第十七話 『王都の為の些細な大虐殺』


 執務室の窓から飛び降りたシルフィーナは種族としての巨大化を発動し、王城を落下する。

 地面に着地する頃には王城より巨大な姿になっていた。

 巨大なシルフィーナが沢山の使用人や兵士の上に着地する。


ズウゥゥゥゥン! ブチャブチュグチュ!


 十人は一纏めに踏み抜いた。

 着地した衝撃波が踏みつぶされなかった人々をボロ雑巾の様に吹き飛ばす。

 ボトボトと落下し、のたうち回る踏みつぶされなかった人々。

 そんな足元の人々の事なんて気にも留めずに巨大なシルフィーナは東の門に向かって走り始める。

 後に残されたのは圧縮された人だった何かの死体の数々と沢山の負傷者だった。


 そんな自身が起こした大惨事なんて知る由もなく巨大なシルフィーナは東の門に向けて大通りを豪快に走る。

 足元で轟音を響かせ走るシルフィーナに悲鳴を上げて逃げ惑う大通りの人々。

 巨大なシルフィーナは足元の人々の事なんて気にも留めず大通りを踏み抜き走り続ける。


ズドォオオオオン! ブチブチブチプチッ!

ズドォオオオオン! プチュブチプチッ!

ズドォオオオオン! プチプチプチブチュ!


 巨大なハイヒールに踏み潰されペースト状の肉塊に圧縮される人々。

 そんなシルフィーナから必死に逃げる大通りの人々の表情は恐怖一色だった。


「うわぁああああ! にげろぉおおおお――」

「にげろぉおおおお! 噂のシルフィーナさ――」

「シルフィーナ様ぁああああ! 踏みつぶさな――」

「いやぁああああ! 助けてぇええええ――」


ズドォオオオオン! ブチプチプチプチッ!


「ひぃいいいい! 死にたくな――」

「キァアアアア! そこ退いて――」

「退けっ! 退けよお前! はやくいけ――」

「シルフィーナ様だぁああああ! 逃げろ――」


ズドォオオオオン! ブチュブチュプチュブチッ!


 東の門まで未だ少しあるが、王城から此処まで来るまでに数えきれない程の人々を踏みつぶしている巨大なシルフィーナ。

 やがて東の門に到着した頃には巨大なシルフィーナは数百人は人々を踏みつぶしていた。

 東の門であろう観音扉がある、くるぶしぐらいの高さの石材でできた防壁の周辺を見下ろす巨大なシルフィーナは驚いた様子で言う。


『す、すごい魔物の数…… ここ周辺は兵士は全滅していますね……』


 東の門の内側は様々な種類の魔物の群れに蹂躙されている。

 巨大なシルフィーナは東の門の奥、防壁の外側の景色を見渡した。

 防壁の奥に広がる穀倉地帯、そこから少し離れた山林から無数の魔物が現れ、防壁に向かって歩いている様子が広がっている。

 巨大なシルフィーナは目を凝らし山林を見つめる。


『今は使われていない林業の製材所…… たしか記憶では、あそこらへんに使われていない何かの施設があった筈です……』


 そう独り言を呟き、巨大なシルフィーナは東の門がある防壁をに近づき、一跨ぎした。

 防壁の外にハイヒールを履いた片足を下ろし、そこに居た無数の魔物を踏みつぶす。


ズウゥゥゥゥン! ブチャグチャブチグチョ!


 一踏みするだけで五十匹は踏みつぶした。

 巨大なシルフィーナの足元に居る魔物たちは、真上に聳える圧倒的な強者を前に鳴き声を上げ、散り散りに逃げていく。

 そんな魔物たちに構う事なく巨大なシルフィーナは、もう片方の足を防壁の外に下した。


ズウゥゥゥゥウン! グチャブチャブチュグチュ!


