第十一話 『不穏な影の密会』
ルナリア王国の王都の端、沢山の作業員が働く倉庫地区には今日も無数の積み荷が集積、出荷されていた。
そんな倉庫地区の一角、人通りが少ない道を歩く一人の作業服を着た男。
頭の汗をタオルで拭いながら歩き続け、作業服を着た男は誰も人が居ない寂れた中規模集積所に到着する。
その集積所の入口は木製の観音扉のゲートで閉じられ、集積所の管理番号が書かれた木製の看板は文字が読めない程に色あせていた。
作業服を着た男はゲートを開け、中に入ると静かに閉じる。
集積所の中は地面から生えた雑草が生い茂り、最低限のメンテナンス以外は手が付けられていない事が伺える。
そんな集積所の奥、中規模の色あせた三棟の倉庫の内の一つに作業服を着た男は向かっていく。
色あせた倉庫には貨物搬出用の観音扉があり、その横の壁に掛けられた倉庫の所有者が書かれているであろう木製の表札は色あせすぎて何が書いてあるか分からない。
作業服を着た男は表札の更に横、人目につかない場所にある従業員が出入りする為の扉を開け、その倉庫に入る。
倉庫の内装は薄暗く、外観と同じ程には色あせていたが、その倉庫の中に山積みされた貨物用の木箱は真新しい。
そんな薄暗い倉庫で真新しい木箱の香りに包まれながら、作業服を着た男は倉庫の奥に向かう。
木箱が立ち並ぶ倉庫の奥、そこには騎士の鎧を身に纏った一人の不真面目そうな男が椅子に座って本を読んでいた。
騎士の鎧を身に纏った男は作業服を着た男を見るなりウンザリした様子で言う。
「おせー。いつまで待たせるんだよ。もう少しで帰る所だったぞ」
そんな騎士の鎧を身に纏った男の言葉に作業服を着た男は溜息交じりに答えた。
「仕方ねぇだろ。新しい所長はヤル気に溢れてる。お前も少しは俺ん所の所長を見習えよ」
「嫌なこった」
作業服を着た男の言葉に、騎士の鎧を身に纏った男はそう返し、手に持った本を閉じて近くの真新しい木箱の上に放り投げる。
トスンと木箱の上に本が落ち、騎士の鎧を身に纏った男は椅子から立ち上がって言った。
「で? 何処にあるんだ?」
意味深な口調で聞く騎士の鎧を身に纏った男。
そんな様子に、作業服を着た男は仕方ねぇなと言わんばかりの溜息をつき、しばらくして騎士の鎧を身に纏った男に手のひらを差し出して言う。
「あんた一応は騎士様なんだろ? 丈夫な短剣の一本は持ってるだろ。貸せ」
「一応じゃなくて、本物の騎士様な」
作業服を着た男にそう返し、左側の腰に差したショートソードの反対側、右側の腰に差してある短剣を抜いて差し出す騎士の鎧を身に纏った男。
作業服を着た男は短剣を受け取り、先ほど投げられた本が乗っている木箱の前に行き、その本を邪魔だと言わんばかりに手に取って騎士の鎧を身に纏った男に投げ渡す。
おっと、といった様子で本を受け取る騎士の鎧を身に纏う男。
そんな様子を見届けた後、目の前の真新しい木箱の上部の蓋の隙間にドスッと短剣を突き刺し、こじ開ける。
中には色とりどりの綺麗な石が満杯に詰まっていた。
それを見て感心した様子で驚く、騎士の鎧を身に纏う男。
「おお、スゲェ量の魔石だな」
「ああ、そうだろう」
騎士の鎧を身に纏う男の驚きに、作業服を着た男は答えた。
木箱の中の綺麗な石、魔石を一つ手に取り眺める騎士の鎧を身に纏う男。
しばらく眺めてから作業服を着た男に言う。
「確かにコレは魔石だな、ちゃんと魔力を感じる。 ……にしてもお前、お目当てがこの箱にあるなら最初に言ってくれよ」
「何言ってるんだよ。お目当ては、その箱じゃねぇよ」
「はぁ……? 何言っているんだよ。魔石が入っているから、この箱だろ」
作業服を着た男の言葉に、意味が分からないといった様子の騎士の鎧を身に纏う男。
それを見て、作業服を着た男は得意げな顔を作り、どうぞご覧あれといったポーズをとって辺りを見回した。
