大陸に降り立つ女神様
第二九話 『遠方からの使者団』
窓から暖かな日差しが入る昼食後。
自室の窓際にあるテーブルで、今日も今日とてロマンス本を嗜んでいる。
目の前の文章では、パッとしない主人公の男が摩訶不思議な力を手に入れ、それに伴って謎の勢力に襲撃された所で本作のヒロインらしき少女に助けられた所だ。
そんな地球の平成中期に流行ったであろうタイプのベタベタなラノベ展開に、つい軽い苦笑が出てしまった。
しばらく読み進め、主人公の男がヒロインらしき少女の胸を揉むラッキースケベを発動して張り倒された所で一息ついて本を閉じ、テーブルの上の冷めてしまった紅茶を一口啜る。
今日も今日とて何もない一日。
紅茶をソーサーに戻し、ロマンス本を開いて続きを読み始めた所で、テーブルの上で虫の様な何かの気配を感じた。
まったく、こんな時に……
「そこに居るのは誰よ。さっさと退かないと捻り潰すわよ」
そうテーブルの上の存在に脅す。
しかしテーブルの上の存在は私の脅しをあしらうように言ってきた。
「おおっ、怖……」
テーブルの上からの声の主に、急いで謝る。
「ご、ごめんなさいロナウド…… 貴方とは思わなくて」
「ほんとにさ、すっかりメルナは巨神族の少女だよね」
私の謝罪に、テーブルの上から返してくるロナウドは、もう私から見て一センチも無いほどの大きさだった。
別にロナウドが小さくなったわけじゃない。
むしろ、その逆。
私が無駄に大きくなってしまったのだ。
隷属連邦なんていう、この世の地獄の様なディストピア帝国の支配者になってから、もう数年。
建国当初はディストピアな帝国に属す事を拒む様々な地方の貴族たちによる抵抗運動が活発だった。
抵抗運動とはつまり行ってしまえば反乱だ。
私兵で都市に立てこもる貴族たちを相手にするため、幾度も巨大化を使っては貴族の私兵を踏みつぶし、それでも退かない貴族に至っては都市ごと踏みつす。
そんな風に抵抗運動を力ずくで解決している内に、この帝国で私に歯向かう貴族は誰もいなくなった。
そうして色々あって、現在は十六歳。
気が付けば、私の普段の大きさは四百メートルを優に超える大きさになっていた。
そう、四百メートルを超える大巨人。
そんな大きさになってしまった。
テーブルの上のロナウドがヤレヤレといった様子で言う。
「そんな様子じゃ、怖がって誰も近寄ってこないよ?」
「わかってるわよ。でももう今更じゃない」
そう言い返すが、ロナウドは言う。
「そうなんだけどね、でもよく考えなよ。君は長命種だけど、僕は普通の人間だ。ずっと君の側に居てあげれる訳じゃないんだ。僕が居なくなったら、君は本当に独りぼっちになっちゃうよ?」
ロナウドの言葉に、息が詰まる。
分かっている。
そんな事は分かっている……
何も言い返せない私を見てか、軽くため息をついてロナウドは言う。
「まあ、分かってるなら良いんだ。それより、君に伝えないといけない事があるんだ」
ロナウドは、そう言うとポケットから何かを取り出した。
私に見せているが、小さすぎて何かわからない。
そんな私の様子にロナウドは言う。
「これは招待状だよ」
「招待状ですて?」
「ああ、招待状さ。大陸首脳会議のね」
ロナウドは事の経緯を説明しだした。
つい昨日の深夜に、この隷属帝国から遥か遠い国、エトワールヴィルから使者団が来た。
長い旅路の果て、この隷属帝国の首都であるゼレノガルスクに到着した使者団は、大陸首脳会議の招待状を隷属帝国の元首である私に渡したいと言ってきたそうだ。
執政であるロナウドが招待状を預け、詳しい話は私に直接話したいと使者団から伝えてきたらしい。
説明し終えると、ロナウドは言う。
「今から二時間後に謁見の間に来てくれる? 使者団の皆様がお待ちだよ」
そう言うと、ロナウドはテーブルから去っていく。
それにしても、使者団か。
確かに、大陸首脳会議は今年だったか。
はあ、仕方ない。
着替えるとしましょうか。
テーブルから席を立ち、自室の端にある衣装替えの場所に行く。
そこにはクレーンや足場が所せましと並んでいる。
今の私は四百メートルの大きさだ。
もう普通にメイドが着付ける事なんてできない。
衣装替えの場所に立つと沢山の使用人が現れ、クレーンを操作し私を着付け始めた。
クレーンを操作したり、梯子をかけて私の肩に乗ってボタンを器用に外していく。
そうして私を下着姿にすると、謁見用の新しいドレスを出してくる。
スカート下部の金の刺繍がアクセントの真っ赤なゴシックのドレス。
そんな派手なドレスを使用人たちは着付け始める。
クレーンが動き、沢山の使用人たちが私の体を上り、着付けは進んでいく。
しばらくして、着付けは終わり、大急ぎで使用人たちは後片付けを終え、去っていった。
近くの姿見の前に立つ。
その姿見には、桃色のウェーブしたロングヘアの、桃色の瞳の何時もの十六歳の美少女が居た。
胸元が開いた真っ赤なゴシックのドレス。
スカートの裾付近には金色の刺繍が入っている。
十二歳の頃からは見違える程には、色気が感じられる姿だ。
にしても、すごい大きさに成長したよね。
何がって?
