第二二話 『ガキ大将共とイジメられっこの少年』


 ベルクに案内され、連れてこられたのは豪華絢爛なロイヤル級のスイートルーム。

 輝くシャンデリアに豪華絢爛の壁紙、家具やテーブルはどれも輝かんばかりで、なんとも輝く要素ばかりで目が痛い。


 え、マジで今日は此処で泊まるの?

 寝れるかなぁ……

 

 私の不安なんて知りもしないであろうベルクは「何かありましたらお申し付けください」と言って去っていく。

 ドロシーを見るも、このスイートルームの豪華さに、どこか眩暈を起こしている様子だ。

 私専属のメイドたちも豪華なスイートルームに少し緊張気味。

 長旅で疲れた私は、とりあえず一息つきたい。

 ベルクには悪いが、此処ではない何処か…… 

 そうだ、休憩できる店を探そう。

 私専属のメイドたちに言う。


「どこか一息つけそうな喫茶店に行きたいです。この街の観光がてら、良さそうな喫茶店を探しましょう」


 私の言葉に、一人のメイドが手を上げる。

 そのメイドに「いいですよ」というと、そのメイドは私に聞いてきた。


「移動は馬車でしょうか? それとも徒歩でしょうか?」


 ふむ。

 確かに、馬車なら移動は楽だろう。

 でも私としては、そんな遠くを出歩くつもりはない。

 それに、この街をぶらりと歩いてみたい気持ちもある。

 

「徒歩で出歩こうかと思っています。この街を徒歩で見て回りたくもありますので」


 私の言葉にメイドたちは美しいお辞儀をする。


「「「畏まりました」」」


 そうメイドたちは言い、散り散りに準備に取り掛かり始めた。

 忙しなく動くメイドたちを眺めていると、扉からノックが鳴る。

 だれだろうか。


「入ってください」


 入室を許可すると、扉から入ってきたのはベルク。

 私にお辞儀すると、懐から二枚の紙を私に差し出した。

 二枚の紙を受け取る。

 一枚は店舗名、もう一枚は周辺一帯の地図のようだ。


「喫茶店をお探しだという事なので、よろしければこちらをご参考ください。このホテル周辺のレストラン、喫茶、レジャー施設でございます」


 そう言ってベルクは一礼をし、部屋を去っていく。

 ほんと、なんだかサービスがすごい。

 そんなわけで、ドロシーと数人のメイドを連れ、ホテルの玄関を出た。

 振りかえり、玄関ホールの扉の上に掲げられたホテル名を見る。


「『スプリング・ガーデン』…… そよ風が吹きそうな名前ですね……」


 春の庭園とは、これまた洒落た名前だ。

 ホテルから街道に出る。

 相変わらず見ていてテクノロジーを感じさせる街の景色。

 街道を通るのは馬車が多いが、自動車も見かける。

 街の人々は、平民や商人などの身分も関係なく、皆カジュアルなファッションに身を包んでいた。


 行きかう人々は皆が驚いた表情で私を見ている。

 まあ、それはそうか。

 四メートル近い巨人の少女なんて、普通は見る事ないよね。

 どこに行ったとしても、この容姿と身長じゃあ悪目立ちぐらいするか……


 とりあえず進もう。

 懐からベルクに貰った紙を見る。

 ここから近くて面白そうなのは…… 噴水公園か。

 行ってみようかな。



○○



 その大きな噴水が日の光に照らされ輝く様は、私のような四メートルの巨人から見ても、まさしく圧巻だった。

 高く舞い上がる噴水は、ルナリア王国の庭にある噴水とは比較にならない程、高く宙を飛んでいる。

 そんな噴水を見ながら、近くにあった花壇の縁に腰かける。

 私が座れそうなベンチは周囲には無いのだ。

 まあ、花を尻で敷き潰さないように気を付けているから、管理者には多めに見てほしい。

 

 ボケーっと高く舞い上がる噴水を眺める。

 きっと、今の自分の表情はアホ丸出しの顔になっているんだろうなぁ。

 まあでもいいか。

 この噴水を眺められるなら、アホみたいな顔でもいいじゃないか。

 それに、どうせ他人は私に興味は無い。

 この四メートルの私を見ても尚、すこし驚くだけで数秒後には忘れて別の事をしているみたいだし。

 ほんと、ルナリア王国の人たちも、こんな感じの無関心でいてほしいよ。

 