 またも五十匹は踏みつぶす。

 巨大なシルフィーナの圧倒的な力に、足元の魔物は逃げ惑う事しかできない。

 そんな魔物たちに意識を向ける事さえしない巨大なシルフィーナ。

 二十年前に放棄されたと言われる林業の製材所が、自身の知っている製材所だと仮定し、それが存在するであろう場所を見た。

 山林の鬱蒼と生い茂る木々の奥、そこにうっすらと何かの建物が見える。


『あれでしょうか…… とりあえず、行ってみましょう』


 そう言うと、巨大なシルフィーナは脚を進め始める。

 一歩進めるごとに、轟音を響かせながら足元に居る魔物たちを数十匹は踏みつぶす。


ズウゥゥゥゥン! ブチブチブチブチュ!

ズウゥゥゥゥン! グチャグチャブチャブチャ!

ズウゥゥゥゥン! ブチブチブチョブチッ!


 巨大なシルフィーナが履く巨大なハイヒールが一歩進むごとに、数十匹の魔物たちの命が雑に無意味に消費されていく。

 そんな圧倒的な巨大なシルフィーナから必死に逃げる魔物たち。

 様々な鳴き声を上げて逃げる魔物たちだが、巨大なシルフィーナの前には、ここに居る全ての魔物の命は無いも同然だった。

 

 数えきれない程の魔物たちを踏みつぶしながら歩く巨大なシルフィーナ。

 やがて山林まで来ると、その足元の木々を気にする事も無く木々の中にハイヒールを履いた足を下ろした。


ズウゥゥゥゥン! ベキベキベバキッ! ブチュブチュブチッ!


 轟音が響き、木々が下に居た魔物たちと一緒に潰れる。

 一歩、また一歩と、巨大なシルフィーナは木々を踏みつぶして進む。

 木々と魔物たちを踏みつぶしながら山林を歩き、やがて巨大なシルフィーナは足元に一つの小さな木造の建物を見つけて立ち止まった。

 その建物の周辺は一応が木々が切り開かれているが、上から見てもわかりにくい程には背の高い雑草が生い茂っている。 

 巨大なシルフィーナは目を凝らし、その建物を見て言う。


『これでしょうか……? 建物という事は分かりますが……』


 巨大なシルフィーナは膝をついて屈み、その建物をよく見てみる。

 その建物は丸太を束ねたログハウスといった様相で、巨大なシルフィーナにとって敷地を合わせても手のひらサイズだった。

 敷地には背の高い雑草が生えているが、それでも周囲の木々の高さからしたら背が低い。

 唯一、そのログハウスに向けて、最近になって雑草を切り開いたと思われる一本の細い道らしき線が、ログハウスの入口へ向けて伸びているのが分かった。

 巨大なシルフィーナは立ち上がり、言う。


『まあ、とりあえず踏みつぶしてみましょう』


 そう言うと巨大なシルフィーナは片足を上げ、足に履いたハイヒールでログハウスを狙い定めた。

 そして、その足に履いたハイヒールを振り下ろす。

 巨大なハイヒールが、ログハウスの敷地の殆どを踏みつぶさんと迫る。


ズドォオオオオン!


 激しい轟音を立て、その巨大なハイヒールはログハウスを周囲の敷地ごと踏みつぶした。 

 ログハウスがあった場所には巨大なハイヒールが鎮座する。

 やがて巨大なハイヒールは持ち上がり、空に上がっていく。

 巨大なシルフィーナは踏みつぶした場所を見下ろす。

 先ほどまで存在した場所にログハウスは無く、巨大なハイヒールの足跡があった。

 

