第七話 『巨大なシルフィーナ様の胸ベッド』


 さて、私とドロシーのスキル講習が始まった訳だが……

 残念ながら私のスキルを試すことはできないだろう。

 なぜなら私の将来の女神族としての勉強の際、勉強係の伯爵夫人が言っていたことだが、この巨大化のスキルには大きな永続型のデメリットが存在するらしいのだ。

 私の前でヤル気を出しているドルガに言う。


「ドルガ殿、スキル講習という事ですが…… 私のスキルのデメリットについてはご存じですか?」

「うぬ? ……そう言えば、そうであったな」


 私の言葉にそう返すドルガ。

 ドルガは何かを思い出す素振りをする。

 

「巨大化のデメリット…… たしか一度使用すれば、元に戻った際の通常時の大きさが二倍以上の大きさになってしまう、というデメリットか……」

「そう、それです」


 そうなのだ。

 この巨大化のスキルを使用すると、通常時の大きさが二倍以上になる、と言われている。

 つまり、このスキル講習で使用しようものなら、王城に帰宅する時には四メートル近い大きさになってしまうという事。

 私のスキルのデメリットの話を、横で聞いていたであろうドロシーは、驚いた様子で言う。


「な、なんですの…… そのデメリット…… シルフィーナ様のスキルには、そんなデメリットが……」

「ああ、女神メルナ様が巨神族だった頃の逸話としては有名な話だ。スキルを使用しては、だんだんと大きくなっていき、そして、ある大きさを境に―― 女神族として種族進化した」