 耳を澄まして噴水の音を楽しんでいると、奥の方から何かの喧噪が聞こえてきた。

 喧嘩にも聞こえるその声は、私のいる場所から程近い場所。

 まったく、こんな綺麗な景観の中で喧嘩するなんて、いったいどんな精神をしているのだろうか。


 その喧噪が聞こえる場所を見る。

 四人の子供が何かを言い合っているようだ。

 見たところ、私と同じぐらいの年齢で、服装を見るに全員が裕福な身分だという事が分かる。

 時間もあるし、ちょっくら野次馬してやろうかな。


 花壇の縁から立ち、土を払い退ける。

 スタスタと近づいてみると、そこには三人組の感じの悪いガキ大将と子分が、気弱そうな茶髪の少年をイジメている様子だった。

 ガキ大将たちは気弱そうな茶髪の少年を笑いながら言う。


「うっそだろぉ! あっははははっ! お前みたいな奴がアウリウス・アカデミーに行くだってぇ? ぎゃははははっ!」


 ガキ大将の子分が続ける。


「お前みたいな家柄が行けるわけ無いだろ! ひゃひゃひゃ!」

「言えよ! くすくすっ! 何かやましい事をしましたってさぁ! ぷーくすくすっ!」


 ゲラゲラと笑いあうガキ大将と子分たち。

 気弱そうな茶髪の少年は悔しそうな雰囲気だ。

 まったく…… どこの世界でもイジメってあるんだなぁ。

 しみじみと眺めていると、気弱そうな茶髪の少年が言う。


「何もやましい事なんてないよッ……!」


 悔しそうに声を滲ませている。

 その声に、ガキ大将と子分たちは呆けた顔をした。

 気弱そうな茶髪の少年は声を震わせる。


「僕はッ……! 僕はッ……!」


 そんな様子の気弱そうな茶髪の少年に、ガキ大将と子分は睨みつけた。


「おまえさぁ…… まさかオイラ達に何か言いたい事があるのか?」

「やっちまおうぜ!」

「拳で分からせちまおうや!」


 そう言うとガキ大将と子分たちは拳を作り、気弱そうな茶髪の少年に向かって振りかぶった。

 流石に止めに入ったほうが良さそうかな。

 そんなわけで彼らに声をかける。


「そこら辺で止めておいたほうがいいとおもいます」


 私の言葉に、ガキ大将は「なんだぁ?」と呆けた声を出す。

 しかし私を見た途端に驚愕といった様子で固まった。

 ガキ大将の子分も私に気が付き、驚愕している。

 まあ、四メートル近い巨人な女の子に声をかけられたら驚くか。


 驚き固まるガキ大将と子分たちの様子に不思議がる気弱そうな茶髪の少年。

 そのガキ大将と子分たちの視線の先を追うように、気弱そうな茶髪の少年も私を見た。

 気弱そうな茶髪の少年のブラウンの瞳が驚愕に染まっていく。

 そんなに驚かんでも……


 驚愕に固まるガキ大将の近くまで歩き、気弱そうな茶髪の少年を後ろに庇い、見下ろして言う。


「暴力沙汰は衛兵が来ますよ?」

「……う、うるせぇ!」


 私の言葉に、ガキ大将は目をカッと見開き私を睨んで叫んだ。


「親父は帝国の上院議員だ! オイラに盾突く衛兵なんて居やしねぇよッ!」

「なるほど…… そうですか……」


 帝国といえば、この大陸の近くでは一つしか無い。

 今いる大陸の隣に位置する列島群を治めている大帝国のことだろう。

 そんな大帝国の上院議員が父親とは、それはそれは大層な権力者のボンボンだ。

 驚く私を見てか、ガキ大将は得意げに言う。


「そうさ! オイラを拘束するような奴は居ねぇってこった!」


 権力を誇示する、いかにもなボンボンのガキ大将。

 そんなガキ大将とは打って変わって、その横にいるガキ大将の子分は訝しんだ瞳で私を見ていた。

 小声でガキ大将の子分たちが話し合っている。


「お、おい…… こいつ、どこかで見たことあったか……?」

「いや…… 見たことは無いはず…… でも長い銀髪に碧眼…… そして巨人……」


 どうしたのだろうか。

 訝しんだ様子のガキ大将の子分たちとは対象的に、気分良さそうに付け上がるガキ大将。

 したり顔で私を見上げ、えらそうな口調で言ってきた。


「ところでアンタだれだよ。このオイラに挨拶しろ」


 ……名乗りもせずに、名前を聞いてくるのか。

 まあ別に知られても何も困る事は無いし、いいよね。

 ガキ大将と子分たちを見下げ、スカートの端を持ってお辞儀する。


「私、シルフィーナ・ルナリアと申します。ルナリア王国の第一王女です」


 私の挨拶に、嘲笑気味なガキ大将。


「ハッ…… 聞いたことも無ぇや……」


 ヤレヤレと言わんばかりな態度でガキ大将は続ける。


「俺に盾突いて来たんだから、いったいどんな家柄かと思ったら…… 聞いたこともねぇ小国のお姫様かよ! あっはははは! まったく、身分というのをわきまえて――」


 高圧的に偉ぶるガキ大将を止めたのは、両脇で腕を掴んでいるガキ大将の子分たちだった。

 ガキ大将は、少し驚いた様子で子分たちを見る。


「おい、どうしたっていうんだよ。オイラは今から立場の違いってやつを――」


 そんなガキ大将に構う事なく両脇を掴んで引き留める子分たち。

 子分たちの表情は恐怖に青ざめ、今にもこの場から逃げ出したいですと言わんばかりに足を震わせている。

 ……まさか、私の事を知っている?

 ここは大陸の一番端で、ルナリア王国から物凄い距離も開いている。

 ここでは私を知る人は居ないと思っていたが…… 認識が甘かったのだろうか。

 何か言いたげなガキ大将を、子分たちが腕を掴んで引き離す。 


「ど、どうしたんだよ、お前ら!! ちょ、引っ張るなって!!」

「お、おい逃げるぞ……! 急げ……!」

「訳は後で話すから! 今はこの場から離れてくれ……!」


 ワーキャー騒ぐガキ大将に構わず、ずるずると引っ張る子分たち。

 ガキ大将は子分に引きずられるように、私の元を去っていった。

 

 残されたのは私と後ろにいる気弱そうな茶髪の少年。

 振り向いて気弱そうな茶髪の少年を見る。

 何が起こったのか分からないといった表情で、私を見ていた。

 よかった。

 表情を見る限り、この気弱そうな茶髪の少年は私の事を知らないみたいだ。

 

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