2-3.(厄介さんとの)出会い
「ふぅ……ごはんがおいしかったし、お風呂もあたたかくて気持ちよかった」
おなかいっぱいになるまでご飯を食べたから、リビングでゆっくりとしてから……ようやくお風呂に入って、部屋にもどって窓を開けてすずんでいる。
まっくらな窓の外からふり返り、時計を見ると、22時……もう眠らないと明日がつらい。
そう思いながら、窓をしめようと手を伸ばす。だけど、窓のそとから嫌な気配がした。
これは……。
「……昨日につづいて、今日も出た。いい加減にしてほしい……」
うんざりする気持ちを抑えながら、わたしはベッドから出ると部屋の鍵をかけて電気を消す。
これで眠っていると思ってくれると思う。
パパとママに内緒というのは本当に気分が悪い。そう思いながら手を横に軽く振る。
するとパジャマの上に羽織るようにして、古めかしいローブが現れ……袖を通す。
ローブの袖に手を通したと同時にグッと伸ばした手を掴むように握ると、杖が現れる。
変身、って言ったりしないけど、これで準備は整った。
開けた窓に足を掛けて屋根の上にでると、杖と共にわたしは空へと飛び出す。
下から上にびゅうと風が頬を撫で、地上が近くなる。だけどすぐにふわりとした浮遊感が体に感じられると、そのまま体は地上から離れていく。
杖に魔力を通した瞬間、体ぜんたいを魔力が通い、全身を浮かばせるようにして体が空を飛び始める。
杖に跨ってるのは魔力の消費を抑えるためであるし、杖だけに浮遊魔法をかけていた場合……体重に腕が痛いし、肩が外れたりもするらしい。
だから、もうすこし気を付けて飛ぶようにしないといけないという。
「まあ、もうすこし考えたほうが良いかも知れない。……いやな気配がするのは、学校のほうみたい。いそがないと」
つぶやき、わたしは向かう方角を決めて、杖に跨った状態で空へと浮かび上がる。
魔力を帯びて銀色に光る髪が風にまかれてバタバタと広がるのを見ながら、わたしは向かう。
まあ、なんにせよ……。
「明日も学校だから、はやく終わらそう」
授業初日に居眠りなんて、したら恥ずかしいし……ぜったいにしたくない。
そう想いながら、わたしは銀色の軌跡を描き空を飛んでいた。
●
灯りなどまったくないまっくらな学校の畑、けれどまっくらな中には監視カメラが等間隔に設置されていて、野菜ドロボウや深夜の不審者を取り締まるために動いている。
電気だから動いているのは分かっているけど、あまりばれないようにしたい。だから、あまり見られないようにしないと……。
そう思いながら地上を見ると、フゴフゴという鳴き声が聞こえた。
「我が魔力を糧に、瞳に夜の中で輝く光を――≪
呪文を唱えると、まっくらな地上の景色が変化し始める。
くらい視界にゆっくりと蛍光色が混ざり始め、完全に視界はくらやみと蛍光色と単色で彩られた畑の景色へと変化した。
すると、フゴフゴ鳴き声をあげていた存在が明らかとなった。
『フゴ、フゴ、フゴフゴ、フゴ』
『『フゴッフ、ゴッフ、フゴフゴフゴ!』』
「あれは……オーク、だったはず」
ぶたの頭にブヨブヨとした大柄なからだ、蛍光色と単色で分かりづらいけど黒色かピンク色、もしかすると混色かも知れない。
そんな二足歩行のぶたのような存在が5体ほど畑の中を歩いていた。
だけど昨日出てきたゴブリンよりはすくない。
それに纏まって移動しているから、一度で倒せる。
けど……はなれているけど、なんというか……くさい。あのオークたちはぜったいに体、洗っていないと思う。
それとも獣臭っていうのかな? わかんないや。
「とりあえず、また一気に燃やす? 脂が多そうだからよく燃えそう。でも、雷を落とすのも良いかも知れないし、風で切り刻むほうが良い? それとも、土で押しつぶそうか?」
誰かが聞いていると狂気におかされたみたいな言葉に聞こえるけど、あれらは生かしておくと人のためにはならないから……しかたない。
そんなことを考えながら、とりあえずは風で粉みじんになるまで切り刻むことにしてわたしは詠唱を始める。
「風よ。我が魔力を糧に、嵐となりて――「見つけたあああああぁぁぁぁぁぁっ!!」――なに?」
『『フゴッ?』』
『フゴフ!』
『『フゴッフー!』』
いざ魔法を放とう、といったところで周囲に声が響いた。
突然のことで驚きながら発動すんぜんの魔法をキャンセルして声がしたほうを向いたら……誰かが全速力で走ってくるのが見えた。
わたしが気づいたのと同じように、オークたちも走ってくる誰かに気づいたみたいで、声を上げた。でも、鼻をヒクヒクさせているのが見えたから……オークたちは何かに気づいた?
