2-2.広告塔

「それでは、話はこんな感じでよろしいでしょうか?」


 窓から夕焼けが射しこみはじめたころ、ようやく話はまとまりを見せた。

 はじめに半月以内に理事長のコネを使って、各国の外交官……または上の地位に立つ者を集めて、モンスターの存在を知らしめる。

 そしてそれに対抗するための存在が居るということをちゃんと明確にさせる。これはアレらの出番だけど、あまり話さないようにさせる……べきだと思う。またはそれらも人なんだと分からせるために、いつも通りにさせるべき?

 さらにそこで事前に製作した魔道具で自分たちにも魔法が使えるとか、ステータスの存在を理解させることも大事。

 とりあえずはそのためにステータスカードを改良して、ある程度の数を用意しないと。


「うん、とくに問題はないと思うよ」

「わたくしも問題ありませんわ」

「あたしも問題はないと思うけど……、身元がわかると困らない?」


 理事長の話にアレらは頷く、だけど半田先輩はすこし不安そうに問題を口にする。

 そういえば、話をしていた中で正体がバレる心配を出していなかった。

 ……これから必要になるだろうし、しかたない。そう思いながら懐からアイマスクを3枚取りだす。


「でしたらこれを使ってください。軽い認識阻害が付与されたアイマスクなので、着用すれば正体がわからないようになります」

「え!? いいの?」

「素敵なマスクですわね。……認識阻害?」

「……カッコいい。正義の仮面の使者」


 差し出したアイマスクを3人が受け取り、かるく顔に当てたりしているけど半田先輩はそういう感じのものが好きみたいで、反応が薄く見れるけど一番興奮しているように感じた。……感情が薄いもの同士だから、少しわかると思う。


「ちなみに認識阻害の効果は勇者とユウキたちが結びつかないといったものですから、戦いのさいにこれを装着しておけば身元がバレる心配は無くなります……けど、SNS上でバレた様子はありますか?」

「えっと、どうだろう?」

「くわしくは調べていませんでしたわね」

「あたしもそれっぽいのは見つけていないと思う」


 アイマスクを渡してから気づいたことを質問すると、アレらも悩み始めた。

 SNSは身元がバレたらいろいろと恐ろしいことになる。ストーカーとか、テレビのインタビューとか……カメラを持って校門に居座られたら恐い。

 そんな不安を思いはじめていると、理事長が答えを告げた。


「その点に関しては安心してください。初手を抑えることは出来ませんでしたが、昨日のうちにスカウトして聖財閥所属となってもらった専門のチームに依頼して個人情報が特定されそうな発言や記事は削除するようにしてもらっています。……まあ、もう一度上げようとする人も居たりしますけど……そちらは金銭などを使って物理的に黙ってもらいましたので」

