第二四話 『帝国の運命の分かれ道』


 不審な噂についての調査の結果を報告した翌日、私は皇帝陛下に招集を受けた。

 王宮区画の会議室で、目の前で席に座る皇帝陛下と執政のラルドは真剣そのものの瞳を腕を組み悩んでいた。


 な、なんだろう…… 私、また何かやっちゃいました?

 そんな前世で楽しんでいた異世界小説の最強系主人公の様な事を思いながらも、内心では全然テヘペロできる心情じゃない。

 ここ最近は暴力的だったり惨殺的だったりな事をやらかしすぎて、マジで冷や汗しかない。

 いったい、いつから殺戮マシーンの道を歩み始めてしまったのだろうか。

 小声で目の前の皇帝陛下とラルド執政に言う。


「あの…… なにか私やっちゃいました?」


 私の言葉に皇帝陛下は口を開けた。


「いや、お前に言いたい事は山ほどあるが…… 今回の要件はそれではない」

「や、山ほどあるんですね……」

「ああ、またもや西棟で人を盛大に殺めた事や、それでメイド達に精神的トラウマを植え付けた事などな…… まあ、今はその話で来てもらった訳ではない」

「は、はい……」


 やっぱり、あの件は大分お怒りの様子だ。

 でも仕方ないでしょうと言いたい。

 反撃しないと私が死にますし。

 まあ、どんな人が聞いても見苦しい言い訳だとは思う。

 あの西棟のメイド達の絶叫は凄かったし、相当怖かったのだろうな。

 本当に申し訳ない事をした。

 そんな後悔をしていると、目の前の皇帝陛下が口を開いた。


「他に適任は居ない…… か。確かにそうだが、メルナ嬢一人で行かせるのか?」


 皇帝陛下の言葉に、ラルド執政が言う。


「いえ、数人の帝国軍兵士と行かせる予定ではありますよ」

「そうじゃない、騎士団団長のルーシア殿とか、他に適任はいるであろう」

「確かにルーシア殿なら適任ですが、それだと昨今の帝都の不穏分子に対応できなくなる可能性がありますね」

「確かにそうじゃが……」


 そんな事を言い合う皇帝陛下とラルド執政。

 全く話が見えてこない、一体どうしたというのだろうか?

 議論をする二人に聞いてみる。


「あの、何の話をしているのですか?」


 私に話しかけられ、こちらを向く二人。

 そう言えばコイツには何も説明してなかったな、と言いたげな表情だ。

 ラルド執政が私に言う。


「昨日、君が西棟のメイド長であった女の自室から押収したキャリーケースがあったでしょう?」


 ラルド執政の言葉で思い出す。

 ああ、あのキャリーケースの中には沢山の封筒や手紙があったっけ。

 キャリーケースの中身を思い出す私に、ラルド執政は続ける。


「あのキャリーケースから沢山の『暗黒の輪の真理教』の手紙が発見され、その中に帝都からほど近い山の奥地に、奴らが大型ロッジと呼んでる施設がある事が判明したんだ。まあ、平たく言うと前哨拠点さ」


 前哨拠点。

 たしかルーシアが教えてくれた話では、この帝国が存在する大陸の全ての場所で暗躍しテロ活動を行っている『暗黒の輪の真理教』という邪教があり、その邪教は前哨拠点と呼ばれる特殊な拠点を中心に活動を行っているって話だったか。

 で、この帝都を狙う前哨拠点は見つかってなかったと聞いたが……

 なるほど、あのキャリーケースから帝都を狙う為の前哨基地が発見されたという事ね。

 ラルド執政は続ける。


「前哨拠点は『暗黒の輪の真理教』が、その地域で活動する中心拠点の事でね。今まで帝都周辺で活動する為の前哨基地は未発見だったんだが…… これで、帝都を安全にできるってことさ。 ただ、問題が一つあってね」

「問題、ですか?」


 ラルド執政は更に続ける。


「最近、この帝都の都市内で不穏な動きが活発なんだ。まるで何かを企んでいるかの様な動きでね。その何かは、優秀な帝国の諜報部をもってしても、残念ながら何もわかってない」


 そういうと、ラルド執政は申し訳なさそうに私を見てから続けた。


「帝都の警備を大きく割く事は出来ない。だからこそ騎士団ではなく、メルナ嬢と小隊規模の帝国軍兵士を送ろう、とういう話が持ち上がっているんだ。なんだかんだ言って、君は特殊訓練を受けた暗殺者を簡単に血祭にあげるぐらいの腕前はあるみたいだからね」

「あ、あはは……」


 血祭にあげる、という何ともオブラートに優しくも言いたい事がわかる言葉に苦笑いしかでない。

 乾いた笑いを出す私に、皇帝陛下が声をかけてきた。


「メルナ嬢、なんだかんだ言って、そなたは王子達と同じ十二歳の公爵令嬢な筈だ。だが、もはや貴殿に頼み込む程には、帝都にはまともな戦力を外に向ける余裕がないのだ。すまぬがメルナ嬢よ、行ってはくれまいか?」


 皇帝陛下は真剣な瞳で頭を下げ、頼み込んでくる。

 まあ、私は王城にきてからというもの、実の父親を殺しかけ、暗殺者を惨殺し、暗躍する西棟のメイド長も惨殺し、扉や物を怪力で壊して回るという、正直お前は本当に公爵令嬢かと言いたくなる様な事をしている自覚はある。

 でも、まさか曲がりなりにも乙女として生きてきた私に『不審な教団を壊滅してこい』なんていう命令がされる日が来るなんて、想像もつかなかったよ。


 皇帝陛下が頭を下げている。

 本来なら命令すれば誰も逆らえない立場でありながら、命令ではなく頭を下げて謝る皇帝陛下を見ていると、元日本人としては断れる訳ないよね。

 よし、決心は決まった。

 私は皇帝陛下に言う。


「わかりました。帝国の為、その前哨拠点を制圧してまいります」


 私の言葉に、皇帝陛下は頭を上げ、一言呟いた。

 

「ああ、よろしく頼んだ」



○○



 作戦決行の日、私は王宮区画で私専属のメイド達に服装を着替えさせられていた。

 脚立を上って手際よくこなす姿は、職人と言っても過言ではない。

 いつもの様にマネキンになりながら着替えが終わるのを待ち、あらかた終わったのか脚立を片付け撤収していく。

 何時もの様に一人のメイドが脚立を私の前に置き、それに上って姿見を見せてくる。

 白い半袖のシャツにフリルが特徴的な黒いスカート、長いソックスと乱雑に扱っても折れない頑丈なハイヒールのロングブーツを履いた、いつも見慣れた桃色ウェーブのロングヘアをした桃色の瞳をした美少女が映っていた。

 これから戦いに行くっていうのに、ハイヒールとはこれいかに。

 まあ、これぐらいしかまともに動きやすい靴が無かったとも言える。


 ああ、これから行くのはガチの戦闘なんだよね。

 こわいなぁ。

 巨大化すれば簡単なのは確かなんだけどさ、今回は周りに帝国軍兵士も居るから、下手な事が出来ないんだよね。

 どうにかなるかなぁ。




――――【あとがき】――――

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・次回以降、この第二章の物語がフルスロットルで終結へと向かいます。ぜひお楽しみに。

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