第8話 ヘンリーさんの都市講座。続編

 この世界への疑問は尽きない。


「都市の市民制度、税制、物価などを教えてください」

「おいおい、ジョニー君は学者でも目指してんのか?

 まあ知ってる範囲で教えてやるけどよ」


 ヘンリーがあきれた顔で俺を見る。


「できれば紙とペンを貸してください」

「ますます学者っぽいな……。それなりに高けえんだぞ?」

 数枚の紙と鉛筆を寄こす。


「市民制度つってもお前さんの村だと旅に出るときは村長が身分証みたいなのを書いてくれるだろ。それに毛が生えたようなもんだ。

 役所で書いてもらうときに金を取られるのが西都市だ。身分を保証する人間が二人ばかり必要だけどな。そこらへんが開拓村との違いだな」


「都市運営のための資金はどこから?」

「運営? 石壁の補修なら街のお偉方が金を出し合ってなんとかする。共有の井戸を掘るときは市民に寄付を募る」

 ほとんど税金を支払う必要はないらしい。過ごしやすいかもしれないけれど社会保障なんてもんもないんだろうな。

「あとはギルドに払う金だな。これが一番でかい。鍛冶屋ギルドだと地金を買うときに上乗せされてるし、年費用もいくらかかかる。

 代わりに商売が認められてるんだがな。野良でやったらどうなるか分からんよ」

 と言って首を切るようなジェスチャーをする。


「ギルドのトップも都市運営に口出しをしてるんですか?」

「当然だ。なんたって顔役だからな。

 西都市を発展させてきたっていう自負もある」


 ヘンリーさんもその自負を持つ一人のようだ。

 そして街の功労者やギルドのトップが都市運営をしている。日本だったら江戸時代のお代官様と廻船かいせん問屋のような持ちつ持たれつの関係だろうか。


「都市の治安はどのように確保を?」

「質問攻めだな、おい。

 他の都市とおんなじで都市のお偉方の親戚が保安官や保安官助手をやってるよ。

 お前さんの村なら村長が間に入って喧嘩けんかの仲裁をするようなもんだ」

「なるほど」


「物価も知りたがってたな」

 少しだけヘンリーさんが言いよどむ。

「……悪いとは思ったがジョニー君の荷物は改めさせてもらったよ。

 財布の中身で二ヶ月は安宿で暮らせるだろう」

 このおっさん、俺の財布の中まで漁ったのか! 頭に血が上るのを感じる。

「まてまて、落ち着け! 何も取っちゃいない。信用できるやつか知りたかっただけだ」

 たしかに午前中のチェックで何かを盗まれた様子も、銃に手を加えられた様子もみつけられなかった。


「若いチンピラを助けさせて上がり込み、縛り上げてから家の中のもんをごっそり持ってく手口がいっとき流行ったんだよ」

「ならそのまま行き倒れとして保安官に俺の身柄を渡せばよかったじゃないですか」

 憤慨しつつも悪い人ではないらしいと思う。楽観視しすぎだろうか。


「保安官が財布を盗まないとは限らないだろ」

 そんなに他人が信じられないならなぜ助けた。

 思っていることが顔に出ていたらしい。

「そりゃお前、知ってる悪いやつと知らない命を助けてくれたやつなら後者を選ぶだろ?」

「え、保安官は悪人なの?」

「俺は保安官がハナタレぼうずのときから知ってるんだぜ? 殺しはしないが小銭をちょろまかすくらいはする悪ガキさ」


 ヘンリーさんの遠い眼差しが印象的だった。

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