ex-8.サキュバス、ガチャ切りされる。
「貴方、面白いわねぇ。ねえ、魔王さまぁ、この僕……ウチに貰えないかしらぁ?」
「え“っ、い、いや、それは……」
わたしを見ていたサキュバスクイーンだったけど、突然そんなことを言ってきた。
それを聞いた真緒は一瞬ギョッとした表情を浮かべてから、チラチラとわたしを見る。
そんな真緒の反応を見て、どう捉えたのかサキュバスクイーンはさらに興味を示したみたいだった。
「あらぁ、随分と魔王さまはその僕がお気に入りのようですわねぇ? ねぇ、貴方。そんな貧相な見た目になった魔王さまよりも、将来有望なウチの子……しかもウチ本体を召喚してくれたら、貴方を永遠の快楽に誘ってあげるわよぉ?」
「別にいい。それよりもそっちが依り代にしてるハーフサキュバスの魔力を使って≪
「…………お気遣いどうもありがとう」
「どういたしまして」
サキュバスクイーンがわたしに向けて≪魅了≫を使って誘惑していたけど、あいにくとわたしは女だし、魔法に耐性があるから効果はない。
『フェア』が好きなサキュバスクイーンには悪いけど、わたしが女だということも、真緒たちのほうが従属であることも、分からせるつもりはない。
そう思いながらハーフサキュバスの心配をすると、サキュバスクイーンが顔をしかめた。
たぶん嫌味として言ってるんだろうけど、感謝は受け取っておく。……あ、余裕そうに微笑み返してるけど、口元がヒクッと動いたのが見えた。
「魔王さまぁ、貴方ってば本当に僕の教育をどうしてるのかしらぁ?」
「わ、我は放任主義なのだ! 僕の持ち味を奪うつもりなどない!」
「ええ、魔王様は大らかな性格の従僕がお好みなので、基本的には好き勝手にしてもらっております。貴女も分かっていますよね?」
わたしとサキュバスクイーンの話し合いで真緒もわたしが自分よりも立場が上と分からせないほうが良いと判断してくれたみたいで、サキュバスクイーンの言葉にすこし偉そうに返した。
何というか、見た目が子供が見栄を張ってるように見えるけど……オネットのお陰でおバカっぽさが増えてくれた。
え、褒めてない? ……たぶん褒めてないと思う。
「ああもう、わかったわよぉ。今回はその僕の勧誘は諦めてあげるけど、今回だけだから!」
「そうしてくれるとありがたい。それで、新生魔王軍の情報は……教えてもらえるんだろうな?」
「はいはい、わかりました! 教えますぅ!」
すこしムスッとしつつサキュバスクイーンが言うと、真緒が訊ねる。
気が立っているサキュバスクイーンは叫ぶように返事をすると新生魔王軍の情報を教えはじめた。
結果、わかったことはいくつかあった。
・トップは周囲が魔王と呼んでいる存在で、幹部と呼ぶべき者たちは完全に実力主義で選ばれる。
そこには家柄や地位なんてものはない、前の魔王軍にはあったけれど力を持っている者によってねじ伏せられた。
・新生魔王軍に従うモンスターのほとんどは戦い他者を蹴落とし、奪い取ることに価値を見出しているタイプのモンスターが大半である。
以前、不破治で真緒が境界を壊したときに出てきた大量のモンスターたちもそういう思考を持っているモンスターの一部らしい。
・新生魔王軍に忠誠を誓う気が無い……いわゆる独自のルールで突き進むモンスターや孤高の貴族を気取る魔族は最後の一匹になるまで処分されている。
結果、自分は殺されたくないからか、独自ルールをいくモンスターの中からも自ら新生魔王軍に忠誠を誓う者が出ているらしい。
余談だけど、サキュバスはサキュバスクイーンを崇拝しているからか自ら忠誠を誓う者は居ないと言っている。
・最後に……世界にいる人間はほとんどが捕らえられており、新生魔王軍の実験好きの魔族による実験材料か、モンスターのエサや性処理道具、または生き残りを見つけ出すための猟犬としてアンデッドにされている。
生き残りはいるらしいけど、時間の問題らしい。……そっちの世界、人間にとっては超ハードモードじゃない?
