王都に降り立つ女神様
第一話 『古き神の神殿』
着せ替え人形の様に着飾られた後、屋敷の玄関ホールに向かう。
そこにはオールバックの銀髪金眼のイケオジと、金髪ロングヘアで碧眼の熟女が私を待っていた。
この顔面偏差値が異常に高い、この二人。
どちらも私の両親だ。
お母さまが、その金色のロングヘアを靡かせて私に駆け寄り、碧眼の目を輝かせて言う。
「あぁシルフィーナ! その姿、綺麗よ! きっと、その姿を見た古の神々だってメロメロよ!」
そんなお母さまの言葉に、つい独り言の様に呟いてしまう。
「もし使えないスキルだったら、私は用済みですよね……」
「なんて事を言うのよ! どんなスキルを得ようとも、シルフィーナは私のシルフィーナよ!」
私が零した言葉に、少し怒った様子で言うお母さま。
お母さまは私に美しい笑みを作り、私を抱きしめた。
そんな私とお母さまの様子を遠くから眺め、櫛で自慢の銀髪オールバックを調整していたお父さまが、櫛を胸ポケットに仕舞いながら私たち二人に声をかけてくる。
「ルナティア、シルフィーナ、二人とも、そろそろ馬車に乗るぞー」
お父さまの言葉に、お母さまが振り向き答える。
「はぁーい、あなた」
そう答えて、お母さまを私の手を握った。
「さあ、行きましょうシルフィーナ! お父さまが待っていますよ!」
お母さまに連れられ、玄関ホールから出ると、玄関口には美しい黒塗りの馬車の車列が停まっていた。
タラップがあると言えど、それでも馬車の入口は高く、お母さまがお父さまの手を借りて乗り、続いて私がお父さまの手をとり、お母さまの向かいに乗る。
私とお母さまが乗った後、お父さまは周囲を見て何かの合図をしてから、年齢を感じさせない元気さでタラップを踏まずにジャンプで馬車に飛び乗った。
「よっと!」
お父さまが飛び乗ったことで、サスペンションが揺れ、お母さまが可愛らしい声を出す。
「はわわっ!」
「おっと、すまんな」
お母さまの様子に、お父さまは笑顔で謝る。
そんなお父さまの様子に、お母さまは呆れた様子で言った。
「ほんっと! 国王になっても子供のままですわね!」
「男たるもの、歳をとっても若くいないとなっ」
「まったく、すぐに恰好つけるんだから!」
「はっはっはー!」
そんな様子でイチャイチャとお父さまとお母さまは言いあう。
まったく、何を見せつけられてるのやら。
見てるこっちが恥ずかしくなる。
気を紛らわせる為に窓から外を見ると、近衛騎士たちが関心した様子で馬車を見ていた。
「国王陛下、元気だよなぁ」
「ああ、他の国の国王とは男気が違う」
「あの方が国王なら、この国はずっと安泰だな」
「ちがいない」
そう言いあう近衛騎士。
私の父である、このルナリア王国の現国王、オルドラ・ルナリアは一部の騎士や貴族からは大変人気な国王だ。
人呼んで『少年を忘れぬ国王』とね。
○○
王城を出発した馬車は貴族地区を進み、やがて下町に出る。
窓枠に映る繁華街を眺めていると、目的の場所にたどり着いた。
神聖な雰囲気が漂う建物が窓に映っている。
ここが目的の場所、月の女神を祭る神殿だ。
馬車は神殿の入口まで続くレッドカーペットの前で止まり、使用人が馬車の扉を開ける。
沢山の群衆が見守るなか、お父さまは使用人がタラップを持ってくる前に、馬車の入口から飛び出した。
「はぁ!」
そうして前方にゴロンと受け身を取り、そのまま決めポーズをする。
響く歓声。
それを近場で見ていた男の子の貴族たちはキラキラした瞳で拍手をした。
「見たかよ! 陛下かっけー!」
「すげぇ! どこであの技を学べるんだ!?」
「陛下スゲー! 王族って、あんな技も学ぶのか!?」
そんな事を言う男の子の貴族たち。
いや、そんなものを学んでたまるかと言いたい。
