第二一話 『妖怪美少女に恋する乙女な騎士』
皇帝陛下の命令を受け、私達は会議室を出た。
やる気出しに伸びをしていると、横に居るルーシアに声をかけられた。
「で、どこから始めましょうか?」
「うーん……」
ルーシアの質問に返す言葉を考える。
まず、王室区画の調理班に噂が流れている事と、同じ王室区画のメイド班にも噂が流れてる事は知っているが……
さて、どっちに行こうか。
「うーん…… ルーシアさんは王室区画の調理班と王室区画のメイド班、どっちが先に話を聞くべきだと思う?」
質問に質問を返すようで申し訳ないが、これはルーシアさんに決めてもらった方がよさそうだ。
私の質問にルーシアは考えて言った。
「それでしたら、総数が少ない王室区画の調理班でしょう。メイド班は規模が多きすぎて初期調査としては難しそうです」
「なら、そちらにしましょう」
そう言って私達は王室区画の調理班が居る調理室に向かう。
さてさて、一体どんな話が飛び込んでくるんだろうか。
○○
王宮区画の調理室に来た私達を驚いた様子で見る調理人達。
そんな調理人達の一人が、私達の顔色を窺いながら、笑みを作ってこちらに来た。
「何か我々に御用でしょうか?」
「ええ、聞きたい事があるの。最近流れているドナルド王子の噂よ」
私の言葉に、驚いた様子の調理人達。
ひそひそと何かを話している。
彼らは何か口裏を合わせると、一人の調理人が来た。
「な、なんの話でしょうか?」
少し怯えた様子で言う調理人。
そんな目の前の調理人に、はっきりと告げる。
「最近の、ドナルド王子が暗殺を企てたという噂よ。あなた達、知っているでしょう?」
「な、なんのことか……」
あからさまに態度から分かる嘘をつく調理人。
そんな様子の調理人達の態度に、ルーシアは溜息をついた。
スタスタと調理人に近づくルーシア。
驚き怯える調理人達に向かってルーシアは、剣を抜いて首元に当てた。
ちょ、まじですかルーシアさん。
まさか殺生したりしないよね。
そんな私の内心など知りもしないルーシアは、普段は見せない凄みで調理人達を脅す。
「見え見えの態度で知らないと言われてもな。行っておくが、私の気は短いぞ」
「ひ、そ、そんな!」
怯える剣を向けられた調理人。
彼は後ろの私に助けを求める様な瞳を向けてきた。
うーん、どうしよう……
そう悩んでいた私だったが、ルーシアは調理人の瞳に気が付き、鼻で笑う。
「はっ、まさか後ろのメルナ様なら助けてくれるとでも? 後ろのメルナ様は、ロナウド王子の暗殺者を仕留めた方だが…… どう仕留めたか知らないのか?」
「へっ……?」
「それはそれはすさまじかったぞ? 血をまき散らし、胴体が半分になった暗殺者は、それはそれは悲惨な最後だった」
「ひぃぃぃぃ!」
ちょっとルーシアさんや、私を出汁にして脅さないでくれます?