まあ、胸元がね……
○○
巨大なメルナの自室の壁の本棚で、巨大なメルナが巨大な姿見の前に立っているのを二人の男がモップで床ともいえる広さの棚を掃除しながら眺めていた。
その胸元が開いたゴシックな真っ赤なドレスを着たメルナを眺めながら、お調子者な様子の男がヒソヒソと小声で、もう一人の不真面目そうな男に言う。
「にしてもメルナ様ってさ、スゲェ美人だよな。スタイルもスゲェし」
「まあ言いたい事は分かるけどさ、あまり余計な事は言うなよ? 他の奴らに聞かれでもしたら懲罰だし、もしメルナ様本人に聞こえでもしてみろよ…… その場で捻り殺されちまうぞ」
「分かってるさ…… でも言いたくなるだろ? あの体形に、あの顔だぜ」
そう言って二人の男はモップで本棚の床掃除の手を止めてメルナを眺める。
巨大なメルナが姿見の前でポーズをとっている姿を見ながら、お調子者な様子の男が言う。
「あの巨乳、すげぇよな。いや爆乳か? 一回でもいいから触ってみたいぜ」
「いや相手はメルナ様だぞ…… 触ったら生きて帰れない。それに、その胸も山みたいな巨大なんだぞ」
お調子者な様子の男の言葉に、不真面目そうな男はあきれた様子だ。
そんな不真面目そうな男に、お調子者な様子の男は言葉を続ける。
「だからこそじゃねぇか。あの巨大な胸を一度でもいいから上ってみたいぜ」
「馬鹿だよな、お前」
お調子者な様子の男の言葉に、不真面目そうな男は言葉を返すとモップを構え直し、仕事に戻り始める。
そんな不真面目そうな男の様子に、お調子者な様子の男は不満そうだ。
仕事に戻った不真面目そうな男を煽る。
「なんだよ、お前。いつもマトモに仕事しないくせに、今はいっちょ前に仕事して」
「なんでもないよ。 ……ちょっとは仕事しないと、また監督官に叩かれるからな」
「ははぁーん。さてはお前、いやらしい話が苦手なんだな?」
「いや、ちげぇーよ! 別に俺は―― ッ!?」
そう煽られ、言い返そうと不真面目そうな男が、お調子者な様子の男に視線を向けるが、そこに見えたのは巨大なメルナが自分たちが居る本棚に向かってきている姿だった。
巨大な足音に、お調子者な様子の男も気が付き、すぐに本棚を離れようとするが、もう巨大なメルナはすぐ近くに来ていて、本棚に手を伸ばし始めた。
『あと一時間以上は有るのよね…… これでも読んでましょう』
そう言って巨大なメルナは二人の男の、すぐ近くの本を手にかけ、引き抜き始める。
壮絶な轟音が辺りに響き渡り、二人は荒々しい地震に襲われた。
ズドドドドドドゴゴゴゴゴッ!!
