第十四話 『二人の王子の護衛依頼』
豪華絢爛の廊下をドスドスと歩きながら先頭のバルドについていく。
すれ違う城の使用人達は皆が一様に私を見上げ、驚いた顔をしている。
そんな彼ら彼女らに軽く手を振り笑顔を作った。
手を振られた使用人は私に一礼をして、そそくさと逃げる様に去って行ってしまう。
悪目立ちしながら廊下を進んだ先には、一つの扉だった。
バルドが扉を開ける。
「ここが客間ですな。執政のラルドを連れてまいりますので、暫くお待ちくださればと」
「ええ、わかりました」
私の返答を聞き、バルドは客間を去っていった。
腰を低くして客室の扉を潜る。
王城の客室は目に優しいクリーム色の壁紙に、豪華なテーブルや調度品、ふかふかそうな赤いソファーが置かれている。
それにしても……
「て、天井が低い……」
この客間は歩いてきた廊下よりも天井が低い。
もう頭上はギリギリで、少しつま先を浮かせるだけで頭を打ってしまいそうだ。
頭上に細心の注意を払い、ふかふかそうな赤いソファーに向かう。
そうして、私はそのソファーに座った。
「わっぷ」
ソファーは沈みに沈んで、ほぼ地べたに座るのと大差ない程だった。
このソファーめ、そんなに私が重いとでも!? ……重いんだろうなぁ。
客間のソファーは、四メートル程の巨人が座る事は想定されていないようだ。
足を畳んで横に寝かせる。
公爵令嬢として、これぐらいはしないと、はしたないよね。
しばらくすると客間の扉が開いた。
バルドは入り口まで来ると、その奥の廊下にいるであろう人に一礼をして、中に迎え入れる。
廊下の奥から二人の男が入ってきた。
一人は金髪金瞳をした若い男。
たしか皇帝の執政をしているラルドという男だった筈だ。
そして、もう一人は豪華な衣服をまとった金髪碧眼の威厳を感じさせる中年男性が―― って、皇帝陛下じゃん!
急いで立ち上がる。
そんな私を見て、皇帝陛下と執政のラルドは心底驚く。
「ぬおぉ!?」
「うわぁ!?」
皇帝陛下と執政のラルドが声を出し、それを見たバルドは慌てた様子で私に言った。
「メルナ嬢!そんな巨体で突然立ってはなりませぬぞ!皆驚いてしまわれます!」
「ああっ!ごめんなさい……」
ラルドの注意に急いでソファーに座り、足を畳む。
そんな私を見ながら、いまだに驚きを隠せてない皇帝陛下は言った。
「話に聞いてはいたが実際に目にすると、これほどとはな……」
皇帝陛下はそう言うと、執政のラルドと一緒に私の前のソファーに座って自己紹介を始める。
「知っておろうが、ワシが皇帝のローガン・クラスノヤだ、横に居るのは執政のラルド。覚えておくといい」
そう皇帝陛下が言うと、横に座る執政のラルドが言う。
「長年この国の執政をやっているラルドだ。よろしくね」
ラルドはそう言うと、頭を下げる。
頭を下げるラルドの耳がエルフの様に尖っているのが目に入った。
たしか、エルフの国の時期国王は統治の練習の為に、代々このクラスノヤ帝国の執政を経験するのだっけ。
ラルドは自己紹介が終わると「ところで」と言い出した。
「メルナ嬢、君は確かにドラゴンを倒したんだね?」
「え、ええ。確かに私は赤いドラゴンを倒しましたわ」
「なるほど。ちなみに、どうやって倒したのですか?」
ラルドが倒した方法を聞いてくる。
さて、どうしたものか……
正直に、町より巨大になって握りつぶしました、なんて言ったらドン引き必須だ。
ここは種族としての巨大化をつかってファイアーボールで戦った末に倒した事にしよう。
半分嘘は言ってないし、いいだろう。
「スキルで大きくなりましたの。そのうえでファイアーボールを撃って倒しましたわ」
「ふぁ、ファイアーボールで……?」
「ええそうですわ。たかがファイアーボールでも、ドラゴンより大きくなれば十分な威力ですもの」
「ど、ドラゴンより大きく…… ですか?」
驚いた様子でラルドが聞き返してくる。
「ええ、ドラゴンが膝にくるぐらいの大きさになれば、ファイアーボールでも十分ですもの」
「そ、それはそれは…… たしかにそれほどの巨人が放つファイアーボールは…… 素晴らしい威力になるでしょうね……」
私の説明を聞いてドン引きといった様子のラルド。
あれ、この説明でもドン引きされた……?