「「「あ、ありがとうございます……」」」


 たぶん金銭だけじゃない方法でも黙らせてるけど、歳をかさねて得たと思う黒い笑みにアレら3人はちょっと引きながら頭を下げる。

 まあ、そう言うことなら渡したアイマスクは不要にならなくて良かったと思う。

 そんな風に思っていたら真緒も欲しそうにしていたので、彼女にも1つ渡す。


「うむ、すまぬなマスターよ」

「気にしないでください。……さて、ヒジリ様。そろそろ用意をするために失礼させていただこうと思います」

「わかりました。優木さん、エーションさんとすこし話をしたいので私も席を外しますね」

「え、だったらボクも!」

「いえ、ちょっと難しい話なので優木さんたちには聞かせることが出来ないものですので……」


 そろそろ帰らないとパパとママも心配すると思う。そう思いながら立ち上がると、同じように理事長が立ち上がる。

 するとアレが騒ぎ出したけど、ナイト会長たちが抑え始めた。


「四夜さん! ワガママを言ってはいけませんわよ!」

「えー、でもボクも見送りたいんだけど?」

「でしたらここで言えば良いじゃありませんの。……まさか四夜さん、あわよくば電話番号とかメールアドレスを聞き出そうとか思っていませんわよね?」

「お、おお思ってないよ! イ、イミティさん、今日はありがとう! またよろしくね!!」

「四夜さん……的中でしたわね」

「さすが四夜、ぶれない。そこが痺れないし、まったく憧れない」


 ナイト会長がジトッとした視線を送るとアレは全力で否定する。

 だけどその態度がナイト会長が予想していたことをしているのが明らかだったため、ナイト会長と半田先輩が頭を抱えていた。

 そんな2人に感謝しつつ、理事長とともに部屋を出ると外……に出ることなく、部屋の一室へと向かう。

 ちなみに話題に出していなかった真緒だけど、彼女は理事長預かりになっているからおじいさんの許可が出てから退室することになるから……アレといっしょ。

 アレは真緒と話すかは分からないけど、すこしでも分かりあえればいいと思う。

 そんなことを考えながら、着替えが置かれた部屋に入るとすぐに理事長に頭を下げる。


「……ありがとう理事長。しょうじきダメかと思った……」

「いえ、気にしないでください。私もステータスカードを見た瞬間に咄嗟に見えないと言いましたけど、それをじいやが汲み取ってくれたことに感謝ですね」

「ん、おじいさんにも感謝しないと」


 あのステータスカードを見られていたら、もしかしたらという考えを抱かれたかも知れない。……いや、アレはバカだと思うからそれは無いかも知れないけど……まんがいちを考えたら隠さないといけない。

 だから本当に理事長とおじいさんの機転には助かった。

 そう思いながら理事長と距離をとり、ベッドの前に立つと≪変態≫を解除する。

 すると体がいっしゅんで繭に覆われ、その繭の中が光り湯気に満たされる。

 その繭のなかで体が元に戻っていく感覚が感じられ、体が縮んできたからか穿いていたスカートとパンツがパサッと床に落ちてすこしだけ涼しくなったのを感じながら、3分ほど待つと繭はゆっくりと解けて……すべてが解け終えると、イミティ=エーションと名乗ったわたしじゃなくて、只野シミィンとしてのわたしの姿に戻っていた。


「……ふぅ、ちゃんと戻った」

「ちゃんとって……、その魔法のことはよく分からないのですけど……これって何か危険が伴ってしまうような魔法なんですか?」

「うん、解除に失敗したりすると元の姿に戻らなくなってしまうって師匠から聞いた。……それと変身しているときに何らかのショックで記憶を失ったら、元の自分の姿が分からなくなって、変身している状態の姿が自分だと思い込んでしまうとかいう話も聞いた」


 落ちてしまった服を畳んで、ベッドの上に置いておいた元々の服に着替えをはじめながら、師匠から聞いた≪変態≫の魔法で起きたという話をしていると理事長は心配そうにこっちを見ているのに気づいた。

 たぶんだけど、危険性が伴う魔法なのに使っても問題ないのかと心配しているんだと思う。……いちおう言っておこう。


「とりあえず理事長が心配してることはないから。師匠もその話を聞いてこの魔法が問題ありすぎると考えたみたいで、わたしに教えるときに改良したみたい」

「改良ですか? まあ、賢者さまなら魔法を改良するなんて簡単ですよね」

「ぅ、んしょ、改良と言っても使用者の魔力が尽きたとか、何かが起きて危険だと思ったときは強制的に魔法が解除されるといったものだけど」

「それなら大丈夫……なのでしょうか?」


 ジュニアブラをつけてパンツをはいて、ベッドの縁に座って靴下をはきながら言うと、理事長は心配そうにしながらも納得してくれる。

 けど、まあ、心配してくれるのは……うれしい。

 ちょっとだけ嬉しく感じながら着替えを行ってから、理事長に向きなおる。


「理事長、これから大変だと思うけど……がんばって」

「それを言うなら只野さん、あなたも大変じゃないですか。私は交渉ですけど……只野さんはステータスカードの作成、そして優木さんたちとの交流、さらにはモンスター討伐……無理はしないでくださいね」

