13-2.事後処理

 ものすごく心配していたといったのが伝わるくらいに大きな声がスマートフォンの向こうから響く。

 ……まあ、ふつうの人だからモンスターが出た時点でこわいと思うし、渡した錫杖も驚いただろうし……。

 そう思ってると伊地輪はぺらぺらと喋ってくれた。


『無事? はぁ~……よかったぁ。無事だったって!――『『よかった~』』――ってか、何だったのあれ!? マジ意味わかんないんだけど!?』

『そうそう! ゲームに出てくるような変なの出てたしさ! しかもうちの学校の生徒会長とか戦ってなかった!?』

『しかもどっからかそれが店の中に入ってきて、もうダメだー! って思ったら、瑠奈が持ってた杖がピカーッて光ってそいつらを入れないようにしてたんだけど!?』


 伊地輪のほかにも性根と旋毛もスマートフォンに顔を近づけて喋ってるのか声が聞こえた。

 よかった。ちゃんと錫杖にほどこした能力が発動してたみたい。というか、ビルのなかでも境界が割れてたのかな? でも、ちょっとやそっとの攻撃じゃ障壁は割れることはないから避難所になってた……と思いたいな。

 ちなみに伊地輪に渡した錫杖は危険を察知すると所有者と周囲の人たちの魔力をすこしずつ消費して強力な障壁をドーム状に展開する魔道具。

 どれくらい防御するかと言うと、あれらと対峙していた魔王の攻撃でも2度ほどは防ぐことが出来る頑丈さだったりする。でもネックは魔力が尽きたら危ないということ。


「それで……そっちはどうなったの?」

『あ、えっとね。生徒会長とかシミィンちゃんをストーカーしてた人が中心に化け物を退治してたんだけど、自衛隊? そんな感じの人たちも増えて、銃でバンバンしてたみたいなんだけどついさっきその人たちが救助してくれたから今は他の人たちと一緒にビルの1階に造られた避難所で休んでるところ』

「なるほど……。無事でよかった」

『ありがと。……えっとさ、シミィンちゃんって……ううん、何でもない。ごめんね。それと……あの杖、その人たちに預けたんだけど良かった?』

「ん、問題ない」


 錫杖はけっきょくは聖理事長のもとに行くだろうし、大丈夫。

 そして伊地輪たちも浄化の光景を見てたから、やったのはわたしじゃないかって思ってるんだと思う。

 でもそれについては聞くつもりはないみたいだから、ありがたい。

 そう思っていると電話の向こうから会話している声が聞こえた。


『あ、はい、はい。わかりました。ごめん、シミィンちゃん。これから検査のために病院に行かないといけないみたいだから切るね』

「ん、わかった。……また学校で」

『う、うん! また学校で会おうね! それじゃ!』


 もうしわけなさそうな伊地輪にそう言うと嬉しそうな返事が返ってきて、通話が切れた。

 まあ、ゴブリンやオークとかが現れたから変な病気がまんえんしていないかが世間で不安になるんだと思う。聖理事長もそれが分かっているから病院に運ばれることになってるんだろうな……。

 それと口止め? まあ……ネットに上がってしまってるかも知れないし、それ以上に同じ現象が起きるようになる可能性だってあるんだから大々的に発表しないといけなくなると思う。……理事長、がんばれ。