そう思いながら馬車の出口からタラップに足をかけ、ストンと降りる。
そんな私を見た男の子の貴族たちは驚いた様子でいう。
「おおっ、王女様すげぇ! 誰の手も借りずにタラップに降りたぞ!」
「あんな高い馬車からか!?」
「陛下が凄いと王女様も凄いのかぁ!」
そう驚いた様子で言う男の子の貴族たち。
いやお前ら、それぐらい男の子なら出来るだろうが…… って、私、女の子だった。
振り向いてお母さまを見ると、ウンザリした顔で私を見ている。
お母さまが溜息交じりで憂う様に呟く。
「はぁ…… いったい誰に似たのかしら」
そういうと、お母さまは普通にお父さまの手を借りてタラップに足をおろして馬車から降りた。
お父さまは、それを見てから私に言う。
「さあ、シルフィーナ。俺とルナティアは諸侯との挨拶してくるから、君は祝福の儀の会場に行きな」
「わかりました、お父さま」
「ああ、がんばってな」
私の返事に、お父さまは手を振ってそう言うと、大人たちの中に紛れていく。
レッドカーペットが続く神殿の奥を見る。
明暗でよくみえないが、もう沢山の子供たちが長椅子に座っているようだ。
テクテクと神殿の入口から入る。
神殿の奥の祭壇には三日月を掲げた布面積が少ない女神像が置いてあった。
毎度思う事だけど、えらく寒そうな女神様だ。
そんな神様に対して失礼極まりない事を思っていると、後ろから少女に声をかけられた。
「ああっ! シルフィーナ様じゃないの!」
その言葉の主に振り向く。
そこには栗色の長髪と瞳の元気そうなご令嬢がいた。
彼女に言う。
「あら、こんにちは、ドロシー。今日も元気そうですね」
「シルフィーナ様は元気じゃないの?」
「こんな緊張する日に元気を保てるドロシーは流石です」
「あー! それ絶対に私をからかっているでしょ!」
ドロシーは機嫌を損ねた。
あら、こういう貴族特有のコミュニケーションは苦手だと思っていたけど、見ないうちに意味を理解できるようになっちゃったのか。
絶対にわからないだろうと思って言った言葉だけど、伝わっちゃうとは思わなかった。
「ご、ごめんなさいドロシー。 ……あなたも貴族令嬢として成長したのですね」
「お母さまに沢山の礼儀作法を叩き込まれましたわ。シルフィーナ様にいつもからかわれていたなんて、結構ショックだったんだからねっ!」
「その、なんといいますか…… ごめんなさい」
「……まあいいです。シルフィーナ様のからかいは、仲良しの証だってお母さまが言ってましたし」
そう言ってニコっと笑みを浮かべるドロシー。
どうやら許してくれたようだ。
身分は違えど、お転婆男爵令嬢は私にとっては特別。
これまでは頭がユルそうというか、口を悪く言えば馬鹿と形容できるご令嬢だったが……
どうやら貴族令嬢としての勉強を沢山したみたいね。
ドロシーに言う。
「ドロシーも貴族令嬢として頑張っているのですね」
「ええ!わたくし、勉強を頑張っているのです!」
「そう……」
こんなにドロシーは頑張っているのに、なんで私は努力というものが、こうも苦手なのだろう。
わたしだって怠けたくて怠けている訳じゃ無い。
ただ、なぜか続かないのだ。
こんな私が王女なんて務まっているのか、本当に不安だ。
私の悩みなんて知らないドロシーは張りきった様子で私の手をとり言ってくる。
「さあシルフィーナ様! 長椅子に座りますよ! 古の神々が、きっと私たちに最高のスキルをくださる筈!」
「ああ、ちょっと!」
そうドロシーに引っ張られ長椅子に座る。
しばらくドロシーと会話に花をさかせていると、神殿の入口から神官が入ってきた。
ついに祝福の儀が始まったのだ。
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