第十五話 『特殊作戦』
空が明るくなり始めた早朝、その建物は住宅地の一角にあった。
どこから見ても普通の民家のそれは、木の窓は閉じられ人の出入りが多い訳でもない。
一見すると空き家のような雰囲気が漂うその民家の前に、突如として騎馬隊が到着し、馬を降りて周囲を警戒し始める。
それに続くように沢山の馬車が到着し、停車するなり扉が勢いよく開き、沢山の兵士が下りた。
馬車から降りた兵士たちは腰からショートソードを抜き、その目の前の民家を前にして構え、やがて一部の兵士たちが扉の前に集まり、突入に向けて待機する。
しばらくして槍をもった兵士も徒歩で民家の前に到着し、それを待っていたかの様に兵士の隊長らしき人が手信号を送った。
一人の兵士が馬車に戻り、その馬車の中からハンマーを手に取ると突入を待機する兵士の集団に戻り、その先頭に出て扉の前で振りかぶり待機した。
兵士の隊長らしき人が叫ぶ。
「作戦開始!」
その掛け声に合わせ、扉の前でハンマーを振りかぶる兵士がハンマーを振り下ろした。
ドガンと大きな音を立てて扉が吹き飛び、それに続いて兵士たちが続々と突入していく。
「臨検だ! 抵抗するな!」
「臨検だ! 邪魔するなら敵とみなす!」
「抵抗せずに投降しろ!」
兵士たちは怒号を響かせながら民家に突入し、まずは玄関から入ったすぐの部屋を掃討しはじめる。
中に居た民間人の恰好をした数人の男が急いだ様子で棚から剣を取り出し兵士に斬りかかった。
その斬撃を兵士たちは受け止め、戦闘になる。
数手のやり取りの末、兵士が一人の男を斬り殺す。
ザシュ!
「ぐあッ!」
それに続いて他の兵士も男たちを斬り殺した。
ドスッ!
「がぁ!」
ザシュ!
「ぎゃあああッ!」
倒れる民間人の恰好の男たちの無力化を確認次第、兵士たちは止まる事無く周囲を確認し、近くにあった二階へ続く階段を駆け上っていく。
そんな兵士たちに向け、階段の上階から民間人の恰好をした女が飛び出し、手に持ったクロスボウを構えて放つ。
クロスボウの矢が先頭の兵士に突き刺さり悲鳴をあげる。
「ぐぁあああっ!」
倒れこむ兵士を後ろの兵士が受け止め叫ぶ。
「マンダウン!」
後続の兵士たちが止まる事なく前へ出て階段を駆け上がり、民間人の恰好をした女を斬り殺した。
ブシュ!
「いぎゃあああッ!」
倒れる民間人の恰好をした女の心臓に剣を突き刺しトドメを差す兵士。
それに構う事なく後続の兵士が続々と階段を駆け上がり、奥に進んでいく。
階段を上った先は廊下で、その廊下には二つの扉があった。
兵士たちが二手に分かれ、双方の扉の横で待機する。
やがて階段からハンマーを持った兵士たちが駆け上がってきて、双方の扉の前に立つと、タイミングを合わせて同時に扉を破壊し、それに続いて兵士たちが突入する。
突入する兵士たちに部屋の中から複数の矢が飛ぶ。
複数の兵士に矢が刺さり倒れこみ、後続の兵士は扉の後ろに戻り叫んだ。
「マンダウン!」
「こちらもマンダウン!」
双方の扉の後ろで一人の兵士が魔力を練り呪文を唱える。
「『フラッシュボム』!」
そうして片手に作り出した白い球体を部屋に投げ込む兵士。
部屋に閃光が走り、中からうめき声が響き渡る。
それを聞いて流れる様に双方の扉に兵士が再度突入していく。
やがて双方の部屋から争う音が響き、静かになると兵士たちが出てきた。
「クリア!」
「こちらもクリアだ!」
そう報告する兵士たちに、階段から隊長らしき兵士がやってきた。
隊長らしき兵士は聞く。
「魔方陣はあったか?」
その質問に兵士の一人が答える。
「見当たりません」
兵士の返答に、隊長らしき兵士が考え込んで言う。
「ここじゃなかったのか……?」
「敵性勢力が居たことを考えると、ここだとは思われます」
「それもそうだが…… だが何処に魔方陣が有るのか……」
兵士の意見に悩む隊長らしき兵士。
そんな隊長らしき兵士に、一人の兵士が言った。
「隊長殿、おそらくですが、どこかに隠し部屋が有る筈です」
「……隠し部屋だと? なぜわかる」
隊長らしき兵士の質問に、その兵士は得意そうに答える。
「こう見えて俺は軍隊に入る前には公安隊に居ましたからね。こういう臨検は沢山経験しましたよ」
「そうか、それは頼もしい」
「ええ、その経験で言わせてもらいますが、こういう偽装された拠点には、殆どの場合で隠し部屋がありました」
「そうか……」
兵士の意見に隊長らしき兵士は暫く考えた後、その兵士に聞く。
「間違っていてもいい。お前は、何処に隠し部屋があると思うのだ?」
隊長らしき兵士の問いに、その兵士は辺りを見回し考える。
しばらくして、その兵士は口を開いた。
「この部屋の構造から見て、上階と一階には特段の疑問があるスペースは少ない。であるなら、おそらくは地下室があるかと」
