7-2.突入前
「…………ようやく形になった」
あたまの中で何度も組みたてて、崩してを繰り返すこと数千回。
ゆっくりと目を開けると時間はだいぶ過ぎていて、もうすぐ夜の8時だった。
いつもだったらこの時間に帰っていなかったらパパとママが心配していると思うけど、今日は放課後になったときにいったん作業を中断して……職員室前の備え付け電話で家に電話をした。
「お友達の家でとまるってウソついたけど、ママが嬉しがってくれたのが……つらい」
電話の向こうでよろこんでくれていたママをだましていることに罪悪感を感じていたけど、戻るよりもこの場で作業を行っていたほうが楽だった。
だけど、これでギャルグループはなんとかなると思う。
あたまの中で組み立てていたもの。それは新しい魔法だった。
それはモンスターに取り込まれたり、モンスターに体を乗っ取られた人からモンスターを分割させる魔法……名前は決めていないけど、あえてつけるなら≪
「成功すると良いけど……実さいにやらないとけっかは分からない……」
でも、助けたいから創ったんだから……助けないと。
そう思っていると耳にガララと戸が引かれる音が聞こえた。
『……うん、この教室にはだれも居ませんわね。ではネクストルームへ』
「この声、ナイト生徒会長」
聞こえてきた声にだれが歩いているのか理解できた。
きっともうすぐ突入するんだろうけど……先に見回りをしているんだと思う。危ない橋をわたるときは石橋をたたく必要があるっていうし。
そんなことを思っていると、ガララとわたしの教室の戸が開かれ……ナイト生徒会長と目があった。
「っっ!? た、只野シミィン……さん」
「……こんばんは、生徒会長」
まさか居ると思っていなかったみたいで、ナイト生徒会長はいっしゅん驚いた顔をしてから、すぐにいらだちを抱いた表情を向けてきた。
そしてズカズカとわたしの前へと近づくと、威圧をこめながら上から見下ろすようにこちらを見てきた。
「何故この時間に残っているのですか? あなたはただの一般市民で、賢者ではないのですから、このような場所に居たら危険なのはわかっているはずですよね? 残っているのは興味本位ですか? だったらすぐにお帰りなさい!」
「危険なのは知ってる。けど、帰るつもりはないし、そっちとも関わるつもりはない」
「~~~~っ! いいでしょう。少々手荒いですが、しかたありませんね……。只野さん、申しわけありませんがしばらく眠っていてもらいます」
そう言った瞬間、ナイト生徒会長は手をかるく動かしてトンッと首のあたりを叩いてわたしを気絶させるつもりだった。
普通の人だったら、何がおきたか分からないまま気絶して、中庭のベンチで寝ていたりするんだと思う。それが彼女の優しさだろう。
だけど、それは叶わない。
「――っ!? ど、どういうことですの?!」
『ナ、ナイト殿! 気をつけよ……。こ、この者、なにか……変だ!』
「え――――っぅ!?」
「……≪
わたしの首へとナイト生徒会長のチョップが当たろうとするかしないかという距離で、彼女の動きは止まる。
それに彼女は驚いた表情をしていたけれど、わたしの言葉に目を見開いていた。
当りまえだ。なぜなら彼女にとってのわたしは魔法を使えないと言いはるだけの学生だったから。……もしかするとアレが言ってたように賢者かな? ってレベルの。
だというのに今まさに彼女に対してわたしは魔法を使って動きを封じていた。驚かないわけがないだろう。
「――っ! ――――っっ!!?」
「ああ、いちじてきに声は≪
『お、お主、いったい何者だ!? ナイト殿にいったい何を――!!』
「うるさい。正直、アレが賢者賢者ってうざったいし、わたしはなにも関係ないって言ってるのに何度も何度も仲間に引き入れようとしていて、そろそろうんざりしている。その上、今日の尋問でも知らぬ存ぜぬをしたらかってにあんたらは怒って、おひる休みのじかんもなくなった。
何度も言うけどわたしは賢者じゃない、そしてこの世界でうまれてこの世界だけで生きている人間だから前の世界の関係うんぬんであんたらとつるむ気なんてまったくない」
戸惑うナイト生徒会長と側に立っている騎士のゆうれいを見ながら、わたしは淡々と告げる。……ちょっと苛立っているからか、いつもよりも口がまわる。
そして、ナイト生徒会長から距離をとって、ゆっくりと歩き出し……彼女の周囲をまわりながら、わたしは三つ編みに結んでいた髪を解く。
彼女の背後あたりで今まで抑えられていた髪がブワッと広がるのが視界にうつる。
「わたしはわたしがやりたいことだけをする。その結果、アレやあなたが敵に回ったとしても、わたしは絶対にようしゃはしない」
「っ!?」
『いったい、何をするつもりだ? しかも、ベラベラとこんなことを話して、自分たちが喋らないという可能性を考慮に入れてな……――ぐっ!?』
「――っっ!!?」
わたしから目を離さない騎士の胸元に手を当て、ある魔法を使う。
