第95話 トラックの改造案

 先日購入したトラック基本型ベースキットの改造案を考えよう。


 と言ってもすぐに出るようなものでもないし、試行錯誤が必要となるだろう。なので現状ではトラックフレームの上に簡単な荷台を据え付けて、エンジン周りを薄い鉄板でカバーした、本当にシンプルなトラックとしてしばらくは運用する。もちろんこれはベック師匠に許可を得ている。


「まあ将来的に使いやすくなるってんならいいけどよ。最低限、荷運びにつかえる程度は手を入れるぞ?」


 と言われたからエンジンカバーとフェンダー、荷台をでっち上げただけとも言う。

 トラックでオープンカーってどうなんだとも思う。が、ここに手を掛けすぎると改造するときに大変なのだ。


 基本構造のおさらいからしていこう。

 フロントエンジン、リア駆動。フレームはラダータイプ。骨組みがしっかりしている。

 フレーム上、前方にエンジンをネジ止め、給油は重力式。エンジン後部からフレーム下にパワートレインという構成。

 足回りは板バネで左右連動。


 まず問題点を考える。


 給油が重力まかせなので山道登りだとエンコする可能性がある。電動もしくは機械式ポンプをつけて、余った分はタンクに戻す方式に改造したほうがいい。マニュアルだときつい傾斜はバックで登れって教えられたんだぜ?

 ハグレに襲われて逃げるときにいちいち切り返すなんてやってられないぞ。それに燃料タンクが座席の下にあるのも怖い。


 サスペンションも馬車のまま。フレームと車軸の間に据え付けられているので車高が高すぎる。

 さらにその上に荷物を載せるのだ。カーブでこけそうで怖い。


 サスペンションのリアはリジッドアクスル。車軸が根本で曲がったりしない方式。

 トレーリングアームは変速機に固定されており、スタビライザー兼用なのかもしれない。

 サスペンションは車軸の中央に板バネ。馬車の名残だろうか。ドライブシャフトを軸に変速機部分でねじれるようになっているのかも?

 どうであれ、荷物を満載したときにスピードを乗せたまま曲がったら横転待ったなし。重心を下げたい。

 左右リアタイヤの間にドーンと居座った板バネが邪魔。そのままだとどうしても重心を下げるのは困難だ。これを左右に追い出したい。そうしたら前輪の角度が変わってしまうがリアは下げられる。


 フロントは独立懸架に改造が可能に思える。だがしょぼいブレーキしか付いてないのが怖い。

 クルマの走る、曲がる、止まる、という三要素で走る以外が弱すぎる。走る、もタイヤが細くてぬかるんだ道にも弱いんだけどさ。

 動力輪である後輪を二重にしたら多少はマシになるだろうか?


 こんなところか。


 まずは低重心化とサスペンションのフワフワ感をなんとかしたいね。運転してたら多少はマシだけど、あれ酔うんだよ。荷台に乗ったら大変よ?


 スターターは手回し式。そのうち電動モーター化したい。試作中のバッテリーができたら考えよう。


 フレーム改良。

 改良と言っても形を大幅に変えるわけではない。フレーム位置が高くてサスがふわふわなのが不満点。

 エンジン部分は変えず、運転席の後ろあたりでフレームをナナメにして補強する。その後ろ、荷台部分はまた水平。平行四辺形の上下部分を横に伸ばしたようなフレームに変造。荷台部分のフレームがほぼ水平になるようにリアサスの板バネを進行方向に横向きではなく縦向き二本、フレームの外に位置変更。

 板バネの両端でフレームをつるし、中央を車軸に固定。ストロークは変わらず、フレーム位置を下げることができる。

 本当は前輪のサスペンションも改造してフレーム全体を下げたかったのだけれど、いまいち上手い方法が思い浮かばなかった。すげえよマクファーソンさん。

 マクファーソン・ストラットを実現するにはショックアブソーバーと同軸になったコイルスプリングが必要。

 だがそのショックアブソーバーの実現が難しい。キャビテーションの発生は諦めて高圧ガスを採用しない、つまりオイルを使った短筒式アブソーバーか複筒式ショックアブソーバーを作るか、ギアで減速させまくった摩擦もしくは硬質油タイプのロータリーダンパーを採用するか。

 どちらにしろピストンロッドの出入り口や硬質油接触部分軸の加工精度が重要。もしくはパッキン。安定したゴムが作れるならゴム摩擦式にするという手もある。


 リアはスプリングを横に移動させたことでドライブシャフトやリアデフのメンテナンスは大変になったがしかたない。安定感は増すだろう。荷下ろしが楽になるメリットもある。

 あ、車軸はちゃんとカバーされてました。ベアリングが存在する世界。けっこう精度は良さそうです。元の世界レベルとはいかないけれど。


 運転席位置が高いのも仕方ない。ペダルもハンドルもエンジンに固定なんだから。エンジン位置を下げるのは無理。運転席だけなら多少は変更もできるだろうけれど、クラッチはどうしても直接くっついている。これの変更は面倒だ。


 四輪駆動改造案。

 リア車軸の後ろにさらにリア車軸を用意、接続することによりリア四輪駆動を可能にする。前方ドライブシャフトと逆回転になるが、リアデフ側で……は無理だ。デフの中にギアが詰まっている。シャフトドライブで連動させる方法が思い浮かばない。

 なのでチェーンドライブでリア側二軸を連動させよう。六輪中、中間軸まではドライブシャフトで、リア二軸間はチェーンで接続。リア車軸は前後別にサスペンションをつけることで接地効率を上げられるはず。

 ただし二軸はつねに平行になるようにリンク部品を用意する。本来なら四輪駆動トラックにしたかった。でも前輪を駆動させるのは難しいので、荷重のかかるリアを二軸に増やしリア四輪駆動にする。これでトラクションを稼ぎ悪路走破性を上げることが目標だ。

 前輪のトラクションはエンジン重量で稼ぐ。ドロドロの地面でスタックしたら嫌なのでタイヤ自体は標準より太いものを用意してもらっている。それでも不安は残る。どうみても元の世界のタイヤより細いんだもの。


 見た目だけなら六輪トラック。しかしエンジンのパワーアップ分の大半は増えた車体重量に食われている。多少はパワーウェイトレシオが上がっているが、それほど余剰がある訳でもない。荷物を載せたらノーマルと同じ程度になってしまうだろう。



 ここまでならいけるか?


 時間はかかりそうだが技術的にはなんとかなる……気がする。フレームを作り替えて、後ろの動輪を増やして。サスペンションも固定位置を変えて。エンジンやタイヤはそのまま新しいフレームに載せ替える。ブレーキも油圧とはいかないがワイヤーでつないで、さらに強化。


 幸い溶接機はある。腕の良い馬車職人はいないが、何でも屋のヘンリー師匠もいる。荷台部分は既に木で作った。強度が欲しければ鉄パイプは山ほどある。それを自由に動かせるほどにはエンジンパワーの余裕もある。


 これでベック師匠は納得してくれるかな?




 ダメでした。サスペンションの改良と重心下げだけ。あとダンパーの開発を命じられました。

 残念。


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