叫びながらかなりの速さで走ってきた誰かは、よく見ると女の人で……茶色よりの黒髪のポニーテールをなびかせながらオークたちに向かって一直線で駆けぬけると、いちばん近くに立っていたオークに向かって地面をけって飛びかかった。
「でりゃあああああああああぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」
『ブギッ?!』
地面をけると女の人の体はスケートのトリプルアクセルのように回転させながらオークのかおまで飛びあがり、気合のはいった叫びごえといっしょに回転したまま片足を上げるとオークの側頭部に回転の勢いがのった蹴りを打ちこんだ。
打ちこまれる瞬間、女の人の体はカッと光を放っていて、オークの側頭部に入った蹴りはめり込んでいた。
そこに女の人は脚に力を込めて前に押したのか、オークの体は後ろに倒れていった。
ズズンと地面を鳴らしながら倒れた仲間を見たオークたちは固まっていたけれど、すぐに怒りがこみあげてきたみたいで荒い声をあげ始めた。
『『『『ブ、ブブ……ブギィィィィィィィッ!!』』』』
「怒ったみたいだけど、そんなのはどうでも良い! ボクが住む世界で悪さをするなら黙ってなんていられないからね!!」
地面を踏みしめるオークたちを見ながら、女の人は背中に担いでいた剣を抜いてオークたちに向けて構える。……剣?
あの人、なんで剣なんて担いでいるんだろう……。それにいっしゅん体が光ったのって、身体強化の魔法?
わたしや師匠以外に魔法を使う人なんて初めて……あ、そういえば理事長も魔法を使っていたっけ。でも、魔法を使える人なんてあまりいないと思うのに。
そう思いながら地上の攻防を見る。
「はあああっ! たあっ!!」
『ブギィィィィッ!!』
『ブヒッ!!』
「うわっと、ああもう! 臭いし、数が多い!!」
身体強化魔法を使いながら、女の人は体を光らせながら剣を振るう。
それに対してオークたちは連携をすることはできるみたいで、1体が木の板で作った盾のようなもので攻撃を防ぐと続けて手斧を振り下ろしてきた。
女の人はすこし危なかったけれど避けた。だけど文句をいっている。……まあ、1VS4だから大変かもしれない。
手を貸したらいい? でも、気づかれたくないしなぁ……。
そう思いながら、わたしは地上の戦いを見る。
女の人ははんぶん苛立ちながら、オークの攻撃をよけたり、代わりに攻撃をしかけていた。
でも……。
「けっていだに欠ける……」
「ナイトにレンはまだー!? いい加減にしないとボク、騎士じゃないのにくっころしちゃうじゃん! くっころは騎士の役目なんだから、ナイトが適任なのにー!!」
仲間がいるみたいだけど、別れて行動しているみたいで……少しずつれっせいになってきているみたい。
それなのによくわからないことを叫んでいるから……余裕そうに見えてしまう。くっころ?
