第十二話 『護衛は私の親友だった』


 目の前の姿見には眠たげな瞳でボケーっとアホ面を晒している、輝く銀髪ロングヘアをした碧眼の美少女がネグリジェから着せ替えられる為に周りのメイドたちにすっぽんぽんにさせられていく姿が映っている。

 自分自身でも思うが、まったくもって何とも言えない表情だ。


 そんな自分の表情とは対照的に周りのメイドたちの表情は硬く、まるでマフィアのボスを前にしたような必死さ。

 あの日よりかは周りの使用人たちに怯えられる事は無くなったが、それでも只のルナリア王国の王女扱いだった日々と比べると異質な扱いである事にはかわりない。


 今しがたネグリジェを脱がされショーツを履き、ブラを付け始めるメイドたち。

 そんな様子をボケーっと姿見越しに眺めていると、今しがたメイド長が私の自室に入ってくる。

 私の元に来るなり、メイド長は言う。


「恐れ多くも御前に失礼します、シルフィーナ様。オルドラ様がお呼びです。着替えた後に朝食前に執務室までご案内いたします」


 私にそう言うとメイド長は一礼して去っていく。

 メイド長が部屋を後にし閉じられた扉を眺める。

 ほんと、あの優しくも凛々しいメイド長の姿は今は無く、今はマフィアのボスに仕える使用人みたいになってしまった。


 姿見に視線を戻すとメイドたちの瞳は更に緊張した様子に変わっている。

 先ほどのメイド長の雰囲気を見ていたのだろう。

 なんで、こうなっちゃったかな。

 まあ、全部私のせいなんだけど……


 そんなこんなでメイドたちに着せ替えられ、姿見の前には美しくも白いシャツにフリルのついた黒いスカート姿の、輝く銀髪ロングヘアをした碧眼の美少女が映っていた。

 着せ替え終わったメイドたちが続々と部屋を退出していく。

 一人残された私の元に、メイド長が入ってくる。

 さて、お父さまの執務室に向かおうか。


 

○○

 


 メイド長に先導されながら長い長い廊下を歩き、お父さまの執務室にやってきた。

 扉をノックするメイド長に、お父さまの入出を許可する声が聞こえてくる。

 ガチャリと扉を開いて「失礼します」とメイド長が言い、私たちは部屋に入った。

 メイド長は、いつもの様に「恐れ多くもシルフィーナ様をお連れしました」と言い残し、執務室を去っていく。


 執務室には、執務机に居るお父さまとルガンダラ家の当主であるドルガ、それにドロシー。

 ドロシーは私を見るや寄ってきて、私の顔をじっと見つめる。

 しばらくしてドロシーは何かを安心した様子でホッと溜息をついた。


「はぁ…… 良かった…… 本当に私の知るシルフィーナ様ですわ」


 そんなドロシーに続き、ドルガも言う。


「陛下から聞いていたが、まだシルフィーナ様は私の知るシルフィーナ様の様で一安心ですな」


 ドロシーとドルガの言葉は、なんとなく意味はわかる。

 あれだけ無数の人たちを殺したのだ、人が変わったのかと心配されて当然か。

 ドロシーとドルガに何も言わずにスカートの端を持ち、お辞儀した。

 あんな事をした私の口から他人行儀な「私は何も変わりません」なんて事を言うつもりはない。

 そんな事を言うほど、私の感性は人を辞めては無いから。

 私のやり取りを見ていたお父さまはドルガに言う。


「シルフィーナは、まだ我が娘さドルガ殿。いつまでかはわからないが、それでも今は俺たちの知るシルフィーナだよ」

「そのようでございますな」


 お父さまの言葉にドルガが納得する。

 しばらく無言で私を見ていたお父さまとドルガだったが、唐突にドルガはお父さまに向き合い言った。


「して、護衛の件は何も問題も意見も無いが…… それ以外の話については俄かに信じられん。その情報、何かの間違いではござらんか?」

「気持ちはわかるが、報告の信頼性は確かだ」

「光の輪の真理教…… たしか五百年前に滅びた暗黒の輪の真理教の残党が立ち上げた秘密結社だったか。 ……が、このルナリア王国の王都で不穏な動きを見せている、と」

「ああ、そうだ」


 神妙な顔で、お父さまとドルガが話し合っている。

 難しい話だろうか、暗黒の輪の真理教がどうとかと話し合っているが、イマイチ理解できない。

 私を蚊帳の外にして話し合うお父さまとドルガだったが、唐突にお父さまは私を呼んだ。


「シルフィーナ。こっちに来なさい」


 呼ばれるがままお父さまの執務机に向かう。

 お父さまのいる執務机の前に来ると、お父さまは私の目を見て深刻そうな顔で言った。

 

