13-3.事後処理【別視点】

 ☆ 理事長視点 ☆


「お嬢様、関係各所への根回しは完了しました。ですが……」

「人の口に戸は立てられぬ……ですね」

「はい、現破治近辺の通信が回復した途端、複数のアカウントからの投稿が行われたのを確認しました」


 部屋に入ってきたじいやへと私がそう言いながらタブレットを操作します。

 画面にはSNSのサイトが表示されていますが、いくつかのピックアップした投稿にはゴブリンやスケルトン、それにオークなどが街を徘徊している様子やドラゴンがビルの間を抜けるように翼をはためかせて飛んでいる様子の写真や動画がアップされており……、酷いものだと魔王のゾンビが雄たけびを上げるものさえもありました。

 さらには装備に身を包んだ優木さんやグレートシールドさん、半田さんたちの姿も。何名か見慣れない男性が戦っている姿も見られますが……彼らも転生者ですね。

 そしてトドメには光る大樹と、杖に乗って空を飛んでいく2人の人物の姿……情報を操作しようにも拡散されるスピードのほうが速いに違いありません。

 現にいくつかの投稿を申請によって削除させているにもかかわらず、コピーなどが取られて、それらの投稿がリツイートなどがされており果ては某有名動画サイトにも1,2分ながらも動画が上げられていました。

 そちらは速攻で削除しましたが……保存されていると拡散されるでしょうね。

 そして幸いなことに今のところは『CG?』『クオリティ高いなおい』という信じていない反応が多いです。


「SNS関連のサイトの買収と動画サイトの操作権利も手に入れておくべきでしたね……」

「ですね……。ですが過ぎたことは仕方ありません、今はやることを行いましょう」

「そうですね……とりあえず、優木さんたちは至急ホテルに避難してもらうべきですね。じいや、お願いできますか?」

「かしこまりました。近隣の聖財閥系列のセキュリティが高いホテルに彼女たちを案内するようにします」


 私の指示にじいやは頷きホテルの手配を行うために部屋から出ていきます。

 それを見届け、時計を見ると……まだ夕方の5時ごろ。

 関係各所……いえ、せめて政府に説明を行うべきですよね? ですが信じてくれますかね……異世界からの攻撃が行われているだなんて。

 まあ、それもですけど……只野さんとも話し合いをしないといけませんよね?

 きっと優木さんたちの中では魔王を倒さないどころか連れ去って逃げたと思っていることでしょうし……。いえ、私も正直なところ彼女が何をしたいのかわからないのでつい先ほどはきつめの口調で召喚を言いました。


「……大人として少し、いえかなり大人げないですよね……」

「そうでもないと思うけど?」

「っ!? た、只野さん……来ていたのですね」


 あの魔王の所業を知っているからといって、関係が壊れる可能性があるような一方的な物言いをしたことに後悔し溜息を吐いていると何時の間にか部屋に来ていた只野さんに気づきビクリと震えました。

 彼女の隣には外套を着た人物が付き従っていますが……そちらは魔王、ですよね。

 そんな私の視線に気づいたのか、只野さんが魔王に外套のフードを取るように指示をします。

 只野さんの指示に対して魔王は反発などすることなく、フードを外しました。


「あー……、聖女……だな……? 貴様とは敵同士だったため、まともに話すことなど無かったが……久しぶりだな」

「え、あ、はい……。えっと、その、貴女……魔王、ですか?」


 居心地を悪そうにしながら魔王の転生者であろう少女は私に話しかけます。

 ですが、彼女から感じる気配は邪悪……などとは程遠い、どちらかと言うと神聖さを感じるほどでした。

 そして頭には猫耳が……。えっと、ファッションですか? どう反応すれば良いのですか? 只野さん、教えてください。

 助け舟を求めて只野さんを見ると、視線に気づいた彼女は魔王の転生者を見てからこちらを見ました。


「猫耳だけじゃなくて背中にはドラゴンの翼もあるから」

「そ、そうですか……。その、なんであるのですか?」

「何でと言われると、魔石の影響だと思う」


 そう言って只野さんは魔王の転生者――真緒さんの現状を語ります。

 え? 心臓が潰されていて、今は心臓代わりに魔道具が使われてる?