それを聞いた隊長らしき兵士は叫んで部下たちに言う。
「地下室だ! 地下室を探せ!」
隊長らしき兵士の号令を聞き、兵士たちは散開して地下室への入口を探し始めた。
○○
薄暗い部屋の中央で不気味に光る魔方陣。
その周囲で数人の不気味な魔術師が手に持った魔石から魔力を流し続けている。
不気味な魔術師の一人に、一般人の恰好をした一人の男が駆け寄り言う。
「おい! 当局が突入してきたぞ!」
焦った様子の一般人の恰好をした男の言葉に、不気味な魔術師は落ち着いた様子で答えた。
「もう少しで術式は完了する。それまでは何としても我らを守れ」
そう言う不気味な魔術師。
一般人の恰好をした男は不気味な魔術師に食って掛かる。
「その『もう少し』ってどれぐらいだよ! 具体的に言ってくれないと分からないっての!」
一般人の恰好をした男の言葉に、不気味な魔術師は間をおいて静かに答えた。
「……五分以内には終わる」
「くっそ! 短いようで長いじゃねぇか!」
そう言って一般人の恰好をした男は魔方陣がある薄暗い部屋の横にある扉を開け、その奥にあった廊下を歩いて一つの部屋に入る。
そこは魔方陣がある薄暗い部屋とは打って変わって生活感が漂い、居心地が良さそうな部屋で、そこには沢山の一般人の恰好をした人々が不安そうな表情をしていた。
部屋に入った一般人の恰好をした男はその場の人々に言う。
「お前ら、武器を取れ! あと五分で術式は完成する! それまで耐えるぞ!」
部屋に入った一般人の恰好をした男の言葉に、部屋の人々は苦い顔をする。
「五分って…… まあ足掻いてみるしかないか……」
「相手は軍隊だぞ…… 五分なんて持つのか……?」
「ダメ元で光の輪の真理教に入ったんだ。やるしかないか……」
部屋の人々は口々にそう言うと、部屋の隅にあった棚から剣を取り出し、鞘から抜く。
そして人々は生活感のある部屋を出て魔方陣がある部屋にやってきては扉を固く閉じた。
しばらくして、魔方陣がある部屋の扉の奥から物音と声が聞こえてくる。
「隊長殿! 地下室を発見しました!」
「よし! 第一分隊と第二分隊が突入しろ!」
その言葉が聞こえ、すぐに魔方陣がある部屋に向かって複数人の兵士が突入してくる足音が扉越しに響き渡る。
魔方陣がある部屋に居る、剣を持った一般人は緊張した面持ちで扉を見ていた。
一般人の恰好をした一人の男が小声で言う。
「全員、手順は覚えているな?」
その言葉に、周りの人々は頷く。
そうこうしている内に、先ほどまで一般人の恰好をした人々が居た部屋の扉を破壊し突入している物音が扉の奥から聞こえてくる。
兵士は、その部屋には何もない事を確認したのか、やがて一般人の恰好をした人々の目の前の扉の奥に来る足音が響き渡った。
兵士たちと扉越しに向い合せになっている。
そう一般人の恰好をした人々が確信し、一般人の恰好をした一人の男が小声で言った。
「やれ」
その言葉に、一般人の恰好をした人々が扉を突然開けた。
扉の奥に居た兵士たちは驚きの顔をしている。
そんな兵士たちに構わず、一般人の恰好をした人々は兵士たちに突撃し、斬りかかった。
ザシュ!
「ぐあッ!」
ドシュ!
「がああッ!」
ブシュ!
「ぎああッ!」
兵士たちは油断していたのか、先頭に居た兵士の内、三人が一般人の恰好をした人々に斬り殺される。
それに続いて一般人の恰好をした人々が兵士たちに雪崩れ込んで細い廊下で乱戦になった。
兵士たちと一般人の恰好をした人々との激しい攻防。
剣戟音が響き渡り、次々と双方の犠牲者が増えていく。
廊下には足場の踏み場所も無い程に死体が積み上がり、やがて一般人の恰好をした人々の最後の一人である男が兵士に斬り殺された。
ザシュ!
「がぁあああッ!」
断末魔を上げ倒れる一般人の恰好をした男を確認し、兵士たちはすぐに奥へ進んだ。
そして兵士たちは魔方陣がある薄暗い部屋に突入する。
沢山の兵士が魔方陣がある薄暗い部屋に雪崩れ込み、そこに居た魔術師たちに剣を向けた。
そんな兵士たちに、魔術師の一人が魔方陣から振り向き、笑う。
「フフフッ…… もう少し早ければ、良かったですねぇ」
「……なに?」
不気味に笑う魔術師。
そんな魔術師を見て、隊長らしき兵士が言う。
「構うな、斬り殺せ」
隊長らしき兵士の号令で、兵士たちが魔術師たちに斬りかかる。
魔術師たちは何故か一切の抵抗をせずに斬り殺されたのだった。
――――【あとがき】――――
・こういう戦闘シーン、ミリオタの皆は好きなんでしょ?
ああ、大好きさ!
書いていてめっちゃ楽しかった。
・今回の話が面白かったら★レビューをください。
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