12-2.魔改造

 魔王の転生体の体はほとんど死んでいる。心臓がなくなっているからあたりまえ。

 だけど、心臓として埋め込まれたこの魔道具に不死の特性が付与されているみたいだから、それを利用する。

 でもあの魔族がつくったものを利用したらあのゾンビっぽいもののうえに、魔石を吸収して変態するみたいだというのがあれを見てわかった。


「だったら、かいぞう……だよね」


 呟きながら心臓に手を振れると、ほんのわずかながら脈打つのを感じた。……というか、わたしから魔力をとってる?

 だったら、まずは一度魔力遮断……はダメ。なら魔道具の構造を解析しよう。


「≪解析パース≫ 解析結果をひょうじ、≪表示ディスプレイ≫」


 対象を心臓型の魔道具にあわせて解析を行うと、解析結果が目の前に表示される。

 異世界、しかも魔族が使用している言語でつづられた文字が表示されるけど……とりあえずは≪翻訳トランスレーション≫を使う。

 すると画面に表示された文字は英語に翻訳される。まあ、いくつかはこっちの世界の単語に合わせているから違和感があったりもする。

 だけど……。


「つくりはよくばりセット。一応は雑な仕事はしていないか……でも、いろいろと陰湿すぎる」


 表示された解析結果の文字、そこにはいろいろな効果が記されていたけど……目を引いたのは【特性吸収】【魔力吸収】【精神汚染】【肉体腐敗】【暴食】【爆発】だった。

 よりふかく調べてみると【特性吸収】は魔石を吸収することでそのモンスターの特性を吸収するようだったし、【魔力吸収】はわたしも味わったけど周囲の魔力を吸いとる。【精神汚染】は名前のごとく精神を汚染するから……まともな思考が出来なくなりそうだし、【肉体腐敗】はゾンビのように体が腐敗する。その代わりに傷ついた肉体は回復するみたい。

 そして【暴食】はいくらでも食べることが出来て許容量なんて気にしなくなる。

 さらに最悪なのは【爆発】だった。これはときが来たら突然爆発するという……一種の爆弾になるもの。爆発の威力は吸収した魔力の量で変化するみたいだった。

 ……この心臓量産されていたら、狂った雄たけびをあげながらモンスターを食べて魔石で特性を吸収した正気の無いゾンビたちが襲いかかってきて、突然自爆するっていう厄介すぎる爆弾になるよね?

 しかも爆発を防ごうと結界を使おうにも、魔力は吸収されていて使えないから盾を持っていないと大けが、または死ぬと思う。

 そんなのが向こうから送られて来たら笑えないから、対抗策を考えておこう……。


「でもそれはあとで考えることにして……、こっちをはじめないと――≪編集エディット≫」


 心臓に向けて魔法を唱えた瞬間、抵抗するかのようにビクッと心臓が動く。だけど、力で押しつぶすことにする。

 ……けど、何かすごく抵抗がされてる?


「……内部の問題の可能性が高い? ――≪検査スキャン≫」


 画面を横にずらして、もう一度心臓に魔法を当てると今度は内部構造が表示される。

 輪切りのような内部構造をパラパラと見ていく……抵抗の原因がわかった。

 心臓の魔道具の動力として使われているこのどす黒い魔石が原因。たぶん厄介なモンスターか魔族の魔石を使ってる? ……だったら、魔石を入れ替えることにしよう。

 そう考えながら行動しようとしたけど……交換しようと思っていた魔石のランクが劣ることに気づいた。


「だったら、2つの魔石を合わせてすこしでもランクをあげよう――≪融合フュージョン≫」


 人形から取ったテンペストタイガーの緑色の魔石、それとドラゴンの死骸から取った赤色の魔石。

 魔法を唱えると魔石はまるで粘土のようにグニャリとやわらかくなる。

 それをグニグニと両手で混ぜはじめると、緑と赤が合わさっていく。

 しばらく混ざり、カッと光ったら丸い黄色の魔石となった。


「……完成。何の魔石なのかは分からなくなったけど……問題なし。それじゃあ、今度こそはじめよう――≪置換リプレイスメント≫」


 黄色の魔石を心臓にあてながら、中の魔石と入れ替えるようにして魔法を使う。

 すると手にあった黄色の魔石が消え、かわりにどす黒い魔石に変わった。……けど。


「あ、これダメなやつだ――≪獄炎ヘルフレイム≫」


 手に置いた瞬間、わるい気配がいっきにしたから迷わず焼却。

 一瞬で魔石は灰になった。でも、まだわるい気配は消えないので……。


「――≪消去イレイス≫ ……浄化をおぼえたい」


 わるい気配を消し去ったけど、効率が悪いというか方向性が違う気がするから可能なら聖女の魔法を習いたい。

 そう思いながらわるい気配を消し去った場所を見ると……今にも消えそうな魂があった。

 あ、これ魔王の転生体の魂だ。よかった、ちゃんと残ってた。

 そのことにホッとしていると、魔石を入れ替えた心臓がビクビクと動いてから、画面に表示されていた文字がゆっくりと浮いてきた。

 うん、魔石を入れ替えたことで魔道具の権利はわたしになった。これでこの魔道具の効果とかの編集ができる。

 こんどこそレッツ魔改造。


 ……とりあえず、要らない効果は抹消。

 中に含まれた【爆発】【暴食】【精神汚染】はそれに該当するから抹消。

 【肉体腐敗】は編集で……基本的に強靭だといいし【肉体強固】に。

 【吸収系】は【特性吸収】【魔力吸収】だけど……吸収効果を失くそう。

 でも何がいいかな。


「……だったら【特性吸収】は【特性模倣】に。【魔力吸収】は【魔力収集】にしておこうか」


 呟きながら、文字を動かしながら編集を行う。文字を動かすたびに魔道具の効果は変わっていき、害がないものに変わっていくのが感じられる。

 ついでに気づいたけど、魔道具自体の色もどす黒かった感じが段々と心臓っぽい色にかわっていってるし……。やっぱり魔石が原因だったか。

 ……あ、そういえば魔王の転生体の魂がかなり弱っているし、【魂強化】もつけよう。

 でも、このままだとなんだか反抗されそうな気がするんだよね……。

 いちおうセーフティーをつけておこう。


「【隷属化】……っと、よし」


 かなり弱っている魂に向けて【隷属化】……以下の項目で登録する。


 ・主人只野シミィンを傷つけることは禁止。

 ・主人只野シミィンの命令は基本的には従うこと。

 ・主人只野シミィンのことをいかなる方法で教えようとすることを禁止。

 ・基本的には主人只野シミィンとの敵対を禁ずる。


 それらを書き込み、誰にも見えないようにする。……同じものを魔道具にもつけよう。

 それらを行い、魔王の転生体の魂を魔道具の中にいれるとゆっくりと体に定着していくのが視える。


「よし、オッケー。あとは回復させようと思うけど……これにしておこう」


 倉庫をあさり目的のものをとる。いろいろと穴が開いていたり、血が無くなってたりするから回復魔法じゃむりだし、急激な回復も厳しいと思う。

 だから取りだしたのは、むかし師匠がくれたエリクサー。前の世界で使わずにいたもののあまりだそうだ。

 それのふたを外して、口の中に中身をいれる。

 半開きの口だったから溺れるような感じだけど、口に入ったから問題はなし。


 すると、エリクサーを体内に入れた彼女の体が……ゆっくりと回復しはじめた。

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