第四十話 『見下げる女神様に謝罪する男』


 テントの入口から見える外は、今日も今日とて快晴の空。

 午後の時間の紅茶を飲んでいると、外交旅団団長のゲオルグが自身の赤い髪の毛を触りながら私の足元までやってきた。

 ゲオルグは申し訳なさそうに言う。


「あー…… 女神メルナ様。謁見の希望者が来ました」


 まじか……

 正直もうアホを相手するの嫌なんだけど……

 私の雰囲気を感じ取ってか、ゲオルグは言った。


「どういたしましょうか? 断ったり突っぱねる事もできますが……」


 そう私を思いやるゲオルグ。

 その気持ちは嬉しいが、この遠征に出る前に私の執政のロナウドから「なるべく沢山の貴族と交流してくるべきだ」と釘を刺されている身だ。

 矮小な虫けら共とは違い、ロナウドからの助言という事もあって、そう無下にする気には起きない。

 溜息をつきながらゲオルグの言葉に返す。


「はぁ…… いえ、通しなさい」


 私の言葉にゲオルグは軽く「そうですか。わかりました」と答えてテントから出ていく。

 さて、次の命知らずをどう捻り殺してやろうか。

 どうせ今回の謁見に来る貴族もロクでもない馬鹿者だろうと高を括っていると、テントの入口から一人の初老の男性が入ってくる。

 白髪が混じった金髪と碧眼の初老の男性は、私の足元までくると深いお辞儀をした。

 ふぅん…… 挨拶が出来るタイプの奴が来たか。

 まあでも、少し関心している自分でも異常事態だとは思うよ。

 お辞儀された程度で関心するって、普通に考えて異常事態だ。

 私に謁見に来る奴らって、何でこんなに揃いも揃ってヤバい奴らばかりなんだ。



○○



 広大なテントの中で、真っ黒なゴシックドレスを着た四百メートル程もある大巨人である巨大なメルナを前に頭を下げる、白髪交じりの金髪碧眼の初老の男性、バドラーは冷や汗をかいていた。

 バドラーは思う。

 何故、馬鹿で無能な諸王国の貴族達の尻ぬぐいを自分がしないといけないのだ、と。


 事の発端は二日前。

 女神メルナに多数の貴族が謁見に行ったものの、多くの者達が謁見を最後に、そのまま消息を絶つ事が後を絶たなかった。

 それを不信に思ったエトワールヴィルの捜査班が調査する。

 聞き込みなどを通じて事の真相を探るも何も得る事が出来ず、業を煮やした調査班は直接、女神メルナの使用人たちに聞き込みを開始した。

 その結果、案外すんなり真相が判明したが、その内容は、あまりにも急を要する程に深刻な内容だった。

 

 町を踏みつぶす程の、人類の国々が逆立ちしても敵わない程の圧倒的な力を持った女神メルナを相手に、その消息を絶った貴族たちは信じられない程の無礼な態度をとっていたというのだ。

 その貴族達は機嫌を損ねた女神メルナに虫を殺すように捻り殺され、その遺体は隷属連邦の外交旅団が丁重に保管しているとの事。

 

 バドラーの仕事は二つあった。

 女神メルナに貴族達の無礼を謝罪する事と、その殺された貴族達の遺体を回収する事。


 バドラーを見下ろす巨大なメルナの桃色の瞳は凍て刺すように冷めていて、今すぐにでも巨大なメルナの指で虫の様に捻り潰されそうな雰囲気が漂う。

 その圧倒的な威圧感を前に、頭を下げるバドラーは足が竦む思いだった。

 威圧感に負けじとバドラーは目の前の巨大なメルナを見上げる。

 バドラーは、自身を見下ろす巨大なメルナの冷え切った瞳に耐えながら、口を開いた。


「単刀直入に申し上げる。女神メルナ様、今までの貴族達の無礼、まことに申し訳ありませぬ」

『……ふぅん』


 バドラーの謝罪に、巨大なメルナは軽い生返事で返す。

 目の前の巨大なメルナの怒っている雰囲気が、バドラーにひしひしと伝わっていく。

 そんな巨大なメルナの様子を伺いながら、バドラーは言う。


「女神メルナ様。言い訳がましくなりますが、話を聞いていただけませぬでしょうか」


 バドラーはそう言うと、事の経緯を話始める。

 そもそも、大陸首脳会議に参加する諸王国の貴族達の大半は女神メルナを恐れて謁見に向かおうとは思わなかった。

 それもそうだ。

 町を片足で踏みつぶす大巨人である女神メルナを相手に謁見など、もし無礼があったら自分の町、ひいては王国が丸々更地になってしまうかもしれない。

 そんな危険な橋を渡ろうとする貴族達は殆ど居なかった。


 でも、それでも、殆ど、だったのだ。

 つまり、少数ながら馬鹿な貴族達が居たという事。

 その少数の馬鹿な貴族は、元から問題行動が目立つ事も多かった。

 特に理由も無く無意味に領地の税を上げたり、議会で現実を無視した愛国心で外交問題の解決として他国への攻撃を提案したり、時代の流れや流行の変化を一切考えないで永遠と同じ政策に拘ったり。


 そんな問題ばかり起こす諸王国の少数の貴族達は、ここ数年で大陸最大の帝国になった謎多き帝国である隷属連邦の元首である女神メルナが大陸首脳会議に参加する事に食いつく。

 その者たちは思ったのだろう。

 この栄えある貴族様が品定めしてやろう、と。

 結果、彼らが行ったのは、今バドラーを見下ろす巨大な女神メルナへの信じられない程の無礼だった。


 バドラーは再度、頭を下げる。

 深々と頭を下げて、許しを請う。


「申し訳ありませぬっ! 奴らが謁見に行ってしまったのは我らの監督不行き届きでございまするっ! しかし、その怒りを抑えていただけませぬか!」


 そう言ってバドラーは女神メルナを見上げて言う。


「もし、もし我慢ならないのでしたらっ……! せめてその怒りはっ! かの貴族達の領土だけに収めていただきたい!」


 必死な様子で頭を下げるバドラー。

 そんなバドラーの様子を、ずっと無言で見ていた巨大なメルナは口を開いた。


『で、その貴族達の領土って、どこなの?』

「は、はい! それは――」


 巨大なメルナから下りてきた言葉にバドラーは答える。

 理不尽な天罰が、どこかの地に下りようとしていた。



○○



 その日の深夜、満点の星空が輝くエトワールヴィルの首都リスブールは、遠くの山の奥から響き渡る騒々しい轟音に支配されていた。

 街の住民たちは各々不安を口にし、子供はぐずり泣き、鳥たちは泣き叫びながら行く当てもなく宙を飛び続ける。

 遠くの山の奥から響く重低音のような破壊の轟音。


ドズゥゥゥゥン…… ドォォォォン…… ドドォォォォン……


 世界を揺らすかのような破壊音は大陸全土で聞こえるであろうほどだった。

 沢山の破壊音が鳴り響き、鳴り止む。

 そして、しばらくして別の方角から破壊音が響き渡る。

 繰り返し響く破壊音にリスブールの人々は不安で肩を寄せ合い、轟音が響き渡る満点の星空を見上げるのだった。



――――【あとがき】――――



・皆さん★レビューください。

 いやお前、二つ前の投稿で★レビューの宣伝したばっかりじゃんって言われそうなんですが……

 でも、この★レビューの数で見てくれる読者の数が大幅に変わるのです。

 なので、あなたの清き★レビューをください。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る