「とまぁ、こんな感じかしらねぇ」
「ふむ、さっきも見せられた映像があったが……向こうの世界はだいぶ、いやかなり混沌としているようだな」
説明が終わり、真緒は唸る。
わたしも後で理事長に報告するから、アレも見ると思うけど……荒れるだろうなぁ。
でも、今はまだ向こうに行く方法もないし、行ったとしても太刀打ちできないと思う。
しかもわたしたちが倒されたら、きっとマッドスに実験として利用されると思う……いや、されると言い切れる。
だって、あの魔族はそういう欲求に忠実だから。現に方法があったら、サキュバスクイーンを狙うに違いな――――
「あ」
「あらぁ? どうしたのかしら、何か言いたいことでもあるのかし――「繋がり、切らせてもらうから――干渉を断ち切れ≪
気づいた可能性。その可能性に導かれるままにわたしはサキュバスクイーンとハーフサキュバスの繋がりを断ち切る。
この魔法は元々は洗脳を受けている相手に使用することで、洗脳状態から解放するという風に創ったものだけど……効果があったみたい。
サキュバスクイーンとの繋がりが切れたハーフサキュバスの体はフラッと傾き、ベッドへと横たわる。
それを見届けてから倉庫の中から精神干渉を防ぐ効果が付与された腕輪をハーフサキュバスの腕にはめる。これでサキュバスクイーンがこのハーフサキュバスの体から話しかけることはなくなった。
でも魔力を消費しすぎてるみたいだから、すぐに目覚めることは無さそう。……とりあえず、話を終えたらたたき起こす。
「マ、マスター? いったい何を……」
「…………覗き見されている様子はないけど、いちおう結界を張っておく」
「……イリス以外に見ている者が居たのですか?」
「さっしが早くて助かる。たぶんだけど……真緒の疑似心臓つくった魔族が見てた――と思う」
「「っ!!」」
確証は得られないけど、あとでハーフサキュバスのなかに残った痕跡を調べたら見つかると思うし、サキュバスの特性を知ってたら各所の情報を得たいがためにそれぐらいはするに違いない。
サキュバスクイーンはフェアを謳っているけど、相手がフェアを求めているかと言えばそうでもないし……利用するかも知れない。
だからきっと盗み見てたから、真緒とオネットが生存してるっていう情報は手に入れられてる。
「はぁ、失敗した……。この可能性に気づくべきだった……」
「大丈夫ですご主人様。わたくしめもあのクソ魔族には体を分解されたり、解析されたりと大きな借りがありますので、戦うときが来たら全力で行かせていただきます」
「そうだな。そいつのお陰で我は再び力は得たが……、その力でぶっ倒すのもいい余興ではないか」
「だったら強くならないと。まだまだ力が足りないから……」
「ああ、任せろ」「かしこまりました」
すこし落ち込むわたしへと真緒とオネットが誓うように言う。
その言葉を信じ、わたしもさらに強くなることを誓った。
●
それからすこしして、スマートフォンへと会議が終わったと理事長が連絡をしてきたので、眠りこけているハーフサキュバスをオネットにたたき起こしてもらうと、理事長が滞在する部屋に移動した。
ちなみにハーフサキュバスが連行されている様子は本当に犯罪者のようにしか見えなかったけど、この世界では犯罪者というわけじゃない。……というか、わたしたちのほうが犯罪者になってしまう?
そんなバカなことを思いながら理事長が待つ部屋に入ると……ぐったりしていた。
「お疲れさま、理事長」
「ええ、ありがとうございます……。ところで、そちらの女性はサキュバスだったようですがスパイでしたか?」
「それについてちょっと話があるんだけど、いい?」
「えっと、良い話……ですか? それとも、悪い話ですか?」
「たぶんいい話? けど、これの教育に時間がとられると思うから……ある意味でわるい話?」
「あ、あの、ウチに人権は……ないっすね。というか、何させるつもりっすか? 教育……?」
「それについての話もするから、口をはさめばいい。聞かないけど」
提案しようと思う内容を理事長はどう受け取るかわからないけど、ハーフサキュバスの状態の説明をはじめる。
すると初めは黙って聞いていた理事長だったけど……、時折はさむように入れられたハーフサキュバスが語る自身のの生い立ちを聞いていると……改めて彼女の顔をまじまじ見はじめ、どこか戸惑っているようだった。
「あの、私、たぶんですが……彼女の父親となった人物に心当たりがあります。というよりも、聖属性を持っている王族という時点でかなりあの御方だろうって確信を持っています」
「えっ!? ウ、ウチのパパを……っすか?」
「サキュバスにとっては雄は雄でしかなく、子供をつくる目的の男性に対して父親という意識がないようですが……彼女には父親の概念があるみたいですね」
理事長の言葉に反応し驚いたハーフサキュバス。
その様子にオネットが観察しながらつぶやき、すこしだけ感心している。
とりあえず……理事長の話を聞こう。
