12-3.魔改造【別視点】
*魔王の転生体視点*
この世に生まれたときから何処か違和感があった。
自分はここではないどこかに居るはず。ここは自分の居場所ではない。
表情をあまり変えない自分を可愛いと言いながら撫でてくる両親にも、肉親の情なんて湧くわけがなかった。
だけど、それはおかしいみたいだから、周りと同じようにならないといけない。
そう思い続けながらも、なんとか生きようと思っていた。……けど無理だった。
初めて恐れられたのは、通うことになった保育園で子供特有の「ぼくがつかうんだ!」という持っていたオモチャをとろうとした同じ園に通う男の子との諍い。
それに対して我は取ろうとしたオモチャで男の子の頭を殴りつけて、泣いているというのに殴り続けて、周りが止めに入っても殴り続けた。
血を流しながら泣きつづける男の子、血まみれになったオモチャ。それを見ながら、我は……楽しくて、笑った。
そのときは子供同士のケンカだということにされたけれども、両親はその男の子に対しての謝罪などがあったらしいけど……何が悪いのかわからなかった。
けれどそれがあってから両親は絶対に人に手をあげるんじゃないと我に言い聞かせた。
……人のものを奪おうとしていたのが悪いのに、なんでだ?
次に周りから恐れられ、愛していると言っていた両親に捨てられることになったのは小学校のころだった。
両親の言い聞かせで人に手をあげないという制約を与えられた我は、何事もなく平凡な生活を送っていた。
けれど周りも成長していくにつれて調子に乗る者や周りに身を任せていく者などが増えていった。
そんな中、ある程度の分別が付くようになった小学四年生のころ……通っていたクラスでイジメが起きた。
イジメの主導者は調子に乗りすぎていたガキ大将。そいつは周りの男子を従えてクラスの王様を気取っていた。
クラスの王様の命令にクラスメイトたちはほとんど嫌々ながらも従っていた。そんな中でそれに興味がないようにしているあまり目立たない者が居たらどうなるか?
簡単な話だ。力づくで従えようとする。
そして始まるのは
物を隠す、捨てるは当たり前。給食を奪う、わざと汚させるのも当たり前。体育の時間でボールを投げてくるのも当たり前。
初めは嫌々していたクラスメイトたちも何も言い返さない者に調子に乗ってきて、嫌々がイジメる愉しさを覚えてしまい……歪んでいく。
さらに最悪なのは
言い聞かせられた制約を護り続けていた我であったが、徐々に徐々に制約に綻びが生じ始めて……いや、内なる声が叫んでいた。
『何故やり返さない、脆弱な存在に舐められていて良いのか? 言いわけが無いだろう。お前は我だ。我は――――』
何度も夢を見ていた。自分が王であり、すべてを支配する者である夢。
人に手をあげないということを捨てたら、自分は王となるのだろうか?
そんな考えと、内なる声がここは自分の世界じゃないという思いをさらに加速させる。
そして、事件は起きた。
年末、学校で大掃除が行われたとき、窓掃除の担当となっていて窓枠に足を乗せて窓を掃除していた。
与えられた担当をキチンとこなそうとする我だったが、足に衝撃が走り……フッと軽くなったときには、地面があった。
誰かが押した。それを理解した瞬間、地面に激突した。
激しい痛み、ずきんずきんと痛む頭。その瞬間、自分が何者であるかを思い出した。
「そう、だ……。われ、は、まお……う。魔王、だ」
そうだった。我は別の世界で魔王だった。
それを認識した瞬間、頭のなかにはかつての記憶が蘇る。
だが、何だこれは? 脆弱な人間の体。親の命令に従い続けるだけの精神。
「ふざけるな。ふざけるなふざけるな! 何故、我は何もしない? バカか、バカなのか我は?!」
我は目覚めた。
その瞬間、頭のなかに両親に言い聞かされていた言葉が何ともバカなものであったかを理解すると、笑みが浮かび始めた。
笑みを浮かべながら上を見ると、信じられないといった表情を浮かべるゴミどもがこちらを見ていた。
「くくくくくっ、何を恐れている? お前らは我を起こしてくれたのだから、それ相応の礼を返してやろうではないか」
ガマンなどするつもりはない。腹の底から込み上げる笑いに身を委ねながら、教室に向かって歩く。
途中、血まみれの我を見て驚き逃げる脆弱な者どもが居たが、無視をする。
「……さあ、楽しい時間の始まりだ」
教室に辿り着き、部屋に入ると怯えた声がいくつも響いた。
それを見ながら、我は言い……ゴミどもと同じことを行った。
イスを掴み、振り回し、壁やゴミどもに向けて叩きつけ、机を蹴り飛ばし、慌てて逃げたために倒れたゴミに向けて投げつける。机に潰されたゴミは呻き、血を流す。
暴れた結果、窓ガラスが割れ、扉が倒れる音がした。
――やめて、ごめんなさい、あいつに逆らえなくて!
そんな声がいくつも聞こえたが、無視をして笑いながら
一度だけ魔法を使おうとしたのだが、まったく魔法が発動する気配などが無かったが……問題はない。
バカが何かを口にしていたけれど、止めることなく笑いながら全力で蹴る。体重を乗せて踏みつぶす。
ぐちゃり、ぐにゃりと肉を潰す感覚が足に伝わる。
愉しい、たのしい、楽しい!
