第42話 商談と脅迫と説得。お役に立ちます!

 師匠と銃弾の件を相談し、オートマティックのデファクトスタンダードとして.38口径オート弾を普及させるべく西都市用に製造ラインを用意してもらうようにお願いした。最初は難色をしめしていた師匠だったが、多弾携行の利点と開拓民向け、後の軍用軽量武器との利害が一致したこともあり最終的には納得してくれた。なにせ.38口径のオート弾は弾頭の軽さもあり火薬量も少ない割に.44口径と遜色のない威力を発揮してくれるのだ。その上.44口径より反動が少ない。不慣れな開拓民でも当たりやすい銃。当たらなくても弾数はリボルバーの1.5倍。ほとんど練習なしという条件ならリボルバーより連射速度も早い。このあたりを強調すれば、まだGOサインを出していないトヨダ社長も量産体制を組んでくれるかもしれない。普及さえしてしまえば.38口径オート弾こそがこの世界の9mmパラベラムになるだろう。そのうちホローポイント弾などのカスタム銃弾をうちが独占で作れるようにするのもいいかもしれない。


 トヨダ親子との商談開始から1時間。無事に商談終了。3対1でジョン・トヨダ式オートマティック拳銃を推したのだ。普通に長物を改良、開発していたエンジニアのおっさんvsオートマティック拳銃の狂信者二人に西都市のギルド幹部の後押し。端から見たら弱い者いじめかヤクザのいちゃもんか、というような様相を呈していたことだろう。

 結局、テスト済み試作拳銃2丁と改良型1丁(テスト済み品を後加工したもの)改良対応済み予備マガジン8つ、マガジン制作用の設計図の写しと治具、弾薬の仕様書と現物を20箱4000発、予備マガジン、弾薬の製造権を手に入れた。弾薬に関しては薬莢の形が特殊なのですぐには製造できないけれど。

 それにしてもジョンに提案した、再装填時にもう一度初弾を薬室に送り込まないといけない問題。一晩で銃本体とマガジン8つを改造してくれるとは仕事が早い。スライドに切り欠き、フレームに穴、ホールドオープン対応のフレームロックピンを削り出しにマガジン8つに切り欠き。手作業でやるには簡単といえる加工だが製造工程に加える、規格化するとなると大変である。設計図のほうはなおしが入ってスライドオープン対応版になっている。一晩でやるには大変な作業だったはずだ。ジョンは寝ていないんじゃなかろうか。あの「説得」の場にエミリーを連れてこなくてよかった。血走った目のジョンにオートの利点をまくし立てる俺、西都市で普及させるために量産されたら開拓民向けに数十丁単位で注文すると大見得を切ったベック師匠。「トヨダ銃器製造販売」の社長、ジョンの父ジョナサン・トヨダがおびえたチワワみたいになってたもんな。ま、利点はちゃんと理解してくれてたようだけど。そのうちオートマティックライフルやオートマティックカービンも開発するようになってくれるかもしれない。


 さて商談、といっていいのか分からない脅迫じみた説得が終わりミリーと俺は街に買い物に行くことにした。ミリーは「ハブられた!」と怒り心頭だったが、師匠にもらった小遣いでアクセサリの一つでもプレゼントしてごまかそう。ごまかしきれるだろうか? しっぽも耳も毛が逆立つほどの怒りっぷりだったもんな。

 ベック師匠とジャック・ムラタさんは明日の西都市帰還計画の調整だそうだ。ジャックさんの部下、ムラタの若い衆は昨日の晩にしこたま呑んだ酒で二日酔い。出発までは酒を抜く任務にあたっている。つまりは宿で寝込んでいる。

 俺はトヨダ式オート銃のテストということで一箱と改良済み本体、予備マガジンを4つ預かる。師匠は渋っていたが、なにがあるか分からないので頭を下げて買い取りという形にしてもらった。これで堂々とカスタムパーツを作って組み込めるというわけだ。とはいえ。とりあえずの所はグリップやセーフティ、ハンマーの形状変更、トリガー付近とマグウェルの削りくらいしかやりたいことはないけれど。

 というわけで.45口径の4.75インチリボルバーと.38口径の4.25インチオートマティックの2丁拳銃だ。抜き撃ちならリボルバー、相手の数が多ければオートと使い分けになるだろう。4つの予備マガジンにも弾を込めてズボンのポケットにつっこむ。オート自体はベルトに挟んで初弾は込めないでおく。革のホルスターかズボンに固定するクリップが欲しいね。


 ミリーと二人、商店街を散策していると「なんか人が変わったよね、ジョニーって」とツッコミを入れられる。「鉄砲鍛冶の仕事についてから機械いじりに興味を持った」と言い訳。とくに師匠は北都市の新製品なんかをいろいろと扱ってるからジョン・トヨダの銃に興味をかれたというのも事実だ。転生で記憶が混ざっているのも事実なんだろうけれど。

「俺」は機械弄りの部分や趣味としてのタバコや酒以外は極力「僕」の経験を思い出して行動するようにしている。「僕」ならこんなときどうしただろう、と一歩引いて考える。もちろん考えている暇のない、危険が迫ったときは「俺」「僕」両方の知識や経験をフル動員だ。

 ぶっちゃけると「俺」以外の二人、師匠とミリーはそれぞれ得意な面がある。師匠が遠距離狙撃、ミリーは150~200mの白兵戦距離の銃撃特化だ。なら自分は?

 そして不安になる。「俺」と「僕」が混在した今の自分にできることはなんだろう、と。

 戦闘だったら近距離の銃撃で有利になれるように弾数をばらまけるようになりたい。だからこそ装弾数の多いハンドガンに魅力を感じるというわけだ。

 普段の生活であれば四則演算を教えるくらいには転生前の知識が使える。ときどき暇な時間にエミリー相手に算数を教えている。高度な幾何数学やロジックを弄くり倒すような目的じゃないから整数の四則演算と0の概念、分数を教える程度。この程度なので役に立っているという実感はない。そりゃ師匠の店で45銀2銅大5小の買い物に46銀からの支払いに、おつりとして7大5小が即座に出る程度には「生活の役に立ってます」感はあるけれど。


 ねえ師匠、エミリー。俺って役に立ってるんですかねぇ?

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