「「うわぁああああああああ!!」」
自身の何十倍も巨大な本が引き抜かれる振動と風圧に、二人の男は吹き飛ばされる。
壮絶な風圧と唸る大地になすすべも無く、二人の男たちは本棚から転げ落ち、広大なメルナの自室の宙に放り出された。
このまま自由落下し、地面に落ちて死ぬ。
そう二人の男たちは覚悟したが、そうはならなかった。
ダップン!
二人の男たちは柔らかい肌色の大地に激突し、軽くバウンドする。
這う這うの体で周囲を確認する二人の男たち。
そんな二人の男たちに、大きな声量の声が轟く。
『きっしょ…… 誰よ、このエロ猿どもは?』
それは紛れも無いメルナの声。
その声がした方向を二人の男たちが見ると、巨大なメルナの顔があった。
二人の男たちは自分たちが今いる場所を今更、理解した。
『はあ…… 仕方ない。そんなに胸が好きなら、好きなだけ居ればいいわ』
そういって自慢の大きな胸の上に居る二人の男たちに構う事なく、メルナは歩き始める。
巨大な足音が響き、その大きな胸が跳ねる。
ズウゥゥゥゥン! ダップゥゥゥゥン!
「うぶっ!!」
「わっぷっ!!」
ズウゥゥゥゥン! ダップゥゥゥゥン!
「おぶっ!!」
「むぐぅ!!」
メルナの大きな胸の上で跳ねる二人の男たち。
ぴょんぴょんとメルナの大きな胸の上で飛び跳ねる二人。
しばらくはメルナの大きな胸の上で飛び跳ねていた二人だったが、二人のうちの片方、お調子者な様子だった男が、胸の谷間付近に滑り落ちる。
お調子者な様子だった男は何とか両足を開き、下に滑り落ちることは避けた。
「だ、だれか助けてくれっ!! 助け――」
ズウゥゥゥン! ドタプゥゥゥゥンッ!
助けを懇願するお調子者な様子だった男だったが、胸が大きく跳ね上がり、そして大きく撓む。
大きく開いた谷間に滑り落ちる、お調子者な様子だった男。
「た、助けてくれ! お、お許しださいメルナさ――」
ズウゥゥゥン! ズドップゥゥゥゥン! ボキボキベキブチュ!
お調子者な様子だった男の、悲惨な最後。
その様子を跳ねて上から見ていた不真面目な男は泣きながら巨大なメルナの大きな胸に向かって命乞いを始めた。
「ご、ごめんなさいぃぃぃぃい!! ごめんなさいメルナ様!! 死にたくないっ!! 死にたくないっ!!」
その声はメルナに届いている様子も無く、次第に不真面目な男も、メルナの大きな胸の谷間に近づき、そして――
ズウゥゥゥン! ドタプゥゥゥゥンッ! ズプッ……
「うぶっ!! ここは……? ッ!? ひ、ひぃ!! た、助け――」
ズウゥゥゥン! ズダップゥゥゥゥン! ボキボキボキボキベキバキブシュ!
○○
私の為の廊下を歩き、控室まで来た。
扉を開け、ソファーに座る。
手に持ったロマンス本を開き、読もうと思った頃、ふと先ほど私の胸に落ちてきた男たちの事が頭によぎった。
そういえば、あの二人どうなったかな……
相変わらずな大きさの自分の胸を見下ろすが、そこに彼らの姿は無い。
ズブッと胸に指を突っ込み、谷間を開いてみる。
そこにはグチャグチャのボキボキに体をへし折られ、もはや原型を留めてない形になった二人分の死体が乳に張り付いていた。
「あっちゃー…… この部屋に着いたら逃がしてあげるつもりだったけど…… 気が付いた時にさっさと逃がしてあげればよかったか……」
この見知らぬ二人には悪い事をしてしまった。
そんなグチャグチャの二人をハンカチで丁寧に拭き取り、ソファーから立ち上がって壁の通路に建っている使用人用の事務所に行く。
私が来た事で、何事かと人々が出てくる。
そんな彼らの横にハンカチの上の死体を置く。
「やっちゃったわ…… 胸の上に落ちてきちゃって、後で助けようと思ったらご覧の通りよ」
人の型を留めていない死体を見て慄く使用人たち。
そんな彼らに事後の処理は頼む事にする。
「せめて弔ってあげて頂戴」
そう言い、ソファーに戻る。
怖がらせるような事も言ったし、ほんと悪い事しちゃったな。
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