第33話 射撃練習が終わって
「んじゃ次は実戦だな」
帰宅して師匠が言う。師匠のガンショップに帰宅、という感覚になったのはわずかだが感慨深い。
「いきなりですか師匠」
「まだカービンの取り扱いに自信がないんですけど」
ぼやくのは俺、自信のなさを正直に報告するミリー。
晩ごはんの後のミーティングで師匠が切り出した指示への感想がそれだ。
「そうそう強いヤツを狩れとはいわん。他の都市へ取引に行くから護衛のまねごとをしてみるだけだ」
けっこうな無茶振りに聞こえる。
「俺らだけですか?」
「いや、ムラタさんとこの
師匠によるとムラタのおやっさんの所で作っている銃を売って、ベック師匠の店で扱っている銃器を買ってくるのがメインの旅だそうだ。もともとは買い付けだけだったようだが、空荷で行くのはもったいないということでムラタ式銃の輸送・販売を引き受けたらしい。売るために運ぶだけで多少なり金になるということでそれなりに儲けが出る。その分買い付けに充てられる金にも余裕ができて新製品をあれこれ試しに仕入れる余裕ができる。実用品以外の珍しい物も少数は仕入れられるというわけだ。
「食い物を運ぶわけじゃないからモンスターにはほとんど出くわさないが、銃や弾薬を狙ってたまにならず者が襲ってくることがあるけどな」
チュートリアル山賊団かな。初心者二人としてはありがたい。なにせ初めて人間を相手にする可能性があるわけだが、腕に覚えのあるムラタさんの部下が矢面に立ってくれる。おかげで「自分が殺した」という実感も多少は軽減されるだろう。身を守るためなのだし。しかもあたりから発射音が鳴り響く中での実戦。経験としては貴重だ。
正直、わくわくしていた。脳裏に浮かぶのはウェスタンでよくある駅馬車襲撃シーンだ。撃たれた時のことは考えていなかった。移動している物にはそうそう当たるものではない、という事実。それに実感がないのも確かだ。戦争も強盗も銃犯罪にも縁のなかった前の世界の住人。そんな人間に銃で撃たれた時のことを想像しろ、というのが無茶な話だ。
西都市の人間でも実際に撃たれた経験を持つ人間は少ない。大概がすぐに死ぬか、そもそもそんな事件には遭遇しないのだ。保安官がいるから喧嘩に銃を持ち出す人間も
クラシックスタイルな決闘はいやだが、襲われたから撃ちかえすというのならまだ納得できる。待ち伏せでいきなり撃たれて最初の死者になるのだけはまっぴらごめんだが。
「いつ出発ですか?」
「二、三日したらな。それまでに地図とか見せてやるから旅の用意をしておきな」
「あ、明日は注文してた帽子ができる予定なんでテイラーに行ってきますね」
「いいぞ。たまにゃ休んで英気を養うのもいいだろ。今日までの給料も明日まとめて払ってやるからよ。でも出発の前日は呑むんじゃねえぞ? 二日酔いのまま馬車に揺られてゲロったらたまったもんじゃねえからな」
「ジョニーってお酒飲むんだ?」
「ん、晩酌ですこし。こっち来てからの習慣だけどな」
元の世界ではほとんど呑まなかったがこっちでは眠剤代わりだ。
「つーわけで今日も付き合ってくれるんだろ? お嬢ちゃんはどうだ、呑んでみるか?」
といって半分ほどに減ったウィスキーのボトルとグラスを三つ取り出してくる。
師匠はストレート派、俺は冷えた井戸水で1:1に割るのが好みだ。
「それじゃほんのすこしだけ」
ささやかなエミリーの歓迎飲み会が一日遅れで始まった。
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