「――っと、わたしもパパとママに連絡しないと」


 きっと、テレビとかで何らかのかたちで出てると思うから、パパとママは心配してると思う。というか、気が気でないと思う。

 そう思いながらお店のほうに電話をかける。

 すると、数回のコールのあと、あせった様子のパパの声がひびいた。


『ああくそ! 今立て込んでいる――「パパ」――シ、シミィンか!?』

『シミィンちゃん!? 無事なの!? 無事なのね!?』


 ママも近くにいたみたいであせったような声で問いかけてくる。

 いつもの間伸びたような話しかたじゃないから、かなり心配してたんだと理解できた。


「ん、だいじょうぶ。今は現破治にいない」

『そうか、良かった……。テレビで現破治駅前で地面が陥没して、その影響で周辺のビルで火災が起きたってテロップが流れたから驚いてしまって……』

「そういうことになってるんだ」

『何か言ったか?』

「ううん、何も言ってない。とりあえずわたしは大丈夫だから、心配しないで」

『わかった……けど、ちゃんと帰ってくるんだよな?』


 パパもママも心配してくれてるけど、ある程度は自由にしてくれる。それは本当にありがたかった。

 だから、ちゃんと安心させてあげたい。


「ん、ちゃんと帰ってくる」

『わかった。ちゃんと夕ご飯前には戻ってくるんだぞ?』

『帰ってきたらシミィンちゃんをギュ~ってしてあげるからね~!』

「……わかった」


 パパの隣で受話器の声を聞いてたと思うママからもそんなリクエストが来たけど、あえて受ける。

 というか、ママの勢いから……お風呂までいっしょに入りそうな気がするのは気のせいじゃないと思う。

 そう思いながら通話を切って、真緒たちに向きなおる。


「何だ?」

「とりあえず……しばらくはそっちの眠る場所とか、食べるもののことを考えないと……それと服も」

「服? ……ああ、そういえばそうだったな」

『まおも今は女性なのですから、身だしなみは大事ですね。ご主人様、給仕服などがありましたらいただけないでしょうか?』


 いまさらだけど、真緒の着ている服装は元々は学生服だったんだと思うけど、ボロボロでかろうじて布が残っている状態だった。……というか、服じゃなかったと思う。

 だって、ブラウスは胸を開かれたり腕が巨大になったりいろいろしていたから両袖のみとなってるし、スカートは……ウエストと両側のプリーツだった箇所が残ってるのみ。

 下着は上は完全にダメになってて白い肌にピンク色が映えている。そして下は片方のサイドは千切れてて……もう片方はかろうじて千切れないようになってるだけだった。

 ようするに服装が色々とピンチってところ。

 だというのに、それを指摘された真緒はいまさらといった様子でふんと鼻を鳴らす。


「気にするな。これまでだって男どもからは性的な目で見られたことなど一度もない!」

『まお、貴女という人は……。ご主人様』

「ん、わかった。とりあえず給仕服はないけど……これで」


 言いながら倉庫から着替え用として持っていた体操服を取りだす。……下着は、練成しよう。

 作業台に移動して、布切れをつかって手早く錬成を行うとちょっとゴワゴワしてるけど下着セットが出来た。……ブラはジュニアブラなのは察して。

 それを渡すと彼女は顔をしかめたけど、オネットに急かされる形で着替えはじめた。……その場で着替えることにはたしょう目をつむろう。

 そう思いながらしばらくすると真緒が体操服に着替えた。でも、わたしよりもすこし、すこしだけ背とかが高いからちょっときつく感じられるけど……気のせい。気のせいなんだ。


「着替えたぞ。それでどうするつもりだ?」

「ん……、そっちの腕とか脚、それとほかの生えてる物って普通の人のように戻せるの?」

「普通のか? ……やってみよう」


 わたしの言葉に従い、真緒は手足に力を込めはじめる。……あ、魔力のながれを感じる。ということはコントロールしている?

 そんな様子を見ているとドラゴンの腕、ネコ科の脚がゆっくりと人間のものへと変化していく。

 そして5分ほど経つと……手足は人間のものに戻って、ドラゴンの翼はある程度縮んだけど……猫耳はそのままだった。


「できたことはできたが……」

「みみ、そのままだね。それに翼も縮んだだけ」

「ああ、こればかりはどんなにコントロールしても無理だった。たぶん、心臓代わりのこれの影響だろう?」


 顔をしかめながら言う真緒は自分の胸あたりに手を当てる。

 きっとその手にはドクンドクンと心臓の鼓動が感じられていると思う。でも彼女が言ってることは正解だと思う。

 使った魔石の副作用で猫耳と翼がそのままになってるんだろう。

 とか思っていると真緒のお腹がグゥと鳴った。


「「…………」」


 鳴りひびいた音に何とも言えない気分になるけど、彼女は彼女ですこし顔が赤い。

 ……恥ずかしいって感情あるんだ……。

 すこしだけ驚きながらも倉庫から食べれそうなものを取りだす。


「食べる?」

「……いただく」

『この世界の食べ物ですか。柔らかそうなパンですね。先ほどの下着もこちらの主流のようですから……わたくしめたちの世界とは色々と違うようですね』


 差し出したパンを真緒は食べはじめ、宙に浮きながらオネットがジロジロと食べるパンを見ながらこの世界の常識を理解していくようだった。

 そして彼女が食べているのを見ているとまたスマートフォンに連絡がきた。

 今度はだれだろう? ……あ。


「……こっちも、でないとダメだよね」

「もむ?」

『どうかしましたか? ……誰ですか?』


 パンを口に入れながらこっちを見る真緒と、宙を飛んでこっちに近づくオネット。

 そんな2人をチラリと見て、すこし考える。

 ……まあ、来るとは思ってたし出るしかないか。

 あきらめて通話操作をして耳にスマートフォンを当てる。


「もしもし」

『……只野さん、単刀直入に言います。魔王をこちらに渡してください』


 通話の相手――聖理事長は硬い声でそう言ってきた。

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