第十八話 『女神シルフィーナ様の伝説の始まり』
ルナリア王国の王都は阿鼻叫喚に包まれていた。
東門の奥に居た巨大なシルフィーナが更に巨大になっていく姿に、王都の人々は悲鳴を上げて見上げていた。
繁華街の人々は天に聳える程に巨大になったシルフィーナを見上げながら不安の声を上げる。
「ああッ……! あれがシルフィーナ様だわ……!」
「わたくしを踏みつぶさないでくださいシルフィーナ様ッ!」
「女神様だぁああああ! 新たな女神様の誕生だぁああああ!」
「ああ女神シルフィーナ様ッ!どうか我らを生かしてくだされッ!」
そんな繁華街の住民たちから遠い場所で、東門で戦闘を繰り広げる兵士たちからも、天に聳えるシルフィーナの姿は見えていた。
魔物と戦いながらも、天に聳える程に巨大になったシルフィーナを見上げる兵士たち。
目の前の魔物を斬り伏せながら、天に聳えるシルフィーナを見上げて兵士たちが言う。
「で、でけぇ! あれが噂のシルフィーナ様か!?」
「あれはシルフィーナ様だ! ついに巨神族になられたみたいだ!」
「俺たちどうなっちまうんだよ!?」
「とりあえず今は魔物を片付けるんだ!」
足元の王都で人々が恐れ慄いている事なんて露知らず、天に聳えるシルフィーナは手のひらに転がる小さな粒ぐらいの大きさになった虹色の球体に包まれた木箱を見ていた。
これほどまで大きくなったのだから、これで目の前の虹色の球体も簡単に壊せる筈だと、そう思った天に聳えるシルフィーナ。
手のひらで転がる砂粒程の虹色の球体を、もう片方の手の人差し指で押しつぶす。
ギュッと抑え、そして指を退ける。
そこには虹色の球体は無く、小さく壊れた木箱と思しき何かだけだった。
『やっと潰れてくれましたか』
両手を叩いて残骸をパンパンとはたき落とし、やっと問題を片付けられたと安堵する天に聳えるシルフィーナ。
だが、これで終わりじゃない事は天に聳えるシルフィーナだって忘れてはいない。
この後は、王都の何処かから光が立ち上り、そこから魔物が召喚される筈なのだ。
天に聳えるシルフィーナのやる事は未だ残っている。
溜息をつき、天に聳えるシルフィーナは王都に振り向いた。
『……ちいさいですね。まるでミニチュアみたいです』
そう言いながら少し驚く、天に聳えるシルフィーナ。
巨大化スキルを使用したから、先ほどよりは小さくなっていただろうと予想していた天に聳えるシルフィーナだったが、いざ見ると立ち並ぶ家が豆粒ほどの大きさで、王都全体が直径四メートル程の大きさだった。
体を前に傾け、興味深そうに王都を上から見下ろし眺める点に聳えるシルフィーナ。
そんな天に聳えるシルフィーナに見下ろされる町の人々は必死にシルフィーナに祈りを捧げていた。
男も女も、老いも若きも必死でシルフィーナに祈りを捧げている。
「ああシルフィーナ様ッ! 我らを踏みつぶさないでくだされッ!」
「美しゅうございますシルフィーナ様ッ! 我らを見逃してくださいましッ!」
「我らを見逃してくだされシルフィーナ様ッ! 我らを見逃してくだされシルフィーナ様ッ!」
「僕まだ死にたくないよシルフィーナ様ッ!」
そんな人々の祈りなぞ露知らず、天に聳えるシルフィーナは町を眺め続ける。
ミニチュアの様な街並みを眺める、天に聳えるシルフィーナだったが、そのミニチュアの街並みに異変が起こり始めた。
町の各地で青白い光の線が立ち始めたのだ。
その青白い光は王城を囲むように平民地区から立ち上っている。
天に聳えるシルフィーナは呟く。
『全部で八本ですね…… これを破壊すれば、全てが終わる筈ですよね……』
執務室で聞いた内容を思い出す天に聳えるシルフィーナ。
あの執務室の中で聞いた内容によると、まず破壊するべきは地脈を通って王都の大規模広域魔方陣に魔力を流している魔力源を破壊すること。
これは先ほど破壊した。
その後、王都の大規模広域魔方陣を形成している魔方陣が光り、天に光の柱を形成し、そこから魔物が召喚される、との事だ。
つまり、いま青白く光っている場所で魔物が召喚されるという事。
天に聳えるシルフィーナは姿勢を戻し、王都に向けて言った。
『青白い光の近くに居る人は離れてください』
それだけ言い、天に聳えるシルフィーナは王都の外壁の外を少し歩き、最寄りの青白い光の柱の一本の前で立ち止まる。
そして足元に向けて言う。
『踏みつぶされたくないなら、私から離れていてください』
天に聳えるシルフィーナから降ってきた言葉。
それを聞き、天に聳えるシルフィーナの足元の人々は悲鳴を上げて逃げ始めた。
その悲鳴は天に聳えるシルフィーナにも聞こえる程だった。
足元の人々の悲鳴に顔を顰めて申し訳なさそうにする、天に聳えるシルフィーナ。
『うぅ…… ごめんなさい…… でも、あの場所を壊さないと解決しないから……』
そう言って天に聳えるシルフィーナは足に履いたハイヒールを持ち上げる。
更に声量が大きくなる悲鳴。
その大きくなった悲鳴に申し訳なさそうな表情をしながら、天に聳えるシルフィーナは王都の中に足を下ろした。
ズッドォォォォオオオオン! プチプチプチプチプチプチプチプチプチッ!
