超巨大な公爵令嬢に転生したオレ氏、超でっかわいい!

社会的弱ミク

辺境の町に降り立つ女神様

プロローグ 『その日、人類は思い出した』


 まったくもって深夜だというのに、オレときたら蛍光灯が明るく照らす部屋の中でゲーム画面に向かってゲラゲラと笑い声を出し、そのモニターの奥にいる奴に話し続けている。

 画面に映るアメリカの荒廃したウェストバージニア州の森の中、見るからに気持ち悪い巨大なゴキブリをボルトアクションライフルで撃つゲームのフレンドは心底不愉快そうだ。


『きっしょぉおおお!!』

「おいまだ一匹いるぞww」

『来んな来んな来んな!!』


 フレンドの叫び声を愉快に聞きながらペットボトルに入ったコーラを呷り、マウス横のポテチ袋から一つまみ。

 カサカサと這い寄っていく巨大なゴキブリに銃を乱射するフレンドの悲鳴を聞きながら食べるジャンクフードは格別の味だ。


『きしょ過ぎんだろ、このゲーム……』

「草生える」

『なんでこのゲーム買ってもうたんや俺…… そう言えばさ、聞いた?』


 撃ち殺した巨大なゴキブリを剥ぎ取りながら聞いてくる。


「何が?」

『ほら、北の将軍様のニュース。またミサイル構えているらしいじゃん』

「ああ、あれね。今回はガチで核弾頭詰めてるって話が出てるやつか」


 何かと世界を騒がせる北の将軍様だが、今回は結構ガチらしく核弾頭を積んだミサイルをフル稼働させているらしく、ニュースを普段見ないから詳しくないが事の発端はアメリカ軍が韓国に沢山集結したからって話だ。

 まあどうせ今回も日本海にミサイルを撃って、その後に日本政府が遺憾砲を発射するだけだろう。


「マジで飛んで来たらどうする?ww 近くの政府公認の核シェルターにでも入るかww」

『謎の人体実験に巻き込まれそるやんけ』


 そんなしょーもない事を言っていると、マジでどうでもいい事が頭に過る。


「てかさ、今この瞬間に将軍様の核兵器が飛んでくるとするじゃん?」

『おう』

「今オレら、こんなゲームやってるじゃん?」

『おう』

「それって『核戦争後のアメリカを舞台に旅するゲームをプレイ中、北の将軍様の核兵器でこんがり焼かれたオレは気が付いたら赤ん坊に転生していた』的な感じで、しょーもない異世界転生の導入みたいじゃねww」



○○



 ハイファンタジーな中世ナーロッパ風の屋敷の自分の寝室で、姿見に映る寝間着を着た自身の桃色髪の美少女姿を見ながら私は小さく呟いた。


「いや本当にそうなるとは思わんやん?」


 北の将軍様の核兵器でこんがり上手に焼けましたされた私は気が付けば赤ん坊の姿になっていた。

 アニメでよく見るナーロッパ人風の親らしき人物の顔を見たとき、ああこれは異世界転生したんだなと悟ったよ。

 んで異世界に転生して貴族様ときたらさ、普通は主人公最強のイケメンに生まれ変わると普通は思うじゃん。

 むしろ最初はそう思ってたよ。


「公爵令嬢って…… 悪役令嬢ものかよ」


 はい、まさかの女の子でした。

 ハーレムを作れるのかと思ったら、ハーレム要員側でした。

 姿見に映る桃色のウェーブかかったロングヘアーを右手で弄る桃色の瞳をした目の前の美少女。

 まさかこの姿が自分だとは、転生する前の私が見れば驚くこと間違いなしだな。

 

「いやぁ、信じられんってもんだよね」

「メイド長、またメルナ様が可笑しな事をおっしゃってます」


 いつの間にか横に立っていた新入りのメイドが、私の独り言についてメイド長に言っている。

 メイド長は慣れた様に「気にしなくても結構です」と答え、新入りのメイドは独り言なんて無かったと言わんばかりに私を着せ替え始めた。

 マネキンのように着せ替えられる私を見ながらメイド長は、何気なさそうに言う。


「今日は十二歳の祝福の儀があります。朝食に馬車で移動いたしますので、今のうちに準備なさってください」


 ……うっそだろ、オマエ。

 なんでそんな大事な事を昨日の夜に言わなかったんだよ!