そんな作業服を着た男の行動に、意味が分からない様子だった騎士の鎧を身に纏う男だったが、何かに気が付いた様子で驚きの表情をする。
「お、おい…… まさかとは思うが……」
「ああ、そのまさかさ。 ……この木箱、全部さ」
作業服を着た男の言葉を聞き、参りましたと言わんばかりに両手を挙げて呆れ、驚く騎士の鎧を身に纏う男。
「マジかよ…… よく集めたな……」
「へっ…… まさか前所長も、この俺が作業員のくせして読み書きができる奴だとは思いもしてなかっただろうな。重要な魔物素材の荷物名簿が作業員に書き換えられるなんて、普通は思わないだろうよ」
高度な犯罪行為を得意げに話す、作業服を着た男。
そんな様子に呆れた顔で騎士の鎧を身に纏う男は言う。
「お前、それ昔からだよな。その学のある頭を、もっと人の為に使えば良かったものを。 ……例えば大学に入るとかさ」
「大学には行ったさ。でも退学になっちまった」
「退学って…… 何か盗んだりしたのかよ」
「別に大学内で盗みはやってない。ただ死霊術が楽しすぎただけだ。死霊術が楽しすぎるのが悪い」
「最低な理由じゃねぇか…… 聞いた俺が馬鹿だったわ」
呆れた様子で呟く騎士の鎧を身に纏う男だが、そんな様子に構う事無く作業服を着た男は話題を変えた。
「ていうかさ、上はマジでやるつもりなのか?」
「んぁ? 何がだよ」
「この魔石にきまってるだろ。最初に聞いた時、マジで頭沸いてるのかと思ったぞ」
「ああ、その事か」
作業服を着た男の言葉に納得し、先ほどまで座っていた椅子に腰かける騎士の鎧を身に纏う男。
騎士の鎧を身に纏う男は腰から水筒を取り出して一口呷ると腰に戻し、ため息をついた。
「はぁ…… まあ、結構ガチらしいぞ」
「マジかよ」
「なんでも、これを実行する上での具体的な運用ノウハウが有るらしい」
「……うっそだぁ。 こんな大規模な物資と術式、絶対に途中でバレるだろ」
御冗談を、といった様子の作業服を着た男。
その様子に騎士の鎧を身に纏う男も同意し始める。
「俺も正直信じられん」
「そらそうだろ」
「でも、上は凄いヤル気だ」
「まじかよ……」
騎士の鎧を身に纏う男の言葉に呆れを隠さない作業服を着た男。
目の前で椅子に座り黄昏る様子に、作業服を着た男は言う。
「……ていうか、他の奴が言っていたが、もっと直接的な作戦を実行したんじゃなかったのかよ」
「その『もっと直接的な作戦』ってのは、暗殺作戦の事か?」
「ああ、そうだよ」
「失敗した」
「……マジで?」
なんて事なさそうに言う騎士の鎧を身に纏う男の言葉に、作業服を着た男は驚く。
信じられないといった様子の作業服を着た男。
それを見て、騎士の鎧を身に纏う男は言う。
「この大陸群の地域一番の精鋭だったが、見事に真正面から負けたそうだ」
「……うっそだろ。相手は只の可憐な王女様で、簡単に縊り殺せる筈だっただろ」
「どうやら、そうじゃなかったらしい。 ……だから、この作戦が可決されて、目の前に大量の魔石があるって事だ」
「……まじか」
そう言うと、二人は無言になる。
しばらくして、騎士の鎧を身に纏う男は椅子から立ち上がり、作業服を着た男の手から短剣を取り戻して鞘に納めた。
出口の扉に向かって歩みを進め、作業服を着た男に言う。
「まあ、上には成功を確信するだけの自信があるみたいだし、光の輪の導きを祈ろうや」
「……そうだな」
「それじゃ、俺は仕事に戻る」
そう言って手を振って去っていく騎士の鎧を身に纏う男。
一人残された作業服を着た男は、開けた箱の蓋を閉める作業をしながら、小さく呟いた。
「どうか、光の輪の導きが有らん事を」
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