「そ、そんな……」


 ドロシーの驚きに、ドルガは説明する。

 ドルガの説明を聞いたドロシーは、更に驚く。


 そう、ドルガの説明の通りだ。

 女神メルナ様は巨大化スキルを使用し続け、そして一定の大きさに至った後、巨神族から女神族に進化し、大陸を片足で丸々踏みつぶせる程の大きさになった、と言われている。

 なので、私はそんな簡単に巨大化スキルを使用するわけにはいかない。

 ドルガは悩んだ末、思い出したように言った。


「おおっ、そうだ。シルフィーナ殿下。それなら種族としての巨大化の能力を試してみたらどうですかな」

「種族としての巨大化…… ああ、巨神族としての巨大化ですか?」

「うぬ、そちらのほうの巨大化ですな」

「なるほど……」


 ドルガの言葉に納得する。

 私の納得を示す言葉に、ドロシーは不満そうに言う。


「もー! さっきから、お父さまとシルフィーナ様だけ納得して! 私にも、もっと説明してくださいなっ!」

「おお、そうだったなドロシー。お前はまだ女神メルナ様の御稜威についての勉強はしていなかったな」


 ふてくされるドロシーに、ドルガは説明しだす。


「巨神族だった頃の女神メルナ様には、スキルとしての巨大化と、種族としての巨大化、二つの巨大化があったのだ」

「そ、そうなんですの……」

「ああ、文献によれば種族としての巨大化で凡そ百倍程の身長に、さらに巨大化のスキルを使用し、その十倍の大きさになれたと言われている」

「か、掛け算ですわね……」


 ドロシーはドルガの説明を受け、百倍だとか十倍だとかの説明にウンザリした様子。

 どうやら計算は苦手のようだ。

 そんなドロシーにドルガは言った。


「まったく! これぐらいの計算は出来るようになれ!」

「そ、そう言われましてもー!」

「あーあぁ…… そうだなぁ…… お前にもわかりやすく言ってやる」

「やったーですわ!」

「はぁ……」


 ドロシーの喜びに溜息をつくドルガ。

 ワクワクした様子のドロシーに、ドルガは言う。


「まあ、あれだ。一言で言うとだな…… 巨神族の能力を使用すると、山のような大きさになって、更に追加で巨大化のスキルを使用すると雲に届く大きさになれるってことだ」

「……へっ?」


 ドルガの説明にドロシーは気の抜けるような声を出した。

 まるで予想外といった様子だ。

 そんなドロシーは私をじっと見て、ドルガに向き直り言う。


「じゃあ、なんですの? シルフィーナ様は、この場で山の様になるのですの?」

「ばっか! んなわけあるか! この屋敷の庭に収まるぐらいに抑えてもらうにきまっているだろう!」

「そ、そうなんですの……」

「……なんで残念そうなんだ」


 ドルガの言葉にドロシーは残念そうにする。

 そんなドロシーに呆れた様子のドルガ。

 私としても、こんな場所で百倍になろうものなら、どんな被害が出るか分かったもんじゃないから、そんな事をやるつもりは一切ない。

 でも、どれぐらいの力の解放で、どれぐらいに大きくなるかは確認しておきたいので、種族としての能力を試すのは賛成だ。

 そんなわけで、私は種族としての能力を試すことになった。



○○



 広大なルガンダラ家の庭の少し隅、スキルを練習する子供たちから離れた場所にいるシルフィーナ達。

 シルフィーナの種族としての巨大化の能力を試してみるという事で、ドルガとドロシーはシルフィーナから離れる。

 二人が十分離れた様子を見てから、シルフィーナは瞳を閉じて力を蓄えるイメージを浮かべる。

 そんなシルフィーナに離れたドルガが言う。


「最初は少しだぞー! かっ飛ばして山みたいになられても困るからなー!」


 そんなドルガの言葉に瞳を閉じながらも苦笑するシルフィーナ。

 シルフィーナとしても、そんな事は分かっていた。

 力を蓄えるイメージから、軽く力を解放するイメージを作った。


 やがて、それは起こる。

 シルフィーナの身体が、ゆっくりと、されど、どんどん大きくなっていく。

 やがてシルフィーナが目を開けると、シルフィーナの身の回りの全てが人形程の世界だった。

 シルフィーナの腰ほどにしかない屋敷の屋根。

 それを見て、シルフィーナは焦る。


『あれ!? 大きくなりすぎました!?』


 シルフィーナが急いで下を見ると、足元から少し離れた場所に退避していたドルガとドロシーの姿があった。

 安心した様子の巨大なシルフィーナ。

 そんな巨大なシルフィーナを見上げ、ドロシーは感心した様子で言う。


「す、すごい光景ですわ……! シルフィーナ様、可愛らしい下着を履いていらっしゃるのですね……!」


 そう言うドロシーの目線の先には、巨大なシルフィーナが着る巨大なドレスのスカートの中、赤いリボンが付いた真っ白なショーツがあった。

 そんなドロシーの言葉に、顔を真っ赤にする巨大なシルフィーナ。

 巨大なシルフィーナは急いで足を折りたたみ、地面に座った。


ドッズゥゥゥゥン! 


 辺りに重い轟音が響く。

 その響き渡る轟音と共に、スカートがひらめいた事で突風が巻き起こった。

 辺り一面に強風が吹き荒れ、ドロシーとドルガは吹き飛びそうになる。

 巨大なシルフィーナが引き起こした強風に耐えたドロシーは飛んできた土や枯草を払いのけ、驚いた様子で言った。


「すっごいですわね…… ただ座っただけで、こうなるんですわね……」


 そんな言葉を呟くドロシーに、赤面しながら巨大なシルフィーナは言う。


『ちょっとドロシー! 恥ずかしい事言わないでよ!』

「すっごい…… 声も大きいですわ……」


 巨大なシルフィーナの言葉に構わず、その声量に驚くドロシー。

 ドロシーは目の前の巨大なシルフィーナにテクテクと近づいていく。

 人形程のサイズのドロシーが近づいてくる様子に、少し驚き困惑する巨大なシルフィーナ。

 こんな大きな自分に近づいてくるとは思ってもみなかった巨大なシルフィーナは、小さなドロシーに怪我をさせない為にじっとしていると、あろうことかドロシーは巨大なシルフィーナの身体を登り始めた。


『ちょ、ちょっとドロシー!? 危ないですよ!?』

「凄い大きいですわ! これがシルフィーナ様の身体だなんて凄いですわね!」


 そう言ってヨジヨジ登っていくドロシーに怪我をさせない為に、巨大なシルフィーナは庭に寝転ぶ。

 巨大なシルフィーナの上半身が広大な庭の一部を占領する。

 巨大なシルフィーナが寝転んだ事で、ドルガの目の前では巨大なスカートの中が丸見えで、その巨大なシルフィーナが履く、リボンが付いた真っ白のショーツに包まれる土手が露わになっていた。

 そんな目の前の景色にドルガは目のやり場に困った様子で顔を背ける。


 ドルガの様子に気が付く様子が無い巨大なシルフィーナ。

 ドロシーは寝転んだ巨大なシルフィーナの身体の上を歩き、やがて年相応にしては膨らんだ胸にダイブした。


「はわぁー! 大きな胸のベッドですわー!」

『ひゃわわー!?』


 その巨大な胸に飛びつき気持ちよさそうに寝転ぶドロシーに、巨大なシルフィーナは顔を赤面させて慌てた様子で腕を動かす。

 動く腕から響く轟音を聞きながら、ポヨンポヨンと幸せそうに巨大なシルフィーナの胸を楽しむドロシーだった。


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