3-3.知らぬ間にできた守る会と追い返されるあれ

 昨日は体力テストで疲れた。

 クラスメイトに、いろいろともんくを言われたけど、疲れてたからうまく返事ができなかった。でも、わたしが迷惑をかけていたから……イジメとかじゃない。

 けど、すがおを見られたのは……失敗した。


「どうしようか……、家じゃなかったから……」


 靴を履きかえながら、呟きつつ教室に向けて歩く。

 ちかくからあれの気配がするから、気づかれないように見ているのがわかったけど……それもあって気分がわるくなる。

 あれを連れて教室に入るとまたいつものようにへんな視線をむけられたり、舌打ちをされるんだろうな。

 そんなことを思いながら、わたしは教室の前にたどり着くと扉を引いた。


「……おはよう」


 小さく挨拶をすると、クラスメイトからの視線がきた。どうじにあれが教室前のろうかに立ったみたいで、視線がそっちに向かうのが見えた。

 はあ、本当……いいかげんにしてほしい。

 そう思っているとガタッと立ち上がる音が聞こえ、そっちを見るとギャルグループの3人が立ちあがっていた。

 昨日も体力テストがおわったらもんくを言われたから、またもんくを言われるのかな? そんな風に思っていると……3人はズカズカと廊下へと出ていった。

 え? わたしのところにくると思ってたら、あれに近づいて行った。なんで?


「ちょっとアンタ! いい加減、教室をジロジロ見るのやめてくれない!?」

「うぇ!? な、なんだよ突然!? ボクに何か用なわけ?!」

「只野ちゃんが迷惑してるんだよ! いい加減、自分がストーカーだって気づけっての!」

「ス、スト――!? ち、違うよ! ボクはストーカーとかじゃな――」

「てか、先生に言わせてもらうわ。それが無理ならそれよりも上の人に接触して、言う!」


 あれに向けてギャルグループがつぎつぎと苦情をいう。その言葉にぜんりょくで否定をしてるけど、あれはいいかげんにしてほしい。

 そう思っていると助けてというようにあれが教室の中に飛びこんできた。ふつうに来ないでほしい。

 そんな願いもむなしく、あれはわたしの席のまえに立つとお願いするように顔をちかづけてくる。その顔にきぶんがわるくなる。


「シミィンちゃん! ボクはストーカーじゃなくて、キミのことを見守っているだけだって説明してよ! ボクらは仲間なんだから助けてよ!!」

「……なかま、ちがう。いい加減、まいにち見られつづけているの、うっとうしい。じゃま」

「が、ががーーん……。じゃま、邪魔って、言われた……。え、ボクが? 勇者なのに? え……じゃま?」

「ほら、シミ――只野ちゃんが邪魔って言ってるんだからもう来るなよ!」

「そうだそうだ。出てけ!」

「出口はあ……、あちらになっていまーす!」


 あれを追いかけてギャルグループもわたしのまわりに近づいて、どなる。

 そして窓のそとをはじめに指差したみたいだけど、それはひどいと思ったみたいで廊下をゆびさした。

 ごねる。そんな予感がしたけど、あれはゆっくり立ちあがると……フラフラと出て行った。

 それから1分ほどでチャイムが鳴り、石川先生が教室に入ってきた。


「おー、みんな揃ってるかー? っと、どうしたんだ?」

「「「なんでもありませ~ん」」」


 首をかしげる先生をむしして、ギャルグループはそれぞれの席にもどっていく。

 そんな彼女たちに口出しをするのもと思ったみたいで、気にしないことにしたようで話を進める。


「そ、そうか。まあ、悪いことじゃなければ良いけど……それじゃあ、朝の朝礼を始めるぞ、日直―」

「きりーつ、れーい」

『『おはようございます』』


 にっちょくの号令で立ちあがり、頭を下げて席にすわる。

 そこでようやくわたしも考えるよゆうが生まれたけど……もしかして、助けてくれた?

 そう思いながら、石川先生が退室してからつぎの授業までの先生が教室に入ってくるまでの間にチラッとギャルグループの3人をわたしは見た。

 ギャルグループは仲間うちで席が近いから開いている時間でぺちゃくちゃと話しているのが見えた。

 ……気のせい? そう思いながらも、準備として机の中からいち時間目の授業の教科書をとりだし、ノートを広げて先生が来るのを待っていた。


 ちなみにこの日のおひる、食堂でごはんを食べようとしていたらわたしを囲むようにしてギャルグループが座った。

 しかもあれがはなれた位置で毎日うどんやラーメン、カツどんとかどんものとかを食べながらわたしを見ていたのを防ぐように座ってくれた。

 ……なんというか、ボディーガードされてる?

 そう思いながら、おひるごはんを食べた。……ナポリタン、おいしい。



 ◆ 生徒会長視点 ◆


「うああああ~~~~! シミィンちゃん分が足りないよぉぉぉぉ~~~~!!」

「貴女はいったい何をしていますのよ」


 わたくしが呆れながらベッドの上でゴロゴロを転がる四夜さんを見てアキれます。

 これがわたくしの中にステイするナイスミドルな騎士のおじさまとともに旅をしたという勇者のリンカーネイションした姿だなんて信じられませんわね。

 そう思っているとゴロゴロしていた四夜さんがマクラを顔に当てながら止まります。


「くんかくんかすーはーすーはー、ふぁ~ナイトのにほい~~♪」

「ちょ!? 何をしていますの!?」

「あいたっ! もー、いきなりなんだよー!」

「なんだよはこちらのセリフです! 何をしていますのよ!?」

「ナイトのマクラのにおいをかいでるんだよ! 良いシャンプー使ってるね!」

「そういうことを聞いているのではありませんわよ!!」

「も~、照れなくても良いのにさ~。ボクがナイトのにおいを嗅ぐけど代わりにナイトはボクのにおいが染み付いたマクラで眠ることが出来る。Win-winってやつだよね!」

「まったく違いますわ! というかにおいを嗅いで興奮するなんて、変態のすることではありませんか!」


 まったく、四夜さんってば! もう、もう!