「ククッ、クハハハ……ッ! ハハハハハハハハハハハハハハッ!! 恐れろ、我を恐れろ!!」
湧き上がる
そしてその笑いと、クラスメイトたちを甚振る行為は……騒ぎを聞きつけてようやくやって来たガタイの良い体育教師によって床に叩きつけられるように押さえつけるまで止まることはなかった。
恐怖に歪んだやつらの視線を浴びながら、我は嗤う。笑う。高らかに。
●
この一件は警察……を呼ぶことはなかった。
学校側にもイジメをこれまで黙認していたという問題が出てしまうため、呼べないのは当たり前だろう。
けれど少なからず問題はあった。
我をイジメていたクラスメイトのほとんどがしばらくの間、我が暴れた結果……病院送りとなって学校に来ることはなかった。
傷が癒えて学校に来たとしても我を恐れたり、我を見て悲鳴を上げるといった行動を見せたりもした。
それに対し、我はニィと嗤う。そしてやつらの体についた傷を見て、更に笑う。
……ちなみに最もケガが酷かったのはクラスの王様で、顔面やら内臓やら睾丸やらが潰されていたりしていたから手術とかをするために入院も長引いたようだし、一度も学校に来ることなく転校となってこの地から居なくなっていた。
そして、それらを行った報復として周りの家族から両親は攻められ続けた。さらに血縁上で我の父親である男は結果的に職を失った。
当然行き着く先は酒浸りの生活だ。
そんな飲んだくれたり自棄になった両親は、我を見るたび唾を飛ばさんばかりに罵った。
『あんたなんか産むんじゃなかった!』
『お前は悪魔だ!! 悪魔の子だ!!』
そう言って我に怒鳴りながら我に手をあげてきた。だから、我も手をあげ返す。
自分も攻撃を受けた。だから反撃をしただけだ。だというのに叩きかえされたことに彼らは驚きの目を向けた。やられたらやり返すだけだ。
そうだ。我は、悪魔だ。魔王だ。何故人間ごときに遠慮などせねばならん。
そんな我を両親は手に負えないと判断し、厳格と言われている父親の祖父母へと無理矢理預けた。
祖父母は「どうしてこんなことをしたんだ?」とか「殴られれば人は痛いし傷つく」と甘っちょろいことを言っていたが、冷めた目で見続けていると無理と気づいたようだった。
厳格だが、危機感知能力は高いようだ。
そこからは親戚中の押し付け合いの始まりである。
可哀そうな生活をしていただろうと憐れむ者もいた。手のつけられない者と扱う者もいた。成熟していない女の体に興味を示し寝込みを襲う者もいた。金を与えられたから仕方なく世話をするという者もいた。
けれど彼らも……はやくて一日、長くて半年で我を厄介払いするように家から追い出した。
そして18歳となったころには親族からは自分という存在は完全に除外されたようで……とある施設に入れられた。
入れられた施設で、半ば強制的に高校に入れられたのだが……そこは力こそすべてという、かつて暮らした親戚の家で読んだことがあるヤンキーマンガのようなところだった。
殴り合いですべてを解決する。それは我が望んでいたものだった。
我は歓喜した。この場所でなら我は好き放題できる。
そう思っていたのだが、現実は違った。
どうやら今世の体はものすごく《弱い》らしい。
肉体は落下したころから成長しなくなった。しかし代わりに魔王としての記憶が戻ったからか飛躍的に向上した肉体の回復力。
それが彼らには台所を這いずり回る虫のように感じるようだった。
その上、相手を舐めた印象の高圧的な態度。
それらが合わさった結果、我はくそ生意気な上に相手の力量も見極められないバカと思われていた。
そんなことを言われてはいそうですか。なんて従えるはずもなく、怒りに任せて飛びかかる……結果、何も出来ずに集団リンチを受ける日々。
前日にリンチしてボロボロにしたとしても、翌日にはキズは大体は治っていた。
結果、我は一部の不良たちとっては……都合のいいサンドバッグとなっていた。
それが溜まらなく苛立ちと屈辱を感じていた。
「くそ……っ、くそっ! くそっ、くそっ、くそがっ!!」
本当の力が出せたなら我に殴りかかってくる不良を逆に殴り飛ばすことも出来るのに、いや……指一本で簡単に殺すことが出来るのに。
何も出来ずに何度も顔を殴られ、何度も腹を蹴られ、何度も背中を踏まれた。
……もう少し成熟した体ならば、服をひん剥かれて性行為などもされていたかも知れないけれど……そういうときばかりはこの未成熟な体に感謝するべきだろうか?
けど、それでも我は暴力を振るう側のはずなのに、される側にされるのは腹立たしい。
「……力、力が欲しい。我が持っていた力を取り戻したい……」
そう思いながらどうにか術を探そうとしていたある日、我は魔力を放つ存在に気づいた。
魔力を放つ存在が何処に居るかをふらふら彷徨い、何日か歩き続け……どこかの繁華街の路地裏に入ったとき……我は見つけた。18年ぶりに見た魔族の姿だった。
その魔族は瀕死であったが、自分はまだ助かると思っていた。
だがもう助からないと分かっているから、我は有効活用してやることにした。
感謝せよ。貴様は魔王の力となるのだから、誉と思うがよい。
そう思いながら魔の力を奪い取り、記憶を読み取り……歓喜した。
倒すべき宿敵が我と同じく転生していたという事実に。
だがその直後、体力の限界が来て気絶した。
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