリー」
「ありがと」
いつもの元気さがない。せっかく愛称で呼んだのに。
「師匠、エミリーの腕はどうです?」
「思ってた以上だな。この距離ならちゃんと的に当たってる。あとはスタミナと筋力がつけばいいとこまでいくんじゃねーかな」
「ベックさん、このライフルだとちょっと重くて…… 初弾はいいんですけどそれ以降がふらついてバラけちゃいます」
「だろうな。でもライフルなんてそんなもんだ。それも500ヤードクラスまで狙うやつはな」
有効射程は500ヤードまでいけるらしいが、最大射程となると2500ヤードほど飛ぶという。威嚇くらいなら1km先までということか。
「もう一丁持ってきてた短いのがあるだろう。そっちを試してみろ。同じモデルのカービンだ。こっちなら射程は落ちるが本体は軽くなるぞ」
試射の結果、エミリーにはカービンが合うということが分かった。多少反動は大きくなるものの、構えがしっかりしているのでそこまで大きな問題にはならなかったのだ。
むしろ銃身長が短くなって重心が手元に寄り、銃口のブレが抑えられたのである。30cmの差で連射速度も多少あがったようだ。とはいえ機関部の動きの堅さもあって師匠ほどの速射はできなかったが。
なんにせよこれで師匠の遠距離狙撃、エミリーの白兵戦距離での制圧。俺の近接距離でのそこそこの速射とバランスは取れたように見える。
実際は遠距離から近距離までこなす師匠には敵わないのだけれど。
つまり俺だけそれほど役に立てないのだ。連射が効く多弾オートマティックが欲しいぞ。
無理っぽいけど。
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