第一章番外 『あの方は女神様だった』


 自分の本屋の店先で、アタシは空を眺めていた。

 巨大な火の玉が町に降り注ぎ、あちこちから悲鳴が聞こえてくる。

 きっと、これは世界の終わりが来たのさね。


「あたし、やりたい事もっとあったさね……」


 これから死ぬのだと理解すると、自然と目が熱くなる。

 頬を伝うこれはなんだろうね。

 顔を拭うと、アタシの真上を火の玉が通り過ぎた。

 東門の方角から沢山の悲鳴が聞こえてくる。

 どうやら神はアタシに逃げるなと言っているようだ。

 地面に座り、天を仰ぐ。


「どうか…… アタシに慈悲を下さいませ……」


 神様、アタシはまだ死にたくない。

 アタシはまだ死にたくない!

 アタシはまだやりたい事が沢山あるんだ!

 

 そんなアタシの祈りなんざ聞く耳も無い神様は町に巨大な火の玉を降らせ続ける。

 しばらくて、町に何かの轟音が響き渡る。

 何やら遠くの噴水広場が騒がしい。

 あそこで何が見えるっていうんだい。

 駆け足で噴水広場まで来ると、西門方向の空にそれはあった。

 巨大な赤いドラゴンと戦う、桃色の髪と瞳をしたドラゴンより巨大な美少女。


『はぁあ!ファイアーボール!』


 巨大な手から放たれる、巨大な火の玉。

 その巨大な火の玉を作りドラゴンと戦う美少女は、アタシの良く知る娘だっだ。


「め、メルナさま……?」


 アタシの困惑など知らない他の住民が、辺りで困惑の声を上げている。

 

「なんだあれは…… あれはなんなんだ!?」

「これは神々の創成期なのか!?」

「私達どうなっちゃうの!?」


 彼らの言う通り、そのドラゴンと巨大なメルナ様の戦いは、まるで神々の創成期にでも出てきそうなほど、現実離れした光景さね。

 メルナ様はアタシ達を見て驚く様子を見せる。


『へっ!? ちょっと、これ町じゃない!? こんなところまで来ちゃったの!?』


 そう言うとドラゴンに向き合い、両手に火の玉を作り出し投げつける。

 まるで神々の戦い。

 ああ、なんて事だい。

 メルナ様、あんた女神様だったのかい。

 こんなちっぽけなアタシが、馴れ馴れしく話せるような御方ではなかったのかい。


「ごめんよ…… 今までを、許してほしいさね……」


 両手を握りメルナ様を仰ぐ。

 しばらく巨大なメルナ様はドラゴンに向かって火の玉を飛ばしていたが、不機嫌な様子で言った。


『ちぃ!ヒラヒラとこざかしい!こんなの当たるわけないじゃない!』


 巨大なメルナ様が手を止めてしばらく考えたそぶりの後、それは起こった。


『巨大化ッ!』


 その言葉と共に、巨大なメルナ様は更に巨大に―― ……いや、天を貫く女神様の姿になった。

 思わず尻もちしてしまう。

 立とうとしても、あまりの迫力に腰が動いてくれないさね。

 女神メルナ様は町を背にドラゴンを見ている。

 そして、メルナ様の動かした脚が町の外壁近くに落ちるのが見えた。


ズッドォォォォォォン!


 この世の音とは思えない程の轟音が響き渡り、気が付いたらアタシを含めた全てが宙を高く舞っていた。

 地面に叩きつけられた時には、アタシは全てを理解していたさね。

 この目の前の御方こそが、この世界の支配者なのだと。

 アタシは、そんな支配者にヘラヘラと失礼にも程がある態度を常日頃とっていたのだと。

 ああ、アタシのせいさね。

 アタシのせいで、この住民は罰を受けるのさね。

 女神メルナ様は腰を下ろす。

 天から降りるショーツを履いた巨大な桃尻が町を覆った。

 あ、ああ……


「ごめんよ…… みんな、ごめんよ……」


 町の皆は無き叫び空を覆う桃尻に許しを請う。


「尻があぁぁぁあ!女神様の巨大な尻がぁぁぁあ!」

「巨大な尻が落ちてくるぅぅぅう!」

「お美しゅうお尻でございます女神様ぁぁぁあ!」

「お尻お美しゅうございます女神様ぁぁぁあ!下着お美しゅうございます女神様ぁぁぁあ!」


 男は叫び、女は必死に尻を褒め称えている。

 これも全部、アタシのせいさね。



○○



 冒険者ギルドの入り口前で、空に広がる女神メルナ様の美しくも巨大な尻を眺めながら、私は何処か納得していた。

 女神メルナ様の冒険者登録をしたとき、その巨神族という種族に驚くと共に何か一抹の不安を感じていた。

 幼い私に母様が読んでくれた巨神族の物語。

 巨大な少女が世界の全てを手に入れ、全ての民が奴隷となった物語は今でも鮮明に覚えている。

 冒険者登録を終えた女神メルナ様は、その時はなんて事なさそうに謙遜されていたから「結局は御伽噺だよね」なんて同僚と一緒に笑っていたっけ。


「申し訳…… ございません……」

 

 空に広がる女神メルナ様の美しいお尻に、気が付けば謝罪の言葉を投げかけていた。

 結局、あの時の直観が一番正しかった。

 あの方は、この世界の全てを所有する御伽噺の巨神族だったのだ。


 女神メルナ様がドラゴンを握りつぶしているのが見える。

 しばらくして、その空を覆う美しいお尻が持ち上がっていく。


「許して下さるのですか……?」


 女神メルナ様は振り向き、町に向かって声を投げかけた。


『件の魔物、もう倒しましたよ』


 そう言いうと、手に持ったドラゴンを投げ捨てた。

 私達のすぐ近くにある西門の奥にドラゴンが落下するのが見えた。


ドォォォオン!


 その衝撃で私は少し宙を浮く。

 辺りから感謝の言葉が飛び交っている。


「おおぉぉぉ女神様!さすがでございます女神様!」

「ああ慈悲深き女神様!魔物を倒し、更に私達も許してくれるのですね!」

「女神メルナ様!万歳!女神メルナ様!万歳!」

「僕を許してくれるの女神様!?本当に許してくれるの女神様!?」


 様々な人々の感謝と安堵の声が街中を響く。

 気が付くと私は女神メルナ様に向かて跪いていた。

 ああ、偉大なる女神メルナ様。

 ああ、全てを支配する女神メルナ様。

 私達全て、だたの貴女の気まぐれで生かされております。

 どうか私達の全て、よろしくば大事になさってください。

 私達は貴女の、ただの所有物でございますから。

 

 女神メルナ様が地面に座られる。


ドッズゥゥゥゥゥゥン!

『はぁ…… 疲れたっ!』


 その衝撃は私を身長よりも高く宙に投げ出した。

 宙を舞う中、ふと町の奥が見えた。

 私と同じ様に全ての物と人が浮いている。

 ああ、さすがでございます。

 貴女の手にかかれば、私達なんて塵や埃も同然。

 貴女の前では何もかも、私達の全ては無価値でございます。


 地面に打ち付けられる。

 痛みにあえぎながらも、その御身を拝見させていただく。

 女神メルナ様はスカートの中の白いショーツを見せびらかすように股を開いていらっしゃった。


 ああ、はしたないでございます。

 でも、貴女にとって私どもは只の塵や埃。

 スカートの中を気にする程の価値も無いという事でございますね。

 さすがでございます、女神メルナ様。



 

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