そんな私の思いなど知らないといった様子で、ルーシアは「おい、聞こえているのか」と剣で更に脅す。
首筋に剣を当てられた調理人は泣きながら噂の事を話した。
調理人曰く、その噂は西棟で働くメイドに聞いたとの事だ。
そのメイドは噂話が好きらしく、そのメイドの元に行けば大抵の王城の出来事の顛末は知れるとの話で、噂好きな使用人達は皆、そのメイドに集まるとの事だった。
それにしても、西棟か……
確か皇族や貴族が王城の部屋を使用できない際に、非常時で用意された区画の筈だ。
あそこは王城としては寂れた雰囲気の場所で、忘れられた栄光と言った様相が漂う半分放棄された扱いの区画。
そんな区画だからこそ、心霊現象の目撃談が多く、王城での心霊スポットとして貴族どころか使用人さえ肝試しでキャッキャしてる様な場所だ。
話終えた調理人の首筋から剣を退けるルーシア。
調理人達はその場にへたり込み、大量の汗を流している。
ルーシアは剣を鞘に納め、命拾いした目の前の調理人に言い放った。
「運がいいな。あと数秒ほど口をつぐんでいたら切り殺していた所だ」
その言葉を聞き、目の前の調理人は余りの恐怖に意識が飛んだようだ。
パタリと倒れる調理人に目もむけず、私に次の場所に向かうぞとジェスチャーするルーシア。
そのジェスチャーに頷き、そそくさとこの場を後にする。
すまぬ、調理場の調理人達よ。
私では君たちを助けられなかったようだ。
心の中で合掌し、調理場を後にした。
○○
西棟は相変わらず寂れた場所だ。
十歳の時にロナウド王子と一緒に大人たちに連れられ、この西棟で肝試しをした事を覚えている。
あの時は、本当に怖かったなぁ。
横のルーシアも同意してくる。
「は、初めて西棟に来きましたが…… こ、これほどとは……」
そんな過去を思い出して現実逃避しても、横に居るルーシアが西棟の雰囲気にビビッて動かなくなっている事実は変わらなかった。
西棟の門の前で怖がり一歩も動かないルーシア。
まさかルーシアが幽霊や心霊スポットなどを怖がるとは思ってもみなかったが、いやはや人は見た目にそぐわない。
どうしたものかと考えるも、ルーシアはいっこうに動いてくれない。
これでは調査は進まないじゃないか。
しかたないなぁ。
ルーシアの後ろに回り込み、足と背中に手を添えた。
足を掬って持ち上げる。
「あら、軽いわね。ちゃんと食事はとってまして?」
「はわわわっ! メルナ様、私は自分で歩けますよ!? こんな、こんな乙女みたいな抱かれ方しなくても、わたしは……!」
何か喚くルーシアを、お姫様抱っこで抱え、屈んで西棟の門をくぐる。
ノシノシと西棟の玄関広場を進んでいく。
玄関広場の先、玄関ホールの扉を開けて屈み、中に入った。
どこか薄暗く、おどろおろどしい雰囲気の内装だ。
「良い雰囲気ではありません事?」
そう腕の中のルーシアに言う。
ルーシアは私を見上げ、顔を真っ赤にしている。
その表情は恋する乙女の様だ。
「わ、私は騎士団長の筈…… 私の中の女はとうに捨てた…… はず……」
ルーシアは私の腕の中で、よくわからない事を言っている。
そんなルーシアを抱いたまま、屋敷の中を歩いて回り、この屋敷を管理する事務所を探す。
にしても、ここは案外広い。
もともと今の王城が立つ前のメインで使われた城なだけある。
しばらく歩き、中庭に出た。
雑草が多いものの、最低限には管理された様子で、確かにこの西棟を管理するメイド達が居る事をうかがわせている。
中庭を歩いていると、一人のメイドと鉢合わせた。
そのメイドは植木鉢に水をやる為のジョウロを持っており、この場所に人が来るとは思ってもみなかった様子で私を見上げている。
しばらく見つめ合う私達。
仕方ないので私から声をかける。
「あの、そこのあなた?ちょっと聞きたい事が――」
「ひぇええええ!ででででたあああああ!」
私が声をかけると、大声をあげて逃げていくメイド。
手に持ったジョウロを投げ捨てドタバタと屋敷に入り、ズダダダと階段を上っては最上階に上り、その最上階の廊下をズドドドと爆走しては何処かの一室でバタンッと扉が閉じる音が聞こえた。
あそこに事務所があるようだ。
それにしても……
「そんな逃げる必要なくない?」
そう思って私の姿を思い出す。
四メートルの巨人の様な美少女。
あー、確かに妖怪と思われても仕方ないか……
気を落としていても仕方ない。
とりあえず、あの最上階の場所に行こうか。
ふいに腕の中のルーシアが気になったので見る。
なんだか口に指を当て、色気漂うメスの顔をしていらっしゃった。
「ああ、メルナ様…… 私のメルナ様…… 私の奥様であり旦那様……」
腕の中で、ルーシアはそんな事を呟いている。
とりあえず、まずは最上階に行くには、あのメイドが入っていった中庭の出入り口の近くに階段があるみたいだし、それを上りに向かえばいい。
メイドが逃げていった中庭の出入口に向かった。
てか、もしかしなくてもメイドが逃げた様に皆私を見て、追いかけっこが始まったり、しないよね?
そんな不安がよぎる。
全く、いやな予感だ。
――――【あとがき】――――
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