8-2.突入
「これ、侵入とどうじに誰が入ってきたかを探知する効果があるみたい」
かがみに手を振れながら、わたしは呟く。
かがみには≪偽装≫で偽ったわたしの姿がうつっている。
いつもはブカブカなローブだけど、偽ったわたしにはぴったりのサイズとなっており、ローブについているフードを頭からすっぽりとかぶっているために顔は見れない。
隠蔽効果があるローブで顔はかがみにはうつらず、片方の手には古めかしい杖、そしてフードのすきまから伸びるいつものフワフワじゃなくてストレートの銀髪。
……なんというか、昔話にでてくる魔女みたいな見た目。
そして、今わたしは少し前にアレらがダンジョンに入ったかがみの入り口を見ていた。
こっそりと入るまで見ていたけど、魔法防御がまったくない装備を身に着けていたことに驚いた。
「まあアレらは勇者パーティーらしいし、無事だと思っておこう」
呟きながら、わたしも中へと入ることにした。
だけど、ふつうに入ったら察知されると思うから、さとられないようにしないと。
「とりあえず使うものは……≪
気配を隠すために魔法を唱えると、わたしの存在が薄くなる。これで気づかれにくくなる。だけど、それだけだと不安だからもう一つ唱えておく。これでダンジョンに入ったときに気づかれないし、通達に遅れが生じるはずだ。
これで準備ばんたん、行こう。
小さく深呼吸をしてから、ゆっくりとかがみをくぐった。
くぐった瞬間、まるでとろみのあるお風呂に沈むような感じのみょうな感覚をぜんしんが走ったけれど、くぐり終えたからかその感覚はすぐに無くなった。
「……これは、初めてのうえに対策をしていないと酔う」
はじめての感覚。それに≪妨害≫で逸らしたけれど、体を覗かれるような感じがしたから対策をしていなかったらやっぱりここをくぐった瞬間に敵に入ったことを知られてしまうみたいだった。
なんというか、このダンジョンを創った敵は性格が陰険だけど、ずぼらだと思う。
そう思いながら杖を振って、手早く周囲を調べる。……いた。
目的のものを探しおえて、階段をゆっくりと昇る。上った先は1年の教室だけど、かがみの中だからか建物の構造は向こうみたい。
理解しながら歩いていると、1階のほうから騒がしい声とがらすが割れるような音が聞こえるから……アレらが戦っているんだと思う。
とりあえずこっちの用が終わっても戦いが続いていたら、手を貸そうか……悩む。
なんてことを考えていたけれど、『年一科通普』……『普通科一年』の前にたどり着くと扉は開いていた。
きっとかがみを抜けたときに誰かによって、扉を開けたり閉めたりしてるのだろう。
そして、中では3体の人型のかがみがわらっていた。
『?ぇねよるれくてっなにうよのらシタアもんゃちンィミシ ?ぁなかだま、なかだま』
『!ーねよだ緒一とっずらしたあ、らたしうそ !ぇねよだうそ』
『~ねよるなくし楽が日毎、んうんう』
『『『!!ッッハハハハハハハハハア』』』
人型のかがみにはギャルグループの顔が浮かんでいるけど、どう見ても正気ではない。
というか、精神がモンスターよりになっているように思える。
まあ、もとに戻れば精神ももどる……と思いたい。そう思いながらわたしは前に進む。
「残念だけど、それはムリ」
『!タンアよれだ』
『!ぉよのいなゃじび呼おはたんあ !のるてっ待をんゃちンィミシはらしたあ』
『!ようそようそ』
『『『!ね死、らかだ』』』
ギャルグループがわたしを見ながら叫ぶと、教室のなかに人型のかがみが姿を現す。
……たぶん薄っぺらいかがみだから、教室の壁に張り付いてたりしてたのだろう。
そんな風に思っていると人型のかがみは教室の中心に立っているわたしへと一斉におそいかかってきた。
『『『!!いならいはつやいなゃじんゃちンィミシ !!ハハハハハハハハア』』』
「そう。でも、すなおに殺されるつもりはないから――≪
『『『!?ゃぎ ?は』』』
そう言って魔法を唱え、杖のさきで床をたたいた瞬間、自分の周囲に重力の波がおこした。