 使用人に信頼されすぎるのも考え物…… どころか舐められてるだろコレ。


 そんなこんなで朝食を終えて馬車に乗り込む私を見送るのは、我が家族たる生意気な妹――、


「いってらっしゃい姉さま!w どうせ姉さま程度じゃマトモなスキルなんて貰えないでしょうけどw」


 それと性格が顔から噴出してる悪党美人な顔で微笑む、お母様――、


「リフレシア家の娘らしく、誰もが羨む美しいスキルを貰いなさい。下賤なスキルは許しませんよ」


 それに厳格で優しさなんて欠片も感じない雰囲気の、お父様――、


「リフレシア家の女として、嫁ぎ先が喜ぶスキルを貰ってきなさい。それ以外は許さん」


 そんな心温まる家庭(笑)の皆様の声援を受けながら、私の乗る馬車のドアは閉じていく。

 さながら気分は肉屋に出荷される養豚。

 なぜ異世界ナーロッパ転生で一番重要なスキル授与の儀式で、こんな沈んだ気分にならなきゃなんだ……



○○



 そんなこんなで馬車は神殿に到着する。

 御者の手を取りタラップから降りる私を出迎えたのは身なりの良い金髪碧眼のイケメン君。


「やあメルナ、君もこの神殿だったんだね」


 彼はそう言うと笑みを振りまく。

 毎度これを見るが、本人は恥ずかしくないのだろうか。

 私はスカートの端を持ちお辞儀する。


「ごきげんよう、ロナウド様。私の家系は代々この神殿の信徒ですから」

「そうかそうか、確かにリフレシア系は代々この創造主の神殿の家系だったね」


 彼はそう言い、手を振り私を置いて離れていく。

 あいつ皇太子のくせして婚約者の私置き去りにしていきやがりましたよ。

 私も手を振ると、彼は言う。


「お互いに、良いスキルがもらえるといいな。幸運を」


 そう言って彼は豪華な神殿の入り口に消えていく。

 小さく溜息をつく私に、御者が呟いた。


「婚約者を一人置いて行かれるのか。 ……あのようなお方が次期皇帝とは」


 呆れる御者を尻目に、私は第二の人生の祖国を少し、心の底で憂いた。

 一人残された私はテクテクと神殿の入り口を潜る。

 中は神聖さを感じさせる宗教画やモニュメントが飾られていて、そんな空間にいる私と同じ十二歳の子供たちは神殿の雰囲気に圧倒されていた。

 一人、また一人と名前を呼ばれては神殿奥の女神像の前で跪き、そして喜びの表情で神殿を後にしていく。

 そんな様子を見ながら近くにあった長椅子に座り、私の順番を待つ。

 ぼけーっと子供たちの様子を眺めていると、見知った名前を神官が呼ぶ。


「次、ロナウド・ローガン・クラスノヤ! 皇太子殿、次は貴殿ですぞ」


 彼を見る。

 少女達からの黄色い声援を受け、あの気障ったらしい笑顔を少女達に振りかけていた。

 うわぁ……

 そんな私の心なぞいざ知らず、彼は女神像の前で跪く。

 しばらくの沈黙の後、神官が驚きの声を上げた。


「なんと…… 剣豪じゃ!」

「剣豪!?」

「すごいですわ!ロナウドさま!」

「すげーぞ!ロナウド皇太子が剣豪だってさ!」

「まじかよ!?」


 神殿内は歓喜に包まれる。

 剣豪って、確かこの国を建国した初代皇帝が持っていたスキルだった筈だ。

 所々で初代皇帝の再来だと騒いでいる人も居るぐらい、驚きに満ちた出来事だという事だろう。

 興奮冷めやら神殿内で、一人、また一人と次の子供が呼び出される。

 そして最後数人になった頃、私が呼び出された。


「メルナ・リフレシア! リフレシア嬢!」


 私は立ち上がり、神官と女神像にお辞儀をしてから跪いた。

 静寂に包まれる神殿内。

 私の頭の中に、一人の男性が現れた。


『ふん、転生者か。面白い』


 男性はそう言うと、懐から光り輝く大きな宝玉を取り出した。


『お前、これで世界を搔き乱せ。この世界は安定しすぎていて、つまらん』


 そう言って、男性は宝玉を私に向けて投げた。

 宝玉は私の体に入り込み、そして――


「おお、リフレシア嬢!強く大きな力を感じますぞ!」


 神官の声に引き戻された私は、神官を見る。

 私を引き戻した神官は、私に手を向けて何かを感じ取っていたが、やがて手を降ろした。

 神官は私を驚きの表情で見ながら、こう言った。


「なんと、見たことも聞いたことも無いスキルじゃ……」


 神官の呟きに辺りは静まり、皆が神官の言葉を待つ。

 しばらく溜めた後、神官は言った。


「メルナ・リフレシア嬢、この世界で初めてのスキルですぞ! 巨大化のスキルじゃ!」


 その瞬間、場に居た全員が思ったであろう。

 私も思ったよ。

 

「「「は?……」」」




――――【あとがき】――――



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