第十八話 『泥沼の蹴落とし合戦』


 王子二人との顔合わせから数日。

 今日も私は王子二人の護衛をしていた。

 皇族区画のドナルド王子の部屋で、私には座れない程に小さな護衛の椅子の横で体育座りをしながら、ドナルド王子と目の前の貴族の少年達に意識を向ける。

 目の前に居るドナルド王子は同年代の貴族の少年達とロナウド王子についての話をしていた。


「どうせ兄様の事だ。午後に向かう場所なんて綺麗なご令嬢が沢山いる社交界以外にあり得ない」

「その通りさ! 若い女ばかりに目が向かうロナウド王子ではなく、次期皇帝はドナルド殿下が相応しいに決まっている!」

「ああ、学も人徳も無い無能な兄様が将来の皇帝になるのは許されない。何か案は無いか?」


 ドナルド王子がそう言うと気弱そうな貴族の少年の一人が言う。


「やっぱり派閥の闘争といったら噂じゃない? 手ごろなスキャンダルを手に入れて、それに有る事無い事を付け足して広めたらいいと思う」


 気弱そうな貴族の少年の言葉にドナルド王子は下を向き考える。


「手ごろなスキャンダル…… まあ兄様の事だ、スキャンダルなんて簡単に見つかるだろう」


 ドナルド王子はそう言うと、貴族の少年達に向かい合った。

 

「よし、兄様の周囲でスキャンダルを探してくれ」

「わかったぜ」

「これもドナルド殿下の為ですよ」


 彼らはそう言うと、スキャンダルを集める具体的な方法論を話し始めた。

 まったく、しょうもない。

 ここ数日で理解したのは、王子二人で行われている継承権争いは、基本的に蹴落としあいだという事。

 目の前のドナルド王子たちが行っている、相手の悪い噂を流す行為だって、別に見るのは今回が初めてではない。

 ちょっと前にはロナウド王子の護衛の際に全く同じ会話を見たし、その後にはドナルド王子の生活習慣の悪さが噂で飛び交った。

 噂には噂で返す。

 泥沼の蹴落としあい合戦が、次期皇帝の継承権争いの全容だった。


 側近と話すドナルド王子は突然、私に声をかけてくる。


「メルナ嬢、君は兄様の元婚約者だっただろう。何かいいネタは持ってないのか?」

「まあ沢山持っていますが、私は中立を保たないといけない護衛なので、その話には乗れません」

「お堅い事だな」


 私の返答にドナルド王子は肩をすくめて返してくる。

 その後、ドナルド王子は貴族の少年達と話した後、この会合はお開きとなった。



○○



 その後、所変わってロナウド王子の部屋に来た。

 ドナルド王子達の会合の次は、ロナルド王子達の会合があるからだ。

 扉をノックし、ロナウド王子の許可を貰ってから扉を開く。

 大きく腰を落として扉を潜る私に、ロナウド王子は私を見るなり怯えた声を出した。


「ひぃ! や、やあメルナ…… そうか、今日は嬢たちとの会合だったね……」

「そろそろ慣れていただけませんか? まあ、貴方にあんな事をした身ではありますが、一応私も護衛という立場なので」

「そ、そうだね……」


 肩をすくめてロナウド王子に言うと、彼は肯定してくる。

 しばらくして、貴族の少女達が入ってきた。

 貴族の少女達はロナウドを見るや、彼に抱き着きメスの声を出す。


「あーん会いたかったですわロナウドさまっ!」

「私の全て、貴方の物ですわロナウドさまっ!」

「私を可愛がってくださいなロナウドさまっ!」 


 私の目など気にせずロナウドに抱き着き体を触る貴族の少女達。

 元婚約者の前で、こんなイチャイチャできるなんて、凄い図太い神経してるよね君たち。

 そんな私が完全に見えない彼女達は好き勝手に言う。


「私なら貴方をいつでも満足させられますわ!」

「わ、私だってロナウド様の為に色々覚えていましてよ!そ、その…… 夜のお作法だって……」

「へ? 夜のお作法ってなんですか?」

「夜にお作法なんてあるの?」


 媚びる少女に対抗する為、一人の少女が性教育を済ませた事をアピールするが、他の少女達は何の事かさっぱりといった感じだ。

 その少女以外、性教育をまともに受けてないのだろう。

 汚れを知らない全くの乙女達め。

 そんな彼女達にロナウド王子は笑顔を振りまく。


「僕は皆を愛しているから、取り合わないでくれないか?」


 ロナウド王子がそう言うと貴族の少女達は瞳にハートを浮かべる様子で黄色い声を上げる。


「はぁあああん!私はロナウドの将来のお嫁さんですわ!」

「ああん!私も貴方を愛していますわぁ!」

「私達、みんな貴方を愛しておりますわ!」


 黄色い声を出す乙女な少女達。

 性教育が進んだ少女は発情した様な表情で妖艶に下半身を指さす。


「私の穴は、いつだって貴方の為にありますわぁ……」


 ちょっと、どんだけだよ。

 さすがのロナウド王子も顔が真っ赤じゃない。

 この世界に女として生まれた私だが、いつか私も殿方相手にああなるのだろうか?