「ハーフサキュバスさん……えっと、確か招待企業の参加者名簿に名前が……ああ、ありました。佐久羽莉々須さんですね」
「は、はい、佐久羽莉々須って名乗ってるっす……」
「貴女の父親ですが、かつてこの世界からそちらの世界へと聖女として私を召喚した国の第一王子であるショータンス殿下だと思われます。
ショータンス殿下はその国では聖魔法の適性を持っていたこともあり、神官のひとりとして勇者パーティーへの支援や魔族やモンスターの被害を受けた国の救援を行っておりましたが……運が悪いことに殿下の参加した支援団がモンスターに襲われて散り散りになったと報告を受けていました。
ですが、サキュバスの手に堕ちていたとは思ってもみませんでしたが……」
「え……あの、サラッと今、聖女って言ったっすか? あの勇者パーティーにいたっていう聖女……?」
ショータンス、ショータンス……あ、たしか師匠がアレの仲間の紹介で語ってたかも。
えっと……見た目は実年齢よりも幼く、王族としてのプライドが高すぎる人物。
けど師匠が分析したかぎりだと、実際にはアレらの支援をはじめたころに自国が魔族の策略で滅びてしまい……ひとり生き残った王族としてのプレッシャーに押しつぶされそうになっていた自分を奮い立たせるために王族のプライドを表に出していたみたい。
しかもそういう人って、一度折れるか、しがみつけるものを見つけたらそれに依存するらしいし、ハーフサキュバス……りりすのママの快楽に堕ちたんだろうな。
で、その結果がサキュバスの中ではポンコツで、人間かと言われたら分類上だとモンスターになってるハーフサキュバス。
「はいそうです。とはいっても年月が経ったので、あの頃みたいに思い通りに神聖魔法は使えませんが……」
「えぇ……、ほんとっすか? ウチ、だまし討ちとかされないっすよね?」
モンスター側からしたらかなりやばい存在である聖女を前に、りりすはガクガクしているけれど……理事長は理事長で彼女の面影に王子様の影を見ているのか懐かしんでいるように見える。
たぶん……わたしと師匠のように教えてもらっていた関係だったんだろうな。
きっと今度は自分が教えると張り切ったりしちゃう?
「佐久羽さん、貴女には貴女の事情があると思いますが……しばらくは私たちの都合に合わせてもらいますが、よろしいですか?」
「えっ!? あ、あのー、ウチにも仕事っていうものがありまして……」
「ああ、そうでしたね。ですがしばらくはこちら預かりにさせてもらうように連絡をさせていただきます」
なんだか世話焼きおばさんな感じになった理事長が話を進めていると、りりすが困った様子で恐る恐る手を挙げ喋る。
けど、それを潰すように理事長は告げるとこの世の終わりみたいな顔をするりりす。
何というか……理事長、ちょっとテンションあがってる?
でもこのまま張り切りすぎてりりすに神聖魔法を放ったら、下手をすれば倒してしまうかも知れない。
ちょっとたすけぶねを出そう。
「理事長待って。今のままだと彼女は危ない。彼女はまだ種族的にはモンスターだから、神聖魔法はすごい毒でへたしたら消滅する」
「ひっ、ひぃ!? しょ、消滅はイヤっす! 死にたくないっす!!」
「はっ! そ、そうでしたね……。その、なにか解決法があるのですか?」
「いちおうある。……それと力を鍛える場所もあるよね?」
「え? それって、バトルフィールドのことですか?」
「……ちがう」
どうやら師匠はわたしから伝えるようにってことみたい。
盗聴の心配は……なし。りりす以外は信頼できるメンバー。けどりりすには、近いうちに首輪用意しないと。
「えっと、それじゃあ……?」
「ダンジョン」
「……え?」
「なに?」
わたしのひと言に理事長と真緒が反応する。……そういえば、真緒には言ってなかった。
だけどいま言ったから問題ない。
「この世界にダンジョンが出来た。近いうち……夏休みに行ってみたい」
「こちらに、ダンジョンが……?」
「夏休みに行きたいとは、流石マスターというべきだろうか……」
「ダ、ダンジョンって、え、この世界ってファンタジー世界じゃないっすよね?」
3人の反応はまちまちだけど、ダンジョンの危険性を理解しているからか理事長と真緒の表情はかたい。
りりすはこの世界の常識のなかにダンジョンという存在は無いと理解していたからか、あからさまに戸惑っている。
オネットは……わたしの後ろで黙って立っていた。まあ、師匠から知らせを貰ったときに工房に居たから相談したので戸惑うことはない。
とりあえず、今のところ行わないといけないことは……こんなところかな?
・りりすの神聖魔法への耐性と聖魔法を使えるようにする。
・ダンジョンアタック。
・サキュバスクイーンと話しあい。
・こっちの世界の人たちの戦う能力の身につけかた。
やりたいことが多いかも知れないけど、少しずつでも片づけていこう。
まあ、なんとかなる……よね?
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