さすがに町より巨大になりました、なんて言うよりかはドン引きされないだろうと思っていたんだけど……
思いのほかドン引きされている。
横で聞いていたローガン皇帝陛下が言う。
「素晴らしい力だな。これ程なら十分に任せられる」
そう言って満足そうに頷き、横のラルドに合図を送った。
ラルドはローガンに頷き、私に向き合った。
「早速だけど、君に頼みたい事があるんだ。私としては、ご令嬢に頼み込むような内容では無いと思っていたんだけどね。……違ったみたいだ」
そう言うとラルドは説明を始めた。
ラルド曰く、この国では皇太子ロナウドが次期皇帝になる事について、適任問題に発展しているそうだ。
私を婚約破棄し、その後に伯爵家の令嬢と勝手に婚約する横暴ぶりを見た貴族達は、そのロナウド皇太子が将来帝国を率いる事に疑問を持ち始めた。
そしてそれは次第に、ロナウド皇太子を担ぎ上げる貴族達と、その弟であるドナルド王子を担ぎ上げる貴族達による、次期後継者争いにまで発展してしまったようだ。
皇帝であるローガン自身も、以前からロナウド皇太子の行動は目に余っていたようで、ここで敢えて二人の勢力を競わせ、結果的に正当性が高そうな陣営の王子を皇太子にする事に決まったそうだ。
そんな今までの経緯を説明し、本題としてラルドは言い始めた。
「そんな訳で、ロナウド王子とドナルド王子は継承権争いをして次期国王を決まる事になったんだけど、不安要素があるんだ」
「不安要素、ですか?」
私が聞き返すと、ラルドは続けた。
「ああ、一言で言うと、二人の身の安全さ」
ラルドは説明を続ける。
そのラルドの話曰く、その継承権争いがヒートアップした場合、二人の勢力争いを武力で解決しようとする愚か者が現れる事を危惧しているようだ。
一応、皇帝であるローガン自身が双方の陣営に武力を使う行為を咎めていて、もし武力や相手陣営に怪我人を出した場合には、その陣営が担ぐ王子の時期継承権を認めないときつく伝えてあるとの事。
だが、万が一もあり得る。
万が一を警戒し二人の護衛を王宮に置く事が決定した。
が、問題が一つあった。
それは誰が護衛するのかという事。
護衛を置く場所は曲がりなりにも王宮の中だ。
貴族社会の聖地ともいえる場所で、そこらの武力が自慢の騎士や兵士や冒険者を置くわけにもいかない。
そこで、白羽の矢が立ったのが私だった。
私は一応は公爵令嬢で、ロナウド王子の元婚約者でもある。
立場的にも貴族としての品格は高く、それでいてドラゴンを倒す程の武力も持ち合わせている。
つまり、二人の護衛として王宮に住まわすには十分な人材だという事らしい。
「つまり、私は二人の王子の用心棒をすればいいわけですね」
「ええ、ご令嬢に頼みこむ内容ではないと私は思っていたんですがね。実際に迫力ある貴女の姿を見て、さらに武勇伝を聞く限りは適任かと」
うーん、複雑だ。
私は只の公爵令嬢なのに、まるで歴戦の戦士を前にしたかのような誉め言葉を受け取ってしまった。
確かに、四メートルもある巨人は確かに迫力あると思うけども。
そんな私の様子を見てか、申し訳なさそうにラルドが言う。
「申し訳ありません。ご令嬢に『迫力がある』は失礼でしたね」
「い、いや、確かに私は迫力がある体格ですし…… 大丈夫ですよ」
そう言って、ラルドに笑顔を作る。
そんな私にラルドは苦笑いしながら「そうですか」とつぶやいた。
ラルドは気を取り直した様子で、私に言う。
「それで、王子二人の護衛の話受けてくださりますか」
「……はい、承知しました。誠心誠意お二人を護衛いたします」
「ありがとうございます」
私の承諾にラルドは感謝を述べた。
これから王子の護衛かぁ。
この王位継承権の争いが速く終わってくれる事を祈るばかりだ。
私としては、さっさとゼレノガルスクに帰りたい。
あの何もない町こそが、私に似合う町だから。
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