エピローグ 『そうして世界は永遠の恐怖に閉ざされた』
いつもの様に窓際で紅茶を飲みながら外を眺める。
あの頃に見ていた景色とは打って変わって、窓に映る景色には人々の活気ある街並みなどは見えない。
自然と溜息が出てしまう。
「はぁ……」
そんな溜息を聞いてか、何処からともなくロナウドの声が聞こえてくる。
『メルナは溜息さえ似合うよね』
「何よそれ、嫌味?」
そう返し、テーブルの上にある正方形の透明な箱を見た。
その透明な箱の中を見ても、別にロナウドの姿は無い。
また、何処からともなくロナウドの声が聞こえてくる。
『それはそうと、最新の魔道通信イヤリングの調子はどう?』
「悪くないわ。」
目の前の正方形の透明な箱に、そう返した。
魔道通信イヤリング。
耳に着ける魔道具で、それを使えば遠距離の人とも会話が出来る優れもの。
今までの魔道通信イヤリングは、それぞれ決まったペアでしか通信ができなかったが、今つけている最新の魔道通信イヤリングは通信番号を割り振られ、その通信番号を使ってペアじゃないイヤリングとの通信が可能になった。
まあ平たく言えば、前世のボイスチャットの様に知らない人とも会話が可能になったという事だ。
なんでそんなものを付けているのか、だけど……
魔道通信イヤリング越しにロナウドが言う。
『にしても、いつ見ても本当に大きすぎるよね。 伊達に本当に女神様になった訳じゃないってかい?』
「仕方ないじゃないの。まさか巨大化が最大値まで行ったら種族進化するなんて、私だって思いもしなかったわよ」
ロナウドが居るであろう目の前の正方形の透明な箱に、そう返す。
透明な正方形の箱には、緑色の何かが見える。
なにを隠そう、この緑色の何かこそ、ロナウドが居るであろう大陸だった。
そう、目の前にあるのは、箱に入った大陸。
正直、いまでも思う。
これほんとに? って。
あのエトワールヴィルでの出来事の後、縮小化しようと思ったのだが、なんとできなかった。
あの時の大きさは恐らく四百キロメートル程の身長で、戻らないと何を踏みつけるかもわからない程だったから、戻れない事に物凄く焦っていたのを今でも覚えている。
急いでゼレノガルスクに戻り、足元の小さな屋敷に現状を説明し、なんとか会話ができる手筈が整うまで安全の為ゼレノガルスクから離れている事を伝え、なるべく遠くに移動するために沢山歩いたっけ。
ちなみに、四百キロメートルの身長だとゼレノガルスクまでは秒で到着できた。
そんな感じで出来るだけ遠くに移動し、さあそろそろ休憩しようかと一眠りすると、さらに問題は深刻になる。
目が覚めて辺りを見回すと、更に巨大化したようで、巨大な筈の大陸が手に収まる程の大きさになっていたのだ。
あの時は本当に焦った。
ロナウドが居るゼレノガルスクを踏みつぶしたかと、本気で心配した。
でもよく見ると、昨日までの自分の足跡が確認できて、その足跡を見る限りはゼレノガルスクは踏みつぶしていなかったのを確認できて一安心し、更に遠くに移動したのだ。
その日からロナウドからのコンタクトを待つ日々が始まる。
起きてはゼレノガルスクの近くに寄って、何かメッセージが無いかを確認する日々。
元々巨大な私の為の道具や屋敷を作る技術があったが、それでも最初の頃は軽いメモ用紙の大きさの手紙が限界だった。
やっぱり大陸を握りつぶせる程の大きさの巨人の道具を制作するには、メモ用紙程度が限界だったようだ。
それでも、月日を追うごとにメモ用紙の紙が大きくなり、小物を製造できるようになり、そしてついに魔道通信イヤリングが完成した時は心底喜んだ事を覚えている。
久しぶりに聞くロナウドの声には嬉しくて涙した。
それから色々あって新たな屋敷も完成、普通に生活できるようになり、今に至る。
そんな涙ぐましい苦労を思い出していると、ロナウドが言ってくる。
『にしても、女神族かぁ…… 巨神族の時にも女神メルナで通ってたけど、いまじゃあ本当に正真正銘の女神メルナ様だもんねぇ』
「ほんと、私も信じられないわ」
ロナウドの言葉に同意する。
今の私は巨神族ではなく、女神族。
巨神族の時の女神呼びは通称って感じだったけど、いまじゃあ本当に女神様。
まあそれでも破壊神だとか魔王とか邪神的な扱われかたであることには昔とそんなに変わりはない。
どんなに取り繕おうと、結局私は殺戮と恐怖を振りまく破壊の女神様だ。
そんな事を考えていると、ロナウドが思い出したかの様に言ってくる。
『あ、そうだ。今日は隷属連邦の連邦総会がある日だよ』
「あらそう。今日だっけ?」
『今日だよ。暇なら観覧に行ったらどうだい?』
「ロナウドってさ、なんだかんだいって性格悪いわよね」
『そうかな?』
私が議会や総会の場に行ったら皆が緊張して、まともに会議が進まなくなる事はロナウドなら当然知っている。
だから、それを分かった上で、いたずら心で私に連邦総会に行かせようとしているのだ。
本当に悪い奴め。
そんなロナウドは言う。
『あ、衣装省から伝言があるんだ』
「なによ」
『新しい衣装は、もう少し時間が掛かります。だってさ』
「ふぅん……」
『まあいくら巨大品製造技術が発展したと言っても、さすがにね』
それもそうか。
今の私の大きさは、たぶんだけど四十万キロメートル。
転生前の世界でわかりやすく言うと、地球を片手に持って軽く握り潰せる大きさだ。
ほんと、この世界が球体の世界じゃなくて良かった良かった。
それにしても……
「それにしても、気が付いたらいつの間にか世界征服していたわね」
『ふっ、そうだね』
「なんで笑うのよ」
『今更だなって』
「それもそうね」
いつだったかのクラスノヤ帝国の首都で大虐殺から数日した、そんな日。
過ぎ去りしその日、私なんかが世界の全てを奴隷にするなんてっていう冗談が本当になりそうな事に、一抹の不安を覚えていたっけ。
その当時の私が、今の私を見てどう思うのだろう。
『世界の絶対的支配者である女神メルナ様』
今、実際に私はそう呼ばれている。
この世界の全ての人々が、私の為に働き、私の為に生き、私の気まぐれで死ぬ。
全ての矮小な人々は、私を楽しませる為だけに生きる命。
そんな強烈にどぎついディストピアな世界の頂点に君臨し、世界の全てを搾取する私。
ああ、ほんと、最高ね。
――――【あとがき】――――
・ついに完結しました!
この小説が気に入ってくださる方は、どうか★レビューで作者を労っていただけると嬉しいです!
にしても大変だった!読者の皆様も長い間お付き合いいただきありがとうございます!
・皆様に告知が有ります!
つい先日まで次回作として『女神シルフィーナ編』を更新してきましたが、やはり実質的な新規小説なので分ける事にしました!
女神シルフィーナ編は削除し、新たに新作小説『超巨大な王女様に転生したオレ氏、超でっかわいい!』の連載を開始します!
詳細は最終更新話にて!
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