第四一話 『女神の神罰は荒れ狂う』


 夕暮れに染まる辺境の町は恐怖に包まれていた。

 のどかな街並みの中に立つ住人たちは皆が怯えた様子で空を見上げている。

 住民たちが見上げる先には、真っ黒のゴシックドレスを着た、雲を突き抜け天を貫く程の超巨大な巨人の美少女の姿があった。


 桃色のウェーブかかったロングヘアの超巨大な巨人の美少女は、その桃色の瞳で足元の町を見下ろす。

 その圧倒的な存在感と威圧感に辺境の町の住民たちは何もできない。

 町を治める町長も、町を守る兵士や衛兵さえも、何もできずに雲を突き抜ける超巨大な美少女を見上げることしかできない。

 その超巨大な美少女を見上げる町の住人は何も知らなかった。

 これから起こる惨劇が、自分たちの馬鹿な領主様のせいだということには。


 雲を突き抜け天を貫く程に超巨大な美少女、メルナは、腰を曲げて足元の町を覗き込む。

 メルナにとって、この町には別に恨みはない。

 これから行う事は、ただの憂さ晴らしでしかない事は知っている。

 リスブールのテントの中で貴族達から受けた侮辱。

 その憂さ晴らしを、侮辱した貴族の領土でなら晴らしていいと、エトワールヴィルの外交大臣であるバドラーから言質を取った。

 そして今、目の前に憂さ晴らしをしても問題のない町が、雲を突き抜ける超巨大なメルナの足元にある。


 雲を突き抜ける超巨大なメルナに覗き込まれる辺境の町の住民は、ただ祈る気持ちで上空にあるメルナの美しすぎる顔を見上げていた。

 そんな目の前の辺境の町の住民の気持ちなんて何処吹く風で、雲を突き抜ける超巨大なメルナは曲げた腰を戻し、脚を上げる。

 巨大な美しいハイヒールが天高くに持ち上がり、その靴底が辺境の町の上に掲げられ、そして雲を押し退け落下していく。

 辺境の町の面積の何倍もある巨大なハイヒールの靴底が、辺境の町のすぐ横の穀倉地帯に落ちた。

 

ズッドォォォォオオオオン!!


 その圧倒的な質量の暴力に、辺境の町の住民は跳ね上がる。

 そして起こるのは辺境の町を包む阿鼻叫喚の叫び声。

 この世の地獄の扉が開いたかの様な叫び声が辺境の町を包み込んだ。


「うわぁああああぁぁぁぁああああっ!!」

「きぁああああぁぁぁぁああああっ!!」

「死にたくないっ!! 死にたくないっ!!」

「まだ死にたくないです女神様ぁぁぁぁああああ!!」

「女神様お許しをぉぉぉぉおおおお!」


 そんな辺境の町の住人の声なんて聴く耳を持たない雲を突き抜ける超巨大なメルナは、再度脚を振り下ろす。


ズッドォォォォオオオオン!! ドッズゥゥゥゥウウウウン! ドッゴォォォォオオオオン!


 何度も振り下ろされ、辺境の町の周辺に超巨大な足跡がスタンプのように刻まれていく。

 やがて雲を突き抜ける超巨大なメルナは脚を振り下ろすのを止め、腰を曲げて町を覗き込む。

 雲より高いメルナの頭の高さにも響いて聞こえてくる、この世の地獄の様な大絶叫。

 その大絶叫に、雲を突き抜ける超巨大なメルナは冷酷な笑みを浮かべ、腰を戻す。

 そして、巨大な脚をあげ、その巨大なハイヒールで狙いを定めた。

 町を覆う巨大なハイヒールが落下していく。


ドッズゥゥゥゥゥゥゥゥウウウウウウウウン!!


プチプチプチプチプチプチプチプチプチプチプチプチプチプチプチプチプチプチプチプチプチプチプチプチプチプチプチプチプチプチプチプチプチプチプチプチッ!!


 辺境の町があった場所に、その町の面積よりはるかに大きな巨大なハイヒールが着弾し、そこに居た十万人近い住民は辺境の町ごと一纏めに踏み潰される。

 そして巨大なハイヒールが持ち上がると、そこには辺境の町があった痕跡は一切なく、超巨大なハイヒールの足跡だけが残ったのだった。



○○



 辺境の町の様子を眺めていた隣町の住民は戦慄していた。

 雲を突き抜け天を貫く程に超巨大なメルナが辺境の町を丸々片足で踏みつぶす様子を見ていた隣町は悲鳴で溢れかえり、我先へと町を脱出し、あの雲を突き抜ける超巨大なメルナから離れようと人々は町の門に殺到する。

 数多の人々で混雑する町の門の人々の様子なんて気にも留めず、雲を突き抜ける超巨大なメルナは身体に纏わりつく雲海を押し退け、隣町に一歩、また一歩と近づいていく。

 その様子に隣町は大絶叫の嵐になり、人々の絶叫が町を覆いつくす。

 そんな隣町に、雲を突き抜ける超巨大なメルナが到達するには、二十歩もかからなかった。


 仁王立ちで隣町の前に立つ、雲を突き抜ける超巨大なメルナ。

 大脱出を試みる隣町の住民を上から眺め、門から一斉に逃げていく住民を見下ろす。

 そんな雲を突き抜ける超巨大なメルナに見下ろされる中でも必死に門から逃げていく隣町の住民に、メルナは上から言葉を投げ落とした。


『立っているのも疲れたから、ちょっと休憩させてもらうわね』


 雲を突き抜ける超巨大なメルナがそう言うと、隣町の住民は我先にと門へ動かしていた足を止め、空を見上げる。

 隣町の住民が眺める先にあったのは、雲を突き抜ける超巨大なメルナが後ろを向き、その美しい桃尻を突き出した姿だった。

 雲を突き抜ける超巨大なメルナが腰を落とす。

 そのゴシックドレスのスカートの中、金の刺繍が施された純白のショーツに包まれる大きな桃尻が、遥か天を覆いつくし雲を掻き分け落ちてくる。

 そんな様子を、ただただ眺めることしか隣町の住民にはできなかった。


ズドッズウウウウゥゥゥゥウウウウウン!!


プチプチプチプチプチプチプチプチプチプチプチプチプチプチプチプチプチプチプチプチプチプチプチプチプチプチプチプチプチプチプチプチプチプチプチプチッ!!


 あまりにも超巨大なメルナの桃尻は二十万を超える住民を町ごと敷き潰し、門から脱出した人々さえも纏めて圧殺する。

 雲を突き抜ける超巨大なメルナが立ち上がると、そこには穀倉地帯全てを含めた隣町の土地が、雲を突き抜ける超巨大なメルナの桃尻の形をしたクレーターに変わっていた。


 自身の桃尻に着いた土を払う、雲を突き抜ける超巨大なメルナ。

 これほどの人々を虐殺してもなお、まだ雲を突き抜ける超巨大なメルナは満足した気にはなれない。

 まだまだ心が晴れる気がしないメルナを満足させるまで、数多の町と人々は無残なまでに殺されつくされる宿命に変わったのだった。


 かつての隷属連邦の構成国としては日常茶飯事だった光景。

 しかし隷属連邦から遥か遠い諸王国の国々には未だ見た事のない地獄の光景。

 そんな諸王国の国々が経験したことのない地獄が、隷属連邦から離れた地にも表れるのだった。


 雲を突き抜ける超巨大なメルナは諸王国の土地を歩き回る。

 その土地に住む冒険者や村人、旅人などを踏みつぶしながら。

 

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