3-1.準備
初めてイミティ=エーションとしてアレらと接触してからひと月が経った。
その間に境界からモンスターが出てきたということはなかったみたいだから、真緒がやらかしたことで境界も免疫が付いたのかすこしだけ硬くなったのかも知れない。
もしかしたら逆襲の機会でもうかがっているのかも知れないけど、どうなのかはわたしにはわからない。
だけどそれならと考えて、わたしは放課後や休日にいろいろ準備をした。
まずはステータスカードの修正と、試作で創ったそれの大量生産。
日本語とスウェーデン語を混ぜたものだったけど、それを日本語と英語に変えた。
いちおう日本語はともかく、英語なら全世界共通だから問題はないと思う。……もしバージョンアップをするときはその国の言語に合わせるようになれば良いかもだけど、時間がかかると思う。
それと項目に【称号】も追加してみた。これはあったら若者も鍛えることにやる気を出してくれるかも知れないという思いもある。
きっとおじいさんのステータスを読みこませたら、『万能執事』とかついてそう。
次に、ある程度創り終えると今度はオネットのボディの作製をはじめた。
使用するのは周辺で採取できる素材にした。
工房の周囲に生えている木、工房の粘土質の土、それと山の中に出来た鉱脈から取れた金属数種類。それと調薬で創り上げた液体。その他もろもろ。
はじめにオネット、真緒の3人と相談を行ってどんな風にするかの設計図を作成。
元々のオネットのボディの設計を基にしつつも、精霊である彼女の力を十全に出せるようにした設計。
それを確認して、作製が始まった。
伐採した木を骨に見立てる形に錬金を行い、その過程で内部に調薬で創った魔力が通りやすくなる液体を染み込ませてから、表面を彫金で薄く金属でコーティング。
かるく指ではじくとキンと感じがした。
そこに調薬用の大釜を使って粘土質の土や液体、それに真緒の血と……わたしの血もすこし混ぜて粘土を創る。
……なんだか生暖かいような粘土ができ、それを取り出して骨格といっしょに並べて錬金を行う。
粘土と骨格で作業台がいっぱいになっている状況だけど、無事に載って良かったと思いながら錬金を行った。
作業台の粘土が骨格を覆うように広がり、貼りついていき……ゆっくりと形を作る。
足のような形をしていた骨格が足の形になり、手のように並べられた骨格が手になり、人体標本で見る骨盤の形が女性らしい形となり、胸元の胸骨におっぱいが盛られていく。
そして最終的にはすこし土色が目立つマネキンが作業台の上に置かれた。
「ふぅ、ちゃんと出来てる? ――≪
≪鑑定≫を行い不備がないかを確認するけれど、問題は無さそうに見える。
中に入る予定のオネットは現在、理事長の屋敷でおじいさんたちといっしょに真緒にメイドの心得を叩きこんでいるから居ない。
……いちおう常識はあったけれど、問題があったらしく真緒は教えられている日々みたいだった。一度会う機会があったときに見たらげっそりしていた。
とりあえず、ある程度創ってから動かしてもらおう。
そう決めると続きを始めることにする。
それから数日かけて、オネットの器づくりをつづける。
前のボディに残っていたテンペストタイガーの魔石を再加工して片方の眼球をつくり、もう片方は……アレを使おう。
わたしが持っている魔石のなかでかなりのレベルに凶悪なもの。
創りあげた目玉を目のくぼみに入れ、目立つ土色を覆うために液体を用意。
この液体は真緒と理事長と相談をして、人工皮膚に使われる原料にモンスターの素材を組み合わせて調薬した皮膚となる液体。
それと髪の元となる糸系の素材を糸玉として作業台に置いてから、錬金開始。
皮膚の元となる液体が容器から土人形へと纏わり付き、糸玉が解けていく。
しばらくして、土人形だった見た目が肌色になり、閉じられた目元にはまつ毛が見えて、その少し上には眉毛、そして髪のほうはまだ整えられていないから長めで透明な糸が伸びているような感じがして味気ない。
体を確認するけど……唇とか肌色じゃないところって、塗料を使えばよかったのかな?
