魔法学園に降り立つ女神様

第二十話 『島流し通告』


 小鳥が囀る声を聞きながら目の前の姿見に写る寝間着からドレスに着せ替えられていく私を見るが、相変わらずボケーっとアホな顔を晒している。

 私を着せ替えている私の専属メイドたちは脚立を立て、数人がかりで今しがた下着を外している所だ。

 この四メートルという巨人のような身長の私に給仕する私の専属メイドたちも、さぞ面倒だと思っている事だろう。

 着せ替えられていく目の前の姿見に写る、輝く銀色のロングヘアの碧眼の美少女の側で給仕をする、半分も無い背丈のメイドたち。

 ほんと、まるで小人の世界に迷い込んだ気分だ。


 しばらくしてメイドたちは自身の仕事を終え、脚立を片付けて去っていく。

 姿見に残ったのは白い下地に金の刺繍が印象的なドレスに身を包んだ自身の姿。


 まったく、容姿だけは百点満点超えだよね、私。


 姿見を見ながら心の中で自画自賛していると、自室の扉が開いた音がした。

 自室の扉を見ると、見慣れた少女が扉から入ってきた。

 その栗色の長髪と瞳の少女に言う。


「ドロシー、せめてノックぐらいはしてください」

「あ、そうでしたわね。ごめんなさいシルフィーナ様」


 私の言葉に反省の言葉を言うドロシー。

 ドロシーは私のドレス姿を見て小さく息を吐いた。


「はぁ。ほんと、相変わらず溜息が出る美しさですわよね」


 そう言いながらドロシーは私を見つめている。

 ほんと、この容姿だけは百点満点超えだっていうのに…… 


「こんなに容姿は良い筈なのに、何故私は避けられているのでしょうか」

「あら、自身の容姿の自覚はあったのですわね」


 私の言葉に少し呆れた様子でドロシーは言い、スタスタと私の元にやってきた。

 ただでさえ大人のメイドたちが私の身長の半分程のなのだ。

 今の私から見たら、ドロシーは大きめのテディベアほどの大きさ。

 そんなテディベア程のドロシーは足元に来るなり見上げる。

 ほんと、相変わらず抱きしめたくなるほどにキュートだよね。


「ひゃぶっ!?」


 足元のドロシーを持ち上げ、ヌイグルミの様に抱きしめた。

 じたばたと暴れるドロシーだったが、やがて私に為されるがままになる。

 しばらく私の腕に抱かれていたドロシーは、同世代の中では大きめな私の胸から顔を出した。


「う、うぶぶ…… ぶはぁ!? ……国王陛下がお呼びですよ、シルフィーナ様」


 そう私に伝え、私の腕の中で深呼吸しているドロシー。

 どうやら、お父さまが私をお呼びらしい。

 朝食まで少し時間があるから、たぶんダイニングで出来る話では無いのだろうか。


 それじゃあ、お父さまの執務室に向かいましょうか。

 自室の扉を開き、屈む。


「むぐううううぅぅぅぅうううう♡!?」


 腕に抱えたドロシーから、くぐもった声が聞こえてきた。

 どうやら屈むときに強く抱きしめすぎたようだ。

 腕の中のドロシーに謝る。 


「ごめんなさいねドロシー」


 私の謝罪に、ドロシーからの返事は無かった。

 一応は生きているみたいで一安心。

 ドロシーは私にとって、大事な親友だ。

 もっと細心の注意を払わないと。

 それはそうと、先ほどからドロシーがビクンビクンと痙攣してるけど、大丈夫だろうか?



○○



 お父さまの執務室の扉をノックし、入る。

 執務室の奥にある執務机では、国王であるお父さまと、ドロシーの父親であるドルガが何かを話し合っていた。

 私が入室したことに気が付いたお父さま。

 そんなお父さまは、私を見ては呆れた顔を作った。

 

「ドロシー嬢を解放してやりなさい、シルフィーナ」

「でもお父さま? ドロシーは凄く抱き心地がいいのです。ずっとこうしていたいぐらいです」

 

 相変わらずビクンビクンと体を跳ねているドロシーを強く抱きしめる。

 このドロシーの抱き心地は病みつきだ。

 ほんと、この抱き心地を楽しめないなんて、私としては、お父さまが可哀そうに思える。

 私の返答に、お父さまは近くのドルガに申し訳なさそうに言う。


「……すまないドルガ殿。私の娘のSMプレイは無自覚なようだ」


 お父さまの言葉に、ドルガはヤレヤレといった様子で溜息をついた。

 そんなドルガの様子にお父さまは申し訳なさそうな表情を浮かべながら、一息ついて私に言う。


「シルフィーナ。呼び出して早々で悪いが、落ち着いて聞いてほしい」


 そう真剣な表情で私に言う、お父さま。

 な、なんだろうか?