 そんな一人の少女の様子に、はてなを浮かべるピュアな少女達。

 いつか彼女達も、あの発情した表情でロナウド王子に迫るのだろう。

 ロナウド王子…… なんていうか、頑張れ。

 そして話は次第にドナルド王子の妨害行為の予想になった。


「明日、ロナウド様は伯爵家の屋敷で晩餐会に出席でしたわよね」

「そうだね、そこで次期皇帝としての演説をする予定だよ」


 貴族の少女の言葉に答えるロナウド王子。

 そんなロナウド王子の言葉に貴族の少女達が続く。


「あのいけ好かないドナルド殿下の事ですわ、何か色々嗅ぎまわってくるはずです」

「その通りですわ。きっとロナウド様の不祥事を探しに来る筈です」


 ぷりぷりと怒りドナルド王子の悪口を言う貴族の少女達。

 先程まで発情気味だった貴族の少女がロナウド王子の首にてを回して抱き着き言う。


「いいですかロナウド様、きっと目麗しい令嬢が沢山くる筈ですが、気の間違いは犯さないでくださいね。いつだって私が夜の相手をしてあげられますから……」


 そう言いながら妖艶な手つきでロナウド王子の下半身を触る発情気味の貴族の少女。

 そんな彼女に顔を真っ赤にするロナウド王子。

 この少女、本当はサキュバスなのでは?

 ロナウド王子も私も、十二歳の祝福の儀から一年も経ってないし、この少女も同じ年齢ぐらいの筈だ。

 こんな年齢で、ここまで妖艶な手つき、まじでサキュバスなのでは?

 他の令嬢も、その雰囲気に当てられ顔が真っ赤だ。


「は、はしたないですわっ!」

「い、いやらしいですわ貴女!」

「えっちなのはいけないと思いますわっ!」


 そう言って非難する少女達。

 キャッキャウフフと話は続き、最終的にロナウド王子に貴族の少女達は言った。


「ロナウド様、いつだってドナルド殿下の手下が見てると思って、行動してくださいませ」

「その通りですわ。あの方々なら、ずっと見張って証拠を探しているでしょうし」

「私達はいつでもロナウド様の味方です」


 彼女達の言葉で会合は締めくくられ、お開きとなった。

 去っていく貴族の少女達を見送る。

 ふらっと、何気なしにロナウド王子を見た。

 かれは顔を赤くしてギュっと股間を抑えている。

 ぷぷぷっ、まああれは男としては股間に毒だよね。

 ロナウド王子、煽ってやろう。


「ふふふっ、官能的な少女でしたね。あら、私が居れば事が致せませんよね。席を立ちましょうかっ?」

「め、メルナ!笑わないでくれよっ!」


 そういって気を紛らわせるように部屋を歩き始めるロナウド王子。

 男の性欲って、一度中途半端に登ったら落とすのは大変よね。

 前世で実感している身としては、ロナウド王子の行動は可愛いいものだ。

 部屋を歩き回るロナウドに声をかける。


「別に、一度致してスッキリしたいのなら、いつでも私は席を立ちますよ?」

「そ、そんなこと…… 別に席は立たなくてもいいよ」

「あら、元婚約者の私に見られながら致したいのですか。変わった趣味をお持ちですねっ」

「そういう意味じゃないって……!」


 そう言っていると、軽い鐘の音が聞こえてくる。

 これは皇族区画のリビングに置いてある時計の音の筈だ。

 金の回数から聞いて、昼食時だな。

 未だに部屋を歩き回るロナウド王子に言う。


「さあ、ダイニングに向かいましょう昼食が待っていますよロナウド王子」

「ああ、すぐ行くから先に行っていてくれ」


 私の言葉に、そう返すロナウド王子。

 まあ、そんな様子で昼食なんて食べられないよね。


「それじゃあ護衛の意味はありません。……男の性欲は大変ですからね、部屋の外で待っていますので、なるべく早く致してくださいね」


 私の言葉にロナウド王子は顔を真っ赤にする。


「ちょ、メルナ! ……いや、その心遣いには感謝するよ」

「では、私は部屋の外で待っていますね」

「ああ、ありがとう。 ……こんなイイ女を俺は手放したのか。馬鹿だよな、俺」


 腰を落として扉を潜り、閉める寸前で聞こえてきたロナウド王子の独り言。

 そう、男心も男の苦労も全部わかってあげられる、そんな女を貴方は手放した。

 今更知っても、遅いってもんだよ。

 貴方の独り言、あえて一切聞かなかった事にしてやる。

 せいぜい後悔しなさいな。




――――【あとがき】――――

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