「シルフィーナ、よく聞きなさい。君は今、なぜかは分からないが『光の輪の真理教』という謎の組織に狙われている」

「光の輪の真理教…… ですか?」


 お父様の言葉に、聞き返す。


「ああ、そうだ」


 私の言葉に肯定すると、お父さまは説明を始めた。

 あの時、私を狙った軍用ナイフを持ったメイドが所属している事が判明した組織である『光の輪の真理教』という謎の秘密結社。

 この世界で沢山の報告は有れど、具体的な活動内容が分からない秘密結社で、分かっている事は少ない。

 その分かっている事の一部として言われているのが『暗黒の輪の真理教』との関係だった。


 今から五百年前、当時存在した、とある大陸の中の一国家である、今は無きエトワールヴィルという王国の首都で、その暗黒の輪の真理教は大規模な儀式を行った。

 それは私も勉強係の伯爵夫人から聞いたこともある、この世界では有名な破壊の邪龍ネルガルヴァルシュトの召喚事件。

 話によれば、その暗黒の輪の真理教は、破壊の邪龍ネルガルヴァルシュトの力をもって世界に恐怖を振りまき、その脅威をもって世界を一つにまとめ上げるという構想を持っていたと言われている。


 ただ、それも失敗した。

 それどころか、暗黒の輪の真理教の構想の根本を叶えた存在が現れた。

 言わずもがな、女神メルナ様だ。


 暗黒の輪の真理教が召喚した破壊の邪龍ネルガルヴァルシュトを簡単に縊り殺し、最終的に全世界を奴隷にし、圧倒的な力で世界に君臨する女神メルナ様。

 そんな女神メルナ様に、暗黒の輪の真理教の指導者はエトワールヴィルの王都ごと葬り去られ、暗黒の輪の真理教は滅亡したと言われている。

 

 ただ、その暗黒の輪の真理教は当時に結構な信者数が居たらしく、その残党が沢山の後継勢力を作り上げた。

 その後継勢力は確認され次第、その地域の国家勢力に掃討され、そして残った勢力が新たな後継勢力を作るというイタチごっこを今でも続けているらしい。

 そんな数ある暗黒の輪の真理教の系列の勢力のうち、もっとも広く分布し、もっとも謎に包まれているのが『光の輪の真理教』という秘密結社だった。


 大陸を軽々と片足で踏みつぶせる程に巨大な女神メルナ様が歩いて散歩が出来る程に広大なこの世界において、様々な地域で存在が確認されている光の輪の真理教。

 構成人数も不明、その教義も不明、何を目的に活動しているのかも不明。

 一説には宗教団体などではなく、本質的には一部の政治的思想を元にした秘密結社の色合いが強いともいわれる謎の組織。

 お父さまは、そんな謎の組織が私の命を狙っているとの情報を諜報機関が得たことを教えてくれた。

 そこまで説明した所で、お父さまは改まって言う。


「そこで、今のシルフィーナには護衛が必要だと判断した。もしシルフィーナの身に何かあったら、このルナリア王国どころか大陸ごと女神メルナ様に滅ぼされるだろう。 ……いや、この大陸だけで満足するはずがない。周囲の大陸全てが更地にされてもおかしくない」

 

 そう言って、お父さまはドロシーに手招きする。

 やってきたドロシーを見ながら、お父さまは言葉を続けた。


「今日からシルフィーナの護衛としてドロシー嬢が側にあたる。これから仲良くしなさい」


 お父さまの説明に、ドロシーは私に挨拶をする。


「今日からシルフィーナ様の護衛をいたしますわ! 王城で過ごすなんて初めてだから楽しみですわね!」


 キラキラした瞳で私に言うドロシーに、ドルガは近寄り鉄拳を振り下ろした。

 ごすっと鈍い音がドロシーの頭から響く。


「あでっ!」

「ドロシー! これは遊びではないのだぞ! もっと気合を入れてだな!」

「わかってますわよ、お父さま……」


 ドロシーは頭をさすりながら、ドルガに言葉を返す。

 そんな様子に場の空気は和らいだ。

 ほんと、ドロシーらしい。

 それにしても私、秘密結社に命を狙われているのか。

 思い出すは、扉を乱暴に開けて入ってきた軍用ナイフを持ったメイドの姿。

 あんなのが私の命を狙っているって事か…… 



――――【あとがき】――――



・報告です。

 シルフィーナ編を分けてみましたが、結局はリーチする人にはリーチした結果、PV数が落ちていると判断しました。

 なので、どっちで続けても同じなら、これまで通り、こちらで続ける事にしました。

 お騒がせして申し訳ありません。

 これからも応援よろしくお願いします。

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