 何か私、また悪い事してしまったのだろうか?

 普段から清廉潔白な王女様でいる為に、何もヤンチャな事なんてしていない筈。

 やった事と言えば、王都を救うために力を振るった結果、一万人程の人々を大虐殺したぐらいだ。


 ……うん、皆まで言うな。 

 メッチャ最低で最悪なヤラカシなのは理解している。

 今でも後悔が止まないんだから。

 お父さまは私の雰囲気を察してか、何故か申し訳なさそうな表情で言う。


「申し訳ないと思っている、シルフィーナ。 でも、落ち着いて聞いてほしい」


 お父さまは私にそう言いながら、続けた。


「シルフィーナ。魔法学園に入学してくれないか?」

「……へっ?」


 お父さまの表情から、もっと深刻な話が出るものだと思っていたが、どうやら違ったみたいだ。

 その魔法学園というのは、この王国随一の学園であるセレーネ学園の事だろうか?

 お父さまに聞いてみよう。


「その魔法学園というのは、もしかしなくてもセレーネ学園でしょうか?」

「いや、セレーネ学園ではない」


 セレーネ学園では無いらしい。

 じゃあ、いったいどこに入学するというのだろうか。

 お父さまは、一旦深呼吸し、私を見つめて言った。


「シルフィーナ、できれば君には『アウリウス・アカデミー』に入学してほしいんだ」


 ……うそでしょ?

 アウリウス・アカデミー……?

 もちろん、その名前は知っている。

 魔法学園で名門中の名門であり、このルナリア王国が存在する大陸から三個程も大陸を離れた先にある、大陸群の地域で随一の魔法学園だ。

 この大陸群地域一帯の、あらゆる大帝国の皇族や貴族、大商人の息子や娘、信じられない程の才能を持って生まれた平民など、そういった人たちが集まる魔法学園だと認識している。

 ましてや、ルナリア王国の王女みたいな弱小の小国の王族が行けるような学園じゃない筈だ。

 つい、お父さまに言う。


「あの、お父さま? こう言ってはなんですけど…… 私たち、ルナリア王国の王族ですよ?」

「ああ」

「私たち程の弱小王国の王族が行けるような学園ではないですよ?」

「それについては大丈夫だ」


 私の疑問に、お父さまは答える。


「シルフィーナは巨神族だ。十分を超えて、余りある権威があるさ。 ……それに、それでも何か言われたら、シルフィーナの功績として『一万の御稜威を起こした』と言えば他の皇族や大貴族連中も納得するだろう」


 全く言葉が出ない。

 つまり、お父さまは、私が一万人を虐殺するような女神様の卵だから、相手側も納得するだろうと言っているのだ。

 確かに納得はしそうではある。

 でも、それでは『私、シルフィーナは一万人を平気で虐殺する怖い怖い将来の女神様です』と言っているようなものじゃないか。

 まさか、お父さまは私をそういうふうに認識しているっていうのだろうか。

 お父さまは、何か慌てた様子で私に言う。


「お、俺はシルフィーナがルナリア王国を思って行動してくれたのは理解している! 実際、シルフィーナが居なかったら、この国は滅亡していたのも理解しているさ! ……でもな」


 そう私に言うお父さまは一旦軽く息をつき、言葉を続けた。


「でもな、それでも。人々にとってはシルフィーナは十分、女神様の卵なんだ。この魔法学園の入学の話も、シルフィーナを恐れる貴族たちが言い出したんだ」


 つまり、この国の貴族たちは、私が怖いから、私を遥々遠くのアウリウス・アカデミーまで島流ししてしまおうと……

 そういう事なのか。

 

 気づいてはいたつもりだ。

 私が城の人々から恐れられていた事は。

 使用人から、城で出会う貴族の人々。

 みんな私を見ては一目でわかる表情で怖がっていた。

 この城の人々からしたら、私は遠くの見知らぬ国まで遠征してほしい程には、見たくも無い存在という事か。

 自然とドロシーを抱く力も強くなる。


「むぐううううぅぅぅぅうううう♡!!」


 私の腕の中のドロシーは私の胸の中で声を上げ、ビクンビクンと身体を震わせている。

 ほんと、なんでこうなったのかな。

 私、一応は国を救った英雄の筈だよね……?





――――【あとがき】――――





・おひさしぶりです!

 今日からゆっくり更新していきます!

 

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