するとその魔法が騎士の魂へと刻み込まれた証拠として、鎧の中心に印がつけられた。
そして騎士のうめき声を聞いたからか、生徒会長がむりにでも動こうとした。
「いま、ゆうれいのあなたにくさびとして≪
『せ、制約だと!? それはあちらでは禁呪に指定されているは――!?』
「それはまえの世界の話。魔法の概念なんてないこの世界ではそんなほうは通用しない――わかった? ≪
「っっ!!? ………………」
正面にまわり、かけていたメガネを外してナイト生徒会長と目を合わせた瞬間……何かに驚いたように目をまたも見開いたけど、すぐに魔法が聞いたからかトロンとまぶたが落ちていき……からだから抵抗がなくなる。少しだけ彼女とは別のなにかの抵抗を感じたけど……とおったから問題ない。
それを確認して、わたしはイスに座った。
すると少ししてから彼女の意識は戻り……、ゆっくりと立ちあがった。
「んっ、うぅん……あ、あら? わたくし、どうしたのでしょう? ……ああ、見回りの途中でしたわね。はやく見回りを終えて集合場所に戻らないと。って、ああ、こちらの教室が最後でしたわね」
ナイト生徒会長はそう言って、目の前にいるわたしに気づくことなく教室から出ていった。そんな彼女の後を追うようにして、騎士もついて行くけれど……いちどだけこっちを見て、わたしを見て何か言いたそうだった。
だけどうちこんだ≪制約≫のおかげで喋れずにいるようだった。
それを見ながら、わたしにしては珍しくかるく手を振って彼女たちを見送った。
「……このままダンジョンにはいっても、出会ったらすぐにばれると思う。だから変そうしておこうかな。――≪
いま感じた面倒くささと、ダンジョンで出会ったときに起きるかも知れない状況を考えながら魔法を唱えた瞬間、わたしの体は光に包まれていき偽りの姿をとりはじめた。
この魔法ははじめて使うけど、問題はない……と思いたい。
だって理想の姿は頭にあるのだから。
◆ 生徒会長視点 ◆
なにか、変ですわ。
集合場所にいち早く戻ったわたくしですが、なんというか強烈な違和感が頭のなかを襲っています。
ですがその違和感がいったい何なのかがまったく理解できず、モヤモヤとします。
わたくしと共にいたおじさまは何かを知っているのでしょうか?
「おじさま、わたくし……どこか変なところがありますか?」
『い、いや、ないぞ? 自分からは言えることは……な――い、ぞ』
「おじさ――――うっ!?」
おじさまの様子がへんだ。そう思いながら声を掛けようとした瞬間、激しい頭痛が頭を襲いました。
直後、断片的に頭のなかに何かがフラッシュバックします。
月の光に輝く銀色の髪、顔は思い出せないからか真っ黒のフォルムにクレセントムーンのように広がった口、そしてキラキラと光る蒼い瞳。
そんな美しさと不気味さを兼ね備えた得体の知れない何かがわたくしへと手を伸ばしながら言います。
瞬間ノイズが走り、頭の中がぐしゃぐしゃになるような感覚を覚える中で、声が響きます。
『――ワスレロ』
ノイズが走るような声、思い起こされるその声に全身が総毛立つ感覚を覚える。
間違いない、わたくしは記憶のなかに残る得体の知れないナニカに何かをされてしまったのだ。そう思いながら急いで聖女さんへと連絡をしようとスマートフォンを取りだそうとした。
けれど、気づいてしまった。スマートフォンの液晶がパッキリと割れているということに。
「そんな……聖女さんのブレッシングを施したスマートフォンが?」
このスマートフォンは彼女による最大級の加護が込められており、効果として精神異常に対する抵抗を上げる効果がありました。
どれだけの抵抗力を秘めているのかは分かりませんが、ちょっとやそっとでは壊せるわけがないと思っていました。
ですが、それを破壊するほどの精神異常を受けたということです。そしてそれでも防ぐことが出来ずに……わたくしは受けてしまった。
「おじさま、いったい何が……」
『すまない、ナイト殿。自分からは何も……言えない』
「そんな……、な、何故!?」
『それも言えないのだ』
険しい顔をしながら、おじさまは言います。
その言葉に何かがあると理解したけれど、いま考えるのはよしておきましょう。
そう思いながら、気持ちをリセットしていると四夜さんと半田さんが戻ってくるのが見えました。
「ナイト! もう終わったんだね」
「はやいね。こっちも残っている人はいなかったよ」
「あ、ボクの所も居なかったよ」
「そ、そうですか。でしたら、向かいましょうか!」
はやくこの場を離れたい。
気持ちをリセットしたとしても、近くにいると思われるナニカの恐怖に耐え切れず……わたくしは不思議がる2人を誘導して踊り場へと向かいました。
そんなわたくしの反応に2人は首を傾げていましたが……、恐怖には勝てませんでした。
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