聞き慣れない単語に首をかしげていたけど、女の人は逃げたり攻撃したりの攻撃に我慢のげんかいが来たみたいで叫んだ。
「ああもう! いい加減にしろ! ブヒブヒ叫んでると鼻息が臭いんだよ!! はああああっ、一気に――倒れろーー! 【ストライクスラッシュ】ーーっ!!」
『『『ブ、ブヒッ!?』』』『ブギャ!!』
「これは、すごい……」
距離をとり、女の人は剣を振りかぶると身体強化魔法……それに別の魔法も使っている? さっきよりも体中をかがやかせているから。
それを見たオークたちは盾もちを前に出して、身構えていたけれど……そんな防御なんて紙とでもいうような一撃が女の人の振るった剣から放たれた。
ブンッと剣が横に振られた瞬間、離れているはずのオークたちに向かって剣からはビームのようなものが飛びだし、オーク目掛けていく。
そして飛びだしたビームはオークの体を通り抜けていく。きっと正面から見ていると胴体が斬られていると思う。だけどそれを見ていた一番後ろにいたオークはとっさに避けたみたいで腕を片方斬るだけで済んだみたいだった。
でもそんなことに気づかない女の人は、構えを解いて「ふぅ」と息を吐く。
「な、何とか倒したー……というか、もう魔力も無くなりそうで倒れそうだよー……」
言いながら女の人はその場で座りこむとぐったりとしている。冗談ぬきで本当に疲れているのが分かるし、魔力も枯渇しているみたいで剣を支えにしているようだった。
そう思っていると片腕を斬られたけど、生き延びていたオークがゆっくりと倒れた死体の中から起き上がった。
女の人もそれに気づいたようで驚いたようすをしている。
「なっ!? た、倒し切れていなかった……!? まずい、魔力が枯渇してるから体も全然動かないし、意識ももう……!」
『ブフゥ、ブフゥ……!』
「怒っているか。当り前だよね? けど、簡単に如何にかされるつもりなんてボクにはないか――うぐっ!?」
『ブギャアアアッ!!』
「――――っ!!」
仲間を倒されたことに怒っているのか、それとも腕を斬られての痛みからなのか生き残ったオークは鼻息をあらく怒りながら近づくと剣を蹴り飛ばした。
その衝撃に女の人の体は地面に倒れてしまい、オークは残った手で持っていた手斧を握り振り上げると女の人に向けて力いっぱいに下ろそうとしていた。
このままだとあの人は殺されてしまうし、助けよう。
決めた瞬間、わたしは動いた。
詠唱を破棄、自身の魔力で風を創り、刃として放つ。瞬間、ヒュンとわたしの手から薄い刃となった風が放たれて、手斧を振り上げていたオークの腕と首を通り抜けて地面に落ちていった。あ、女の人の飛びだしてた髪もちょっと切れた。
「…………? あ、あれ? いったい、なにが……」
目を閉じていたのだろう。女の人は倒れたままジッとしていたけれど、何が起きたのか分かっていない様子だった。
けど、すぐにドスッと地面になにかが落ちる音に気づいて目を開けたみたいだった。
きっと女の人は目の前に倒れたオークの首とごたいめんしているだろう。
「……え? え……~~~~~~っ!!!?!?」
ごたいめんしたのか、女の人から声にならない悲鳴が上がった。
まあ、死を覚悟していたのに目の前にオークの生首があったら驚くに決まっている。
そして首と腕が切り落とされたオークの体からシャワーのように血がぶしゃーと噴き出して女の人の体を血で真っ赤に染めた。
服も洗わないといけないだろうし、体もオークの血がこびりついていると思うから、ごしゅうしょうさまです。
「あと処理とか、大丈夫そうだし……かえろう」
周囲に気配がないことを確認して、わたしは上空から降りないままこの場をあとにした。
途中、女の人がなにか叫んでるような気がしたけど、気のせいだと思う。
それにしても、ねむい……。
はやく帰って眠らないと。明日からは授業があるから。
そう思いながら、わたしは自宅に向けて飛んだ。
地上からあつい視線でわたしを見ていることになんて気づかないまま……。
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