「ん、だいじょうぶ。……頑張らないと、だれかが犠牲になるから」


 オネットの体も作成しないといけないから、本当はもっと大変。

 ……遠くの人がどうなろうか関係ない、っていうつもりはない。だけど、だれかを護るための力を手に入れる機会があるなら、手に入れてほしい。

 だれだって嫌いな人だっているし、好きな人だっている。そのだれかにも家族だっているし、友達だって……それを力がないなんていう理由だけで無くしたり、自分が死んでしまうっていう後悔なんてしてほしくない。

 だから、わたしは……力を与える……ううん、与えるなんて言わない。きっかけを目覚めさせてほしいんだ。


「……わかり、ました。私は何も言えません、ですが只野さんがやりたいことをやれるように手助けは行います。ですから、あなたのご両親に言えないことだとしても、私に言ってください」

「……ありがとう。手を貸してほしかったら、連絡する」


 何を考えたのかは分からない。だけど理事長はわたしの目を見て、言った。

 その目から感じるのは慈愛。……異世界に聖女として呼ばれただけのことはあると感じてしまう。

 だからわたしは理事長の言葉に素直に頷くとアレらに正体が分からないために用意した外套を羽織ると窓を開ける。

 さぁ、と春が過ぎ始めたころの風が室内に入り込み、外套の端がはためくけど……気にせずに杖に跨る。


「それじゃあ、またね理事長」

「ええ、都合がつき次第連絡しますので、無理はしないでください」

「ん、いちおう考えておく」


 そう言ってわたしは空を飛んで窓から出ていった。



 ☆ 聖女視点 ☆


 すこし空を飛んでから只野さんは隠蔽を行ったのか、すぐに姿が見えなくなったけど……無事に帰っていると思います。

 帰ったら親御さんとの団欒を優先してほしいのですけど……、大丈夫でしょうか。


「……ああ、もしもしばらく時間がかかることになったら、私の屋敷で泊まってもらうという口実を作るようにしたほうが良いでしょうか。きっと優木さんたちの紹介を行うときには少なくとも2日ほどは外泊するかも知れませんし」


 そう考えるとどうするべきか悩みます。……けど、考えれば考えるほど自分の無力さを感じます。

 なぜ私は優木さんたちのような十代の子どもにこんなことを押し付けているのでしょうか……。しかも只野さんにいたっては賢者さまに鍛えられたとしても前世なんてまったく無い純粋なこの世界の住人。

 本当なら私たち大人がモンスターと戦い、子供たちを護るべきなのに……力がない。

 銃やミサイルなどの現代兵器を使って対処することは可能です。けれど、誰しも銃を持ってるわけではありませんし、モンスターたちは現代兵器に耐性があるようで……きっと近いうちに現代兵器はただの牽制用の小道具扱いされることでしょう。

 報告である国の陸軍や海軍がモンスターと対峙した際、銃火器を使用したそうですが……表皮が硬く銃があまり通用しなかったと聞いています。

 それは魔力が込められていない武器であったからが大きな理由ですよね……。


「そう考えると数十人の軍人を用意して戦わせるよりも、優木さんたち3人が戦うほうが効率がいいに決まっています」


 彼女たちは魔力の扱いに長けていますし、魔力が行き渡りやすい武器を使っています。

 ですから、報告と同じような状況下であれば彼女たちは10分もかからないでしょう。

 それほどまでに転生者とこの世界の人間との違いはあります。

 私自身、転移者としてあちらの世界に召喚されたために魔力の扱いは熟知していますので優木さんたちに祝福をかけることは出来ます。……ですが、年老いていくと年々徐々に魔力は減っていくでしょう。

 だから只野さんの行おうとしていることは悪いことではないと思います。


「これ以上彼女に、いえ彼女たちに負担をかけさせないために……私も、やれることをしましょう」


 優木さんたち以外の仲間を見つけること。……そういえば、昨日の3人の男子高校生にも話を聞かないといけませんね。

 確か今は隊長さんが保護していましたっけ?

 そして各国の重鎮に話ができるように手配をしなければ……。


「ステータスカードの量産も考えれば……話し合いを行うのは夏の初めごろでしょうか。それまでに何もなければいいのですが……」

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