信じられない程の破壊音を響かせ、五百人は踏みつぶされる。
その巨大な脚が王都の中に入ってきた。
それを知った人々は必死に天に聳えるシルフィーナとは逆の方角に逃げ始める人々。
天に聳えるシルフィーナは、もう片方の足も王都の中に入れる。
ズッドォォォォオオオオン! プチプチプチプチプチプチプチプチプチッ!
更に千人は踏みつぶされる。
まさしく大虐殺。
更に足を一歩、また一歩と進め、五百人、二百人、八百人と大量の人々を踏みつぶしていく天に聳えるシルフィーナ。
そんな足元の人々を踏みつぶしながら天に聳えるシルフィーナは光が天に聳える場所を踏みつぶす。
ズッドォォォォオオオオン! プチプチプチプチプチプチプチプチプチッ!
そこにいた逃げ遅れた人々ごと、その巨大なハイヒールで踏みつぶす天に聳えるシルフィーナ。
足を持ち上げ、その巨大なハイヒールが天に持ち上がっていくと、その足跡に残ったのは無数の潰れた死体と瓦礫だけ。
立ち上る青白い光の線は、そこには無かった。
問題なく破壊できる事を理解した、天に聳えるシルフィーナ。
それから残りの七本の光の線を、次々と移動しては踏みつぶしていく。
やがて全ての立ち上る光の線を踏みつぶすころには、二万人近い人々が天に聳えるシルフィーナのハイヒールの底で踏みつぶされていた。
残ったのは王都にくっきりと残された巨大なハイヒールの足跡の数々。
これで終わった。
そう天に聳えるシルフィーナは溜息をつき、巨大化スキルを終わろうとする。
その時、ふと天に聳えるシルフィーナの視線の端で、ふと謎の光が現れた。
『……まったく、これで終わりじゃなかったのですか?』
そう言って、光の方角をみる天に聳えるシルフィーナ。
その光は王城の真上に現れた。
王城の真上に現れた光は、やがて魔方陣の形になっていく。
そして、その魔方陣が一際の光を輝かせると、その魔方陣から何かが現れ始めたのだった。
やがて現れた物は、羽ばたく黒いドラゴン。
王城と殆ど大きさが同じぐらいもある、そのドラゴンは王城の上に停まると、大きな鳴声をあげたのだった。
新たな敵。
本来は慌てふためく所だが、当の天に聳えるシルフィーナはウンザリといった表情。
当の、天に聳えるシルフィーナは、もう今日は色々とあって疲れた様子だった。
そのドラゴンは天に聳えるシルフィーナから見たら手のひらより小さい大きさ。
天に聳えるシルフィーナは溜息をつき、意気揚々と鳴声を上げるドラゴンが居る王城に向けて、乱雑に足元を踏み荒らし、近づいていく。
ズッドォォォォオオオオン! プチプチプチプチプチプチプチプチプチッ!
ズッドォォォォオオオオン! プチプチプチプチプチプチプチプチプチッ!
ズッドォォォォオオオオン! プチプチプチプチプチプチプチプチプチッ!
ズッドォォォォオオオオン! プチプチプチプチプチプチプチプチプチッ!
ズッドォォォォオオオオン! プチプチプチプチプチプチプチプチプチッ!
その足元で数えきれない程の人々を踏みつぶしながら王城に近づく。
王城の上のドラゴンは、そんな天に聳えるシルフィーナを見て、呆気にとらわれているのか全く動かない。
王城の前まで来た天に聳えるシルフィーナ。
今更になって逃げようと王城のてっぺんから飛び降り、地面で羽ばたき始めた黒いドラゴンを、容赦なく巨大なハイヒールで踏みつぶした。
ズッドォォォォオオオオン! バキバキボキベキグチャボキブチュグチャ!
その巨大なハイヒールで踏みつぶされ、血しぶきを巻き上げる黒いドラゴン。
王城と同じ程の大きさのドラゴンから噴き出す血しぶきが王城に濁流となって吹き付ける。
いままでの出来事を見つめていた執務室。
その国王オルドラと、その家臣たち、それとドロシーが居る執務室の窓にも、黒いドラゴンから噴き出る真っ赤な血しぶきが圧倒的な水量と水圧に襲われる。
ズドボボボボボボボババババババァアアアア!
その圧倒的な濁流に窓は割れた。
ドッバアアアアアアアアアアアアアアアアン!
黒いドラゴンの真っ赤な血が執務室を含む王城の至る所の窓を突き破り、その窓から大量の真っ赤な血が濁流となって王城を駆け巡る。
王城が、そんな大変な事になっているなんて知る由もない天に聳えるシルフィーナ。
やがて黒いドラゴンは息絶え、血も出なくなったその死骸を天に聳えるシルフィーナは掴み、王都の外にポイっと投げ捨てた。
放物線を描き、どこかに飛んでいく黒いドラゴンの死骸。
そして天に聳えるシルフィーナは溜息をつき、今度こそ終わったぞと、腰を下ろした。
ドッズゥウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウン! プチプチプチプチプチプチプチプチプチッ!
そこに居た数千人の貴族地区の人々を敷き潰しながら。
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