どうすればよかったんだろう。
そんな感じに出来にもやっと感じながら、最後の仕上げを行う。
「最後にこれを胸に取りつければ……完成」
ひし形に加工した水晶を胸元に押し付けると、ズブッと中に取り込まれて半分だけ晒されるように固定された。
あの魔族……マッドスから盗んだ知識から得た技術で精霊を人形のなかに閉じ込める技術は理解した。
その方法は何の力も持たないクズ魔石のなかに捕まえた精霊を押し込めて魔石にして、それを人形に入れることで精霊は人形が本体とされてしまうようにしていた。だから魔石の中に入れられた精霊は精霊としての自由が奪われ、壊れるまで人形のなかに入れられ……最後には消滅する末路となっていた。
精霊は大事な存在だって師匠から教えてもらっていたから、その技術を見たときは吐き気を覚えた。だからその技術を使っていいことをしようと考えた。
それにはこの最悪な技術を自分なりに変えると考え、何度か考えたことがこの方法だった。
加工した水晶を人工的に魔石にしてから人形に取りつけ、その中に上位の精霊が入ることで動かすようにできるというロボットに搭乗するといった感じのもの。
実際に試していないから判らないけど、これでオネットは人形状態と精霊状態といった感じに入れ替えることが出来るはず。
「……でも、失敗したらって不安は残る」
だから明日、真緒とオネットを呼ぼう。
そう考えながらスマートフォンを取りだすと、理事長に電話をした。
●
次の日は狙っていたわけじゃないけど土曜日で、学校は休みだった。
だから朝からマーナを連れて森に向かうことにした。
『わふっ、わふっ、わふ~ん(久しぶりにシミィンと散歩ださんぽ~)』
「ん、ほんとだね」
尻尾をブンブン振るマーナを見ながら歩き、森の前に到着すると給仕服を着た真緒が立ってるのが見えた。
肩にはオネットが居るのが見えた。
「おはよう真緒。ちゃんと来たね」
「おはようございますマスター、本日はどうぞよろしくお願いします……」
ここ数日間、おじいさんとオネットにメイドの心得を教えられていたからか、わたしが声をかけると丁寧な口調でお辞儀をした。
でも物凄く死んだ目をしているから、かなりの教え方だったというのが分かる。……まるで一種の洗脳みたいに思えてしまうのはなんでだろう。
そんな風に思っていると、真緒の肩から離れて空中でオネットがカーテシーをする。
『本日はお招きありがとうございますご主人様。マーナもご機嫌いかがですか?』
『わふんわふん!(おれも元気!)』
『それは良かったですね。それとご主人様、理事長から連絡を貰い優木様たちには内緒で来たのですが……あの方ってなんだか第六感でも働いているのではと思うぐらい鋭いときがあると思いますので、早く森の中に入ったほうが良いと思われますよ』
「ん、ありうる。それじゃあ、行こう」
オネットの言葉にうなづき、わたしたちは揃って森の中に入る。
……なんとなく気配を感じたけど、これはアレとか半田先輩じゃなくて理事長の護衛だというのは分かった。
まあ、そっちは問題はないから良いけど。
●
「これがオネットの新しい体……」
『……素晴らしい』
「けど問題がある……」
森を抜けて工房に入ってベッドの上に寝かされたオネットのボディを見ながら、真緒とオネットが呟く。
その呟きにわたしは隠すことなく告げると、こっちを見てきたので2人に説明する。
「……なるほど。理論上ではと言ったところか――い、いえ、です……ね」
『まお、言葉遣いには注意してくださいね。……コホン、失礼しました』
荒っぽい口調で話そうとした真緒だったけど、オネットの睨みにビクッとしてすぐに口調を戻した。
なんだか、ひと月の間に主従が逆転しているね……。
そんな風に思っていると恥ずかしいのかオネットがわたしを見ながら頭を下げ、口を開いた。