 しかし、その足跡の真ん中、ちょうどログハウスがあった場所に、奇妙な虹色に揺らめく丸い球体が、そこにあった。

 球体はみるみる透明になっていき、やがて球体が消えると、そこには何かが現れる。

 巨大なシルフィーナは再度しゃがみこみ、その何かをみた。


『……木箱?』


 それは木箱だった。

 山積みされた木箱と、先ほどの球体に守られたであろう場所にあったログハウスの床の部分。

 巨大なシルフィーナが人差し指でつついてみると、先ほどの虹色の光の球体に遮られる。

 そんな木箱を見て、巨大なシルフィーナは山積みされた木箱を虹色の球体ごと摘まみ上げ、持ち上げてみた。

 巨大なシルフィーナの手の中で、まるで木箱が入った虹色のビー玉が転がるようだ。

 そんな手元の虹色の球体に守られる木箱を見て、巨大なシルフィーナは言う。


『これ、もしかすると障壁でしょうか?』


 巨大なシルフィーナの手の中で転がる虹色に光る球体に守られた木箱。

 もし、これが王都の大規模広域魔方陣の魔力の供給源ならば、これを破壊する必要がある。

 しかし、巨大なシルフィーナが力強く摘まんだり握ってみても、少し虹色の球体が撓む程度で潰れる様子が無い。

 次に巨大なシルフィーナは、その手元の虹色の球体に包まれた木箱を地面に投げつけ、何度も踏みつぶす。

 しかしそれでも、虹色の球体に包まれた木箱は壊れる様子がなかった。

 巨大なシルフィーナは虹色の球体に包まれた木箱を拾いあげ、手の中で転がしながら考える。


『どうしましょうか…… 少しは撓む事を考えると、もっと強い力を加える事が出来れば、恐らく壊す事は出来そうですが……』


 そう言いながら巨大なシルフィーナは頭を悩ませる。

 障壁を魔法で破壊するといった方法もあるだろうが、今の巨大なシルフィーナが魔法なんてものを使ったら、どんな被害が出るか分からない上に、そもそも魔力障壁に魔法自体が通じにくい事は王族としての教育の知識で知っていた。

 つまり、単純な物理的な力で破壊する必要があるという事。

 しかし巨大なシルフィーナは悩み言葉を零す。


『しかし出来そうな事はやりましたが、壊せなかったですね……』


 握っても壊れなかった。

 摘まんでも壊れなかった。

 下に勢いよく投げても、強く踏みつぶしても壊れなかった。

 今の所、巨大なシルフィーナが試せる事は試した。

 溜息をつく巨大なシルフィーナ。


『はぁ…… もっと握力が有れば良かったですが……』


 そう落ち込む巨大なシルフィーナ。

 残念そうにする巨大なシルフィーナだったが、先ほど自身が呟いた言葉に、少し引っ掛かりを覚える。


『ん……? もっと握力があれば……? もっと握力……』


 その違和感に頭を悩ませていた巨大なシルフィーナだったが、今まで忘れていた何かを思い出した。

 自身のスキルだ。


『巨大化のスキルを使用すれば、これ以上の握力を発揮できそうですね…… いやでも……』


 巨大なシルフィーナは悩む。

 自身が持っているスキルとしての巨大化を使用する事で得る、永続型のデメリットの存在が、その選択肢を巨大なシルフィーナの判断から遠ざけていた。

 スキルとしての巨大化を使用してしまえば、元に戻った際の大きさが二倍になってしまう。

 つまり、全てが終わって帰る頃には四メートル近い姿になり、それ以降も四メートルの巨人としての生活が待っているという事だった。


 頭を悩ませる巨大なシルフィーナだったが、それでも頭のどこかでは理解していた。

 今使える手札は、これしかない事には。

 いま使わないと、王都が滅亡する。

 四メートル近い巨人としての生活か、自身の家族と一緒に王都が滅亡するのを見ているのか。

 巨大なシルフィーナは決心する。


『仕方ないですね…… 巨大化のスキルを使用しましょう』


 思い出すはルガンダラ家のスキル講習の時の説明。

 まず、全身に魔力を巡らせ、その状態でスキル名を宣言する。

 これがスキル使用の際の手順であることを巨大なシルフィーナは思い出す。

 巨大なシルフィーナの身体に、魔力が巡り始める。

 そして、巨大なシルフィーナは宣言した。


『巨大化ッ!』




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