 その心臓型の魔道具に使用されている魔石がテンペストタイガーと下級のドラゴンのものだからこうなったと?

 あの、ところで只野さんの肩に小さい妖精さんのような半透明のメイドさんが居るんですけど……?

 それも魔王の四天王だった【凶風】のオネットみたいな姿をした妖精さんが……。


『お久しぶりです、聖女。貴女は歳を取られましたね』

「……只野さん、説明をお願いします」

「オネットは精霊になった。現在、動かすための器をつくる予定」

「そんなあっさりとした上に淡々と言わないでくださいよ……」


 正直、頭がパンク寸前です。ですが、大人として聞くべきですよね?

 白目を剥いて現実逃避したいですけど、頑張れ私。頑張ってください私の精神……。

 思考放棄しそうな精神を必死につなぎ止めながら、只野さんに事のあらましをさらに訊ねます。

 結果、衝撃の事実が出るわ出るわと、フィーバータイムといった感じです。

 聞き終わったと同時に私は机に突っ伏していきました。


「……えっと、もう一度聞きますね? 魔王が、元々は精霊を統べる神だった、ですか?」

「そうだ。だが、貴様らと戦っていたときの我はそれを忘れ……いや、消されて魔王として人間を根絶やしにすることだけを考えていた。だが、かろうじて良心が残っていたのだろう……極力は自ら動こうとはしていなかった……はずだよな?」

「ええ、私が覚えている限りでは貴女が主体で動いたことはなく、四天王の中でも体力バカや頭空っぽと言われていた魔族がモンスターを率いて襲っていたぐらいですね」

『アレは結構やりたい放題をしていたので、わたくしめも頭を悩ませることが多々ありましたね……』


 思い出される記憶、その中で何度も襲撃を行っていた四天王が印象的でしたが……面倒な相手だったのは覚えています。

 小さな村には行かずに基本的には大きな街に襲撃を行い、そこの騎士や凄腕の冒険者相手に勝負を仕掛けてを繰り返す戦闘狂。魔王軍でも手に余る存在だったようでオネットさんも遠い目をしています。

 ああ、今なら彼女と仲良くなれそうな気がします。そんな気持ちを感じさせる目ですね。


「そして、魔王の転生者である貴女……真緒さんはその呪縛に呑まれたままだったけど、只野さんのお陰で浄化されて、元々の存在を取り戻したと考えてよろしいでしょうか?」

「そう思って構わない。……とは言っても、我の力は長い年月で忘れられているから精霊の助力を得る所から始まるがな」

『わたくしめもお手伝いいたします、まお。よろしいでしょうか、ご主人様』


 何もないところに手を伸ばす真緒さんですが、きっと私が感知できないほどの精霊が居るのかも知れませんね。

 そんな彼女にオネットさんが近づき、従う。……でも、なんというか主というよりも妹を気遣う姉のように見えますね。もしくは母親を気遣う娘のように。

 そう思っていると只野さんが話しかけてきました。


「それで理事長、これからどうする予定?」

「……どうやら、色々と理解してるみたいですね?」

「ん。何のためにわたしが夜に行動してモンスターを倒してたのか、わかってるよね?」

「ええ、分かっています。テレビなどの表の情報では駅前で地震による地盤沈下、そこからの建物がガス爆発したと説明しておきましたが……現在、現破治近辺のネット障害が復旧した結果、あの場に居合わせた人たちのSNSに大量の写真や動画が上げられています」


 そう言いながら、私はタブレットを操作して只野さんたちに見えるようにします。

 只野さんは情報をチラリと確認し、真緒さんは自身の姿を見て顔をしかめ、オネットさんはタブレットが珍しいのか興味深そうに見ています。

 ……只野さんはどう考えているのでしょうか?


「……理事長はどうするつもり? というよりも、どうする?」

「映画の撮影といって誤魔化す……のは無理ですね。情報が出すぎています。……ですが、どうやって、何処まで、誰に対して、話を持って行くかが問題です……」

「……かくご、決めるしかないか」

「え? 只野さん?」


 何かを考えるようにしていた只野さんでしたが、ポツリと呟きます。

 そして、こちらを見てひと言。


「――明日、勇者たちと会う。ただし、姿は偽るけど。そして話をしてから、アレらに前に出てもらおうと思う」


 そう只野さんは言いました。

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