『ご主人様、失敗する可能性があると言われていますが、失敗をしたとしてもわたくしめには問題はありません』
「……良いの? 失敗したら手乗りサイズの精霊じゃなくなるのに」
『はい、そもそもわたくしめはあの時にコアが壊れて消える運命でした。けれど、ご主人様とまおのお陰で、こうしてモンスターから精霊となることが出来ました。ですから、ご主人様たちの力となるべく器を手に入れたいのです』
……うそ偽りがない言葉だった。
わたしが創ったこの器でオネットがどうなるか……分からない。だけど、オネットの言葉を受け入れたい。純粋にわたしはそう感じた。
「……わかった。じゃあ、胸の人工魔石に触れて中に入るように意識して」
『わかりました。では……いきます』
オネットが人工魔石に触れると、すこしして彼女の体はスゥ……と中へと入り込んだ。
そして最後まで入ると、透明だった人工魔石が透き通った緑色に変化した。
すると、透明だった髪がゆっくりとエメラルドグリーンへと変わりはじめ、続いて眉毛なども続けて変化していった。
さらには肌色だった唇や剥き出しだった大事なところとかが鮮やかに色づいていく。
「おお、これは……すごいな」
「うん……」
まるでそれは命が吹き込まれたかのようであるのだが、人形から人間に代わっていくにつれて器に艶が出はじめて……見ているわたしは何だか恥ずかしい気持ちになってくるようだった。
隣に立つ真緒も感心したように変化していくオネットの器を見ながら呟いている。
そして、オネットという存在が器ぜんたいに染み渡ると……ゆっくりと彼女の目が開かれた。
「オネット、どうd……で、すか?」
「…………どう、大丈夫?」
「ぅ……ぁ……んっ、ぁ……ぁ、ぁ~……あ~……」
あとが怖いと判断した真緒が途中で口を詰まらせてから、丁寧な口調で訊ね直していた。
その隣でわたしも心配そうにオネットを見ると、口をパクパクとさせていたけれど……すこしずつ声になりはじめていく。
初めて声を出す……というか、そもそも声が出るように考えていなかったな。
そこは考えるべきだった。そんな反省をしていると疑問が浮かぶ。
……あれ? 声を出すようにしていなかったのに、なんで喋れる? もしかして、オネットが入ったからまた器が変質した?
そんな疑問を抱いていると、オネットが起き上がり……すこしだけふらつきながら歩いて、わたしの前でひざまづいた。
「ごじゅ、じん、ざま。ずばら、じい……う、づわ、を、ありが、どう、ござ……まず」
「むりに喋らなくてもいい」
「い”、い”え。わだぐ、じめは……あなだ、ざまにだい、じで……ごどばど、ぢゅうぜいをぢがう……ごど、じが、でぎ、まぜ、ん」
ガラガラの声でオネットは言葉を紡ぎ、テンペストタイガーの翠色の瞳とわたしが用意した黒に近い紫色の瞳の二色の魔石で彩られたオッドアイでわたしを見る。
その瞳から感じるのは強烈なまでの忠誠心。
隣で真緒が複雑そうな表情を浮かべているけど……、何を思っているのかは分からない。
……しかたない。
「……わかった。オネットの忠誠を受け入れる」
「ありがどう、ござい、ます。ごじゅ、じん、ざま……」
「とりあえず、しばらくは発声練習をしてうまく喋れるようになって。それとその体にも慣れるように。体に慣れるように運動がいいと思うから真緒、オネットを手伝ってあげて」
「かしこまりました。オネット、頑張りましょう」
「はぃ、まお。よろじ、ぐ……ねが、しま、ず」
真緒に指示を出すと彼女は頷き、オネットに手を差し伸べる。
その手を握りながら、オネットは頭を下げた。
……まあ、運動を行うまえに服を用意しないと。オネットが裸のままだとなんだか申しわけないし。
そう考えながらオネットの服一式を用意するために、錬金の作業台へと向かった。
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