それにより、床はドーナツ状に凹みはじめて、さらにわたしを囲んでいた人型のかがみはいっせいに潰れて、ペキペキと音をたてながら砕けた。
だけど、ギャルグループが取り込まれている3体だけは砕けないように調整している。……ちょっとめんどう。
『?!―ぇれこよのるいてっなうど』
『!!~よいさなし放 !~ょしで業仕のタンア』
『!!っよのういてったしを何がらシタア』
「……なにをした? 夜遅くまで校舎にのこって、きもだめし?」
何をしたのか、いろいろとあると思うけど……とりあえずはそう言っておく。
そして杖の先端をギャルグループを取り込んだ人型のかがみに向ける。
「まずはひとり。――≪
『?!ィィィィィヒャギ――を何いたっい』
杖の先端から光が飛びだし、向けていた人型のかがみに命中すると光が収束する。そして……かがみが割れるようなするどい悲鳴が上がった。
それを見ながらギャルグループin人型のかがみの2体がいぶかしむ。けれど、すぐに戸惑った声がそれらからでてきた。
『?!とだ……たし放解を間人だん込り取 ?!ッナカバ、バ――てしを何』
『!?ァァアアアアアアアハレコ、ダンナ !?ダ何 !ィィィイ痛イ痛、ィィィギヒ』
「ぅ、あ……、こ、こ、ど?」
収束していた光がグンと広がった直後、ニュルンとバナナの皮から身がすべるように? それともウナギが手から抜けるといった感じに?
まあ、そんな感じに広がった光の中心から取り込まれていたギャルグループの1人が絞り出された。……あ、制服も脱げてる。
そう思いながらギャルグループの1人を見ると、精神が摩耗しているみたいでまだ意識がもうろうとしていた。
「とりあえず、眠らせておこう――≪
「え? ぐぅ……むにゃ~」
「よし、オッケー。ってことで、どんどんいく」
『!!ぁぁぁぁぁぁなる来、なる来 !ろめや、や ?!っああああぐ』
『!!ぇぇぇぇぇてんなるなに後最なんこ、なんこ !にのたいつが恵知くかっせ、くかっせ』
残りの2体に≪
まあモンスターだからじひはない。
「う……。ここ……、は?」
「たすか、った……?」
「まだ起きないほうがいい」
少し使い勝手がわかってきたからか、のこりの2人を救出すると初めの1人よりは意識があった。
だけど動かれては面倒だし、眠らせることにした。
でも、彼女たちってわたしよりもただの市民なんだよね。……これは夢って思わせておこうか。
そんな風に思っているとギャルグループリーダー、……伊地輪だったっけ。だけを残してもう1人も意識を失ってしまった。
彼女もかろうじて、ってところ?
「あな、たは……?」
「これは夢、ただのわるい夢だから……起きたら、先生たちにちょっと怒られると思うけど、明日からはふつうの毎日が帰ってくる。だからおやすみ」
「……うん、おやす、み……」
「いいこ。また、あしたね」
「また、あした……」
伊地輪はそう言って眠りについた。
それを見届けてから、倉庫をあさって布を取りだして彼女たちにかける。
あとは……また取り込まれたら助けた意味もない。
「このダンジョン、マスターを倒したら中の人が全員いりぐちに追い出される仕組みみたいだから、これでいいよね」
眠る彼女たちを囲むようにして倉庫から人形を取りだして、置く。
昔、師匠とのれんしゅうで創った人形で……効果はその場所を囲むことによって、じょうい結界の≪
「壊そうとしても逆に人型のかがみが壊れるはずだから、問題はない」
視界を光のまくが降りるのを見ながら、ちゃんと発動したことを確認して立ちあがる。
とりあえず……あっちは終わったかな?
「まあ、確認ぐらいはしに行こう」
呟きながらゆっくりと歩き、わたしは教室を出た。
―――――
いつも読んでくださいありがとうございます。
今更ながら、逆読みは読みにくい(普通に読みづらい)と思いますので、逆読み変換サイトなどを利用していただけますと見やすいと思います。
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