 プンスコしているとわたくしの口はわたくしの意思とは関係なく声が出てきます。

 それはわたくしの中にステイする騎士のおじさまの意思だ。


「勇者殿、いささか問題行動がすぎますぞ?」

「あはは、ごめんね騎士! でもさぁ、ボクのストレス解消にも協力してよ!」

「協力はしますぞ? もちろん体を動かすタイプでの協力なら」

「え、良いの! じゃあ、ベッドの上にカモーン、かもーん! 熱い一夜を過ごそうよ!」

「HAHAHA、おかしなことをおっしゃっておりますな。無抵抗で殴られようとするとは自虐が過ぎると言っておるではありませんか」

「ちぇー、騎士ってば本当に勝負で汗をかこうって気満々だね」


 わたくしの声で老年の男性の喋りかたをするというのはすこし違和感を感じますが、わたくし以上に四夜さんの扱いが上手なのでとても頼りになります。

 ちなみにおじさまの意思で体は立てかけていたシールドを手に取って、それを使ってベッドの上で寝転がりながら両手を広げる四夜さんを殴ろうとしているのは前世の男性だったときと同じ扱いなのでしょう。

 そしておじさまの対応に子供のように頬をプクーと膨らませながら四夜さんは起き上がりました。

 ようやくまともに話をするようになった。それを理解したみたいでおじさまは主導権をわたくしに返してくれました。


「ありがとうございます、おじさま」

(はっはっはっ、なんのなんの。このバカはナイト殿でも手を焼きますからなぁ!)

「それで。どうしてボクを部屋に呼んだの? もしかして、ボクの体を夜のお供に――うわっ、ちょ! 冗談。冗談だから!!」

「冗談ならふざけた真似はしないでくださいね? はぁ……、それで話というのはですね。四夜さん、最近あなたへの苦情が各所からたくさん届いてますよ」


 呆れながらわたくしは本題を口にする。

 彼女が問題行動を起こすのは入学してからいつものこと。気に入った女子に声をかけたり、気に入った女子を尾行したり、かつての仲間だと思う人物に何度も声をかけたりというのは当たり前。更には同じハウスに暮らすわたくしたちの部屋のタンスを漁って下着を……ってあれ、ゲームでの勇者な行動ですがリアルだとどう見ても変態の異常者ですわよね。

 けれど最近はとある新入生にのみ迷惑をかけすぎているのが看過できませんでした。

 というか、学年主任の先生からの報告なので簡単な問題ではないです。


「苦情? べつに何時ものことだけど、大丈夫じゃないの?」

「ええ、い・つ・も・の! ことですが、いくらなんでも毎日毎日教室の中を覗きつづけるのはダメでしたわ。そして、半田さんに夜は彼女の家を監視するなんてやりすぎじゃありませんの?」

「なんでさ! シミィンちゃんが賢者だって証明するために必要な行為だよ!」


 語気を強めに言ったとしても、四夜さんは聞く耳を持ちません。

 わたくしに知らせないまま半田さんにこっそりと監視を依頼するなんて半田さんにも悪いですし、なにより巻き込まれている只野さんに申し訳がありませんでした。

 というか1週間以上、家の監視を行っているのですから、只野さんが賢者さんでないのは明らかではありませんか。

 ウトウトする半田さんを見て、トレーニングで疲れているものと思っていたらまさかのストーキングの片棒を担がされていただなんて、呆れてものが言えません。

 まあ、それをあの方に知らせてもらうまで気づくことがなかったわたくしもわたくしですが……。まあ、とにかく。


「只野さんが賢者さんかは分かりません。ですが、半田さんも巻き込むのはいただけません。先生がたからも注意を受けたので、四夜さん……生徒を守る生徒会長として命令します。今後一切、2年の優木四夜さんは1年の只野シミィンさんに接触することを禁じます」

「うええぇっ!? ちょ、ちょっと待ってよナイト! シミィンちゃんが賢者に違いないのにそうするなんてあんまりだよ!!」

「謹慎や停学にならないだけマシと思ってください。今回は口頭のみですが、後日学校の掲示板に掲示することで全校生徒に通達及び正式な書面として四夜さんへと提出させていただきます」

「ひ、ひどい! そんなの横暴だよ!! 聖女に言いつけてやるから!」

「その方の指示なので問題はありません」

「そ……そんなぁ」


 わたくしの言葉にがっくりと肩を落としながら、四夜さんはマクラを置いて部屋から出て行きます。

 哀愁漂うその姿に悪いことをしてしまったような気がしてしまいますが、たまには反省をしてほしいと思います。まあ、何事もなければよいのですが……。

 そう思いながら開けたままの扉を見て、四夜さんが置いて行ったマクラを――って、嗅ぎませんわよ!? か、嗅ぎませんからね!!

 心でそう訴えかけ